とうとう俺も幻覚を見始めたか
「ファクション」とはフィクションとノンフィクションの中間という意味です。羽咲くんが無事に元の世界に帰ったとしても、説明しても作り話にしか見えない「ノンフィクション」と頭をかかえる姿を思い浮かべながらタイトルを考えました。実際はフィクションです(笑)
少し前まで俺は夏休みであるというのに自分の部屋に篭り、惰性でRPGをしていたはずだった。夕日が眩しかったのが印象に残っている。しかし、今周りを見渡すとどういうことだろう。
至る所に生える草、木々が生い茂るこの謎の空間が広がっている。空は青い。外にいるはずだが、やや寒いくらいである。俺が夢を見ているとしてもここまで寒さを感じるだろうか・・・それとも。
「とうとう俺も幻覚を見始めたか」
そう呟くのも虚しくなってくる。周りには誰もいないので、返してくれる言葉なんて存在しない。ふと冷静になり、自分の格好をみたらいつもの部屋着とは全く違うものを着ていた。
「RPGの主人公が着そうな『いかにもな服』を着ているのは何故なのだろう」
「それはですね!あなたが勇者さまだからです!」
「??」
どういうことだ、この白いもじゃもじゃした狐ともウサギとも犬とも取れそうな謎の生き物は・・・
「申し遅れてしまいました。私はピピと申します。レイさまをお探ししておりました!」
「ピピさん、レイとは俺のことですかね」
まさか俺ではあるまいと思いたいが、先ほどのセリフを考えてみるとどうも俺らしい気がしてならない。
「その通りです!聡明な勇者さまのようなので、説明の手間が省けそうで嬉しい限りです!」
「ちょっと!この世界のことは全く知りませんし、そもそも俺はレイって名前じゃないです」
ピピさんは驚いた顔をした。どちらかといえばこちらが驚きたいのだが・・・
「ええ?!まさかレイさまはこの世界の記憶がないと?」
「まあ、そういうことなのですが・・・しかも、俺はこの世界の住人ではありません。」
「はっ?!」
こちらもものすごく驚きたい気持ちである。この目の前の未確認生物が人の言葉(しかも何故か日本語)を喋っているのは学術的にも面白いのではないだろうか。世紀の大発見とノーベル賞が取れそうである。
「自己紹介をさせていただくと、俺の名前は"羽咲 雅文"と言います。間違ってもレイとは言いません。」
「羽咲さんですか。」
「出身は日本というところです。しかし、この『おかしな世界』の言語が日本語でよかったです。」
「おかしな世界ってひどいです!そもそも羽咲さんはこの世界で育った人間なのですよ!」
何を言っているのだろう。俺は日本の東京で生まれ育ったというのに、俺がこのような田舎・・・いや、自然溢れる豊かな23区外みたいなところに住んだことはない。
「いや、俺にはそんな記憶がないから・・・・すみません・・・」
「はぁ、先行き不安になりました。」
「俺もです。どうしてゲームをしている途中でこのような世界にいるのだろう。」
ため息をつくと、白い息が空へ登っていく。非常に寒いので、よく自分が凍死しなかったものだと思う。
「この世界は冬なのですか?」
「そうですよ!とある事情で万年冬の状態になりました」
あ、これはそういう理由があるから世界を救えというニュアンスにしか見えない。避けるべきイベントを避けられなかったらしい。
「・・・地雷を踏んでしまったような気がします。」
「その通り。貴方さまにはこの世界を救うべく、是非とも冒険へ旅立っていただきたいのです」
「まあ、このイベントは強制イベントでしかも断ることができないことは容易に想像できましたよ。行きましょう」
そういうとピピさんの顔は子供のように無邪気な笑顔が出てきた。眩しいといっても過言ではない。
「さすがは聡明な勇者さま!ありがとうございます!」
こうやって調子の良い言葉を送り、俺に「世界を救わせる」という大きな仕事を押し付けようとしてくるタチの悪いもじゃもじゃだこと・・・俺には断る権利がなさそうだし、ここで断ったら元の世界へ戻る前にの垂れ死んでしまいそうである。