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僕達の七夕戦争  作者: 小月 恵
2013/07/07
7/14

神無 匠 Ⅱ

俺は悩んでいた。


きっかけは昨日の夕方、クラスメイトの倉田くらた水月みずきに言われた言葉。

「あのね、私、匠君のこと、好きです」



太陽が照りつける公園のベンチで、彼女は微笑みながらそう言った。


そのあと、どんな話をしただろう。

たしか、猫が好きだとかどうとか……

正直あまり覚えていない。



最初の告白で俺の頭の中はいっぱいいっぱいだった。



夕暮れ時、

「返事はまた今度でいいから。今日はありがとう匠くん。楽しかった」

倉田はそう言って去っていった。



部屋の中で二日連続悶える俺。


(どうする俺!倉田めちゃめちゃ可愛かったぞ?あんな可愛い子に告白されるなんてもうないかもしれない、これが最初で最後のチャンスかも知れない。宇佐木うさぎより可愛いかも…いや!それはない!あの宇佐木だぞ?いやでも倉田も……)


「うがぁあああああああ!俺はいったいどうしたらぁああああああ!」


何度も同じ思考ばかりが頭の中を堂々巡りしている。




―――――――ちゃーららーちゃらららーちゃらららららぁーらー♪


昨日と同じ音、再び俺の思考を中断させたのは携帯の着信音。


昨日のこともあり、俺は恐る恐るかかってきた番号を確認する。

電話の主は、親戚の家に出かけている母からだった。



「もしもし、匠あんた今家にいるかい?」

「いるけど?」


「ちょっとさ、またりんちゃん預かってくれないかい?」


神無凛りん。近所に住んでいる親戚とうちは仲が良く、俺はよく従妹であるこの少女の面倒を見ていた。

まだ幼稚園に上がって間もない凛は純粋で可愛らしかった。

もちろん宇佐木や倉田とは違った意味で、だ。


「ん、別にいいよ」

「じゃあ今から連れてくから。二、三時間頼むよ!」

「あいよ」




しばらくすると、母が従妹とともに帰ってきた。


「じゃあ私は買い物行ってくるから、頼んだよ。怪我させないようにね」

「はいはい。早く行ってこいよ」



母はそう言うとすぐに凛の母親と出かけて行ってしまった。

俺は一生懸命靴を脱いでいる凛を温かい目で見守り、しっかり脱ぎ終わったのを確認すると、部屋へ戻った。


「ねーねーたくみおにーちゃん。なにして遊ぶ?」

凛はもはや慣れた様子で俺の部屋まで付いてくる。


俺が座ると、その膝の上へちょこん、と座った。



「そうだなぁ…凛は何がしたい?」

「かいじゅうごっこ!」

「んー?かいじゅうごっこ?」

「凛がかいじゅうで、たくみおにーちゃんがヒーローね!」

「普通逆じゃないのか…?」



凛と遊んでいる最中も、俺の頭の中は昨日の出来事でいっぱいだった。

おかげで”かいじゅう”さんから何度もお叱りを受けてしまった。



「ぎゃー!やーらーれーたー!」

「がおー!かいじゅうつおいー!」



最後はヒーローが怪獣によって敗北し、ごっこ遊びは終了した。


真夏の室内で汗をかいた俺と凛は交代でシャワーを浴びると、クーラーの効いた部屋でアイスを食べる。


「おいしいね、アイス」

「あぁ…」

「おにーちゃんは何アイスが好き?」

「あぁ…」


(俺は…どうしたらいいんだ……?)


「ねぇ!なーにーあーいーすー?」

「あぁ…」


(宇佐木か…倉田か…)



「もう!聞いてないでしょ!!」


ガスンっ!!!



ボーッとしていた俺の脛に凛のパンチが炸裂。

いかに幼稚園児といえど脛への一撃は大きかった。


「ぐおぉおおおお……」


油断していた俺は脛を押さえて部屋を転げまわる。


「何なやんでるの!凛に言ってごらん!」

「り、凛はまだ幼稚園だろ?わからない……」

「言ってごらん!早く!」

「だから……」


「早く!」



ベットの上で腕を組む凛は頑として諦めなかった。


「んー、まぁ、お兄ちゃんは好きな人がいて、でもお兄ちゃんのことを好きな人もいて……」


きっと分からないだろうと思いながらも、全て話してしまった。

凛は静かに聞いていた。


「で、おにーちゃんはどうしたいの?」


凛が聞いた。


「俺は……」


「凛はおにーちゃんのこと大好きだよっ。だから一緒にいたいの」


「大好きだから、か」


「うん!おにーちゃんも大好きな人と一緒にいられたらいいね!」


「そうだな。ありがとう凛」


「いいよっ✩」




しばらくして、凛は親に引き取られて帰っていった。


俺は、夕日が差し込む部屋で一人、携帯をとる。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



日が沈み、公園には心地いい静けさが広がっていた。


「こんばんわ、匠くん」



昨日とは違ったパンツ姿、黒いホットパンツに薄いカーディガン。

今日も倉田は可愛らしかった。


「来てくれてありがとう。昨日の返事を、しようと思って」

「うん」


公園に俺たち二人以外の姿は見受けられない。

点在している街灯がふたりをほのかに照らしている。


「正直昨日はびっくりした、突然告白されたこともだけど、倉田が、すっごく可愛かったから」

「えへへ……」


照れくさそうに笑う倉田は、やっぱり可愛かった。

俺はそんな倉田の顔をしっかりと見据えて言う。そうしないと失礼だと思ったから。


「倉田はすごく可愛いよ。でも、ごめん。倉田とは付き合えない」


「…………」


「俺は、宇佐木が好きなんだ。この気持ちに、嘘付きたくないから」


「…………そっか。」


「うん」



顔を伏せた倉田の表情を伺うことはできない。

でも俺は、倉田の方を見たまま次の言葉を待っていた。


「ごめん、倉田」


「謝らないで」


沈黙が流れる。草むらでは鈴虫が愛の歌を奏でていた。



「うん。もう大丈夫」


そう言って顔を上げた倉田の目は、暗い街灯の中でもわかるぐらいに潤んでいた。

でも、それを零さないように必死にこらえているのもわかった。



「しっかり言ってくれてありがとう。伝えてくれて嬉しかった」


「うん」



俺は、こんな時、なんて言っていいのかわからなかった。

何を言っても、倉田を傷つけてしまうと思ったから。



「ごめん、今日は帰るね。また学校で会ったら話しかけてもいいかな?」


「もちろん!今日はごめ……いや、ありがとう」



「じゃあね匠くん。おやすみ」



最後の最後、俺は倉田の顔を見続けることができなかった。

彼女の頬を伝う何かを見てはいけないような気がしたから。





公園のベンチに腰掛ける。


俺は下を向いていた。何故か俺の足元には大粒の涙が落ちている。



告白されるのがこんなに辛いと思ってなかった。



俺の漏らした嗚咽を愛の歌が包んで空へと還してゆく。




空には満天の星空が煌めいていた。





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