神無 匠
俺は悩んでいた。
「うぅ……うぅう……」
親友二人に大見得を切って食材を探して来いといった手前、ハルの言うように自分も言いだしっぺとして、それなりにすごいものを見つけなければならない。
「すごいもの~!いでよぉぉぉおおお!」
一人の部屋で叫んでみても何も起きない。
「どうしようどうしようどうしよう!!」
すでに半日が過ぎている。期日は連休明けの学校、つまりは三日後の七月九日。
それまでに浮かばなければ二人にからかわれることは必至だろう。
無い脳みそをフル回転させて考える。
―――――――ちゃーららーちゃらららーちゃらららららぁーらー♪
俺の思考を中断させたのは携帯の着信音。
表示されている画面を見ると、そこには見覚えのない番号。
「はい…もしもし…?」
俺は警戒しながらも電話を取る。
「も、もしもしっ!神無くん…ですか?」
電話口の声は女の子だった。それも、どこかで聞いたことのある声。
「そうだけど、君は誰?」
「あっ!ご、ごめんなさい!私、倉田水月って言います。同じクラスなんですけど…わかりますか…?」
「あ!……あぁ!倉田さんか!」
聞いたことのあるはずだ、倉田水月は高校入学からずっと同じクラス、電話番号も入学してすぐに交換したが登録するのを忘れて、そのまま一度も連絡したことなどなかったからそのまま。
倉田はクラスでも目立たない女子だった。おとなしく、休み時間も自分の席で本を読んでいることが多い。
三つ編みのおさげにメガネ、典型的な文学少女、って感じだ。
いつもふざけて遊んでいる俺とは世界が違う。
「え…と。ど、どうも」
相手はわかったが、何の用事なのか全くわからない。
「きゅ、急に電話なんちぇ………なんてしちゃってごめんなさいっ」
「それは大丈夫だけど、どしたの?珍しいね」
話したこともほとんどない。
向こうはいつも騒がしい俺を迷惑がっていると思っていたから。
「あの……今から、会えないかな」
「え???」
いよいよ本当にわからない。
倉田が俺にいったい何の用事があるのか、予想もつかなかった。
「え、えと…」
どうにかして断ろう。
俺が作戦を思案していると、倉田はさらに慌てた様子になって言う。
「ほんとごめんねっ!急に会おうなんて、無理だよね。迷惑だよね。ごめん」
「いや!そんなことないって!」
思わず言っていた。
……やっちまった。これは断りずらい。
結局俺は十五時に近所の公園で待ち合わせる約束をしてしまった。
理由は結局教えてもらえなかったし、カレーの具材は思いつかないし……
俺は待ち合わせの時間までカレーの具材を考え続けたが、浮かんだのはしょうもないアイディアばかりだった。
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待ち合わせの五分前、俺が公園へと到着すると、休日ということもあってか、園内は小さい子供とその母親でにぎわっていた。
倉田はまだ来ていない。
俺は人ごみから離れ、ちょうど木陰になっているベンチへと座って待つことにした。
「ふぅ…」
待ち合わせの時間、十五時。人ごみの中から誰かが近づいてきた。
一瞬目を上げて見たが、そこにいたのは見たことない女の子。きょろきょろと誰かを探しているその子はかなりかわいかった。
俺がその子のほうを見ていると、女の子は俺に気付いた様子で近づいてくる。
「神無くん!ごめんね、ちょっと遅刻だったかな……」
「え……?もしかして、倉田?」
学校と見違えるほどに倉田は可愛かった。
おさげをおろし、コンタクトにした倉田はそんじょそこらのタレントよりもかわいい。
淡いピンク色のワンピースも彼女の白い肌を際立たせるようにすごくよく似合っていた。
「神無くん?どうしたの?」
思わず見とれていた俺に倉田が首をかしげる。
「ご、ごめん!ちょっと驚いて……よ、横座る!?」
倉田は俺の横にちょこんと座ると、かわいらしく手を前で組む。
「今日は来てくれてありがとう。神無君」
「い、いや…全然大丈夫だけど……どうしたのさ」
俺は倉田の変化ぶりに驚いていた。
いまだに横にいる女の子があの倉田だと信じられない。
「あのね、私……」
倉田はゆっくりと俺のほうを向いて微笑んだ。
「…匠君のこと、好きです」
俺の頭は混乱した。
横には可愛い女の子がいて、しかもその子は俺のことが好きで……
神無匠、初めての告白は真夏のベンチだった。




