表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の七夕戦争  作者: 小月 恵
2013/07/06
3/14

長月 悠

目覚めは最悪だった。


「おいはるか!いつまで寝てんだ!」



親父の声に、俺はゆっくりと体を起こす。

家の最上階、まぁ、二階までしかないわけだが……


俺はあくびをしながら部屋のドアを開け、外へと出る。


「おい!起きたらとっとと店手伝え!ちゃんと着替えて顔洗ってこいよ!」

「わかってるよ、怒鳴るなよ!」



俺は、親父が嫌いだ。


うちは、小さなレストランを経営している。周囲にライバル店がないおかげか、まぁまぁ繁盛しているみたいだ。


俺に言わせれば、味も、見た目も、イマイチ。



俺はしぶしぶながらも支度を整え、店舗である一階へと階段を降りていった。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



店の中は混雑していた。ほとんどが見知った顔、常連客だ。



「おっ!ハルか。手伝いなんて偉いなぁ………」

「ハル君、おはよう」

「ハルじゃないか!今日は学校お休みか?」



声をかけてくる常連客に返事を返しながら、俺はエプロンと帽子をかぶり、キッチンの中へ。



「遅いぞ悠」


キッチンでは、親父がフライパンでケチャップライスを作っていた。


「うるせぇな。手伝うだけマシだろ」



俺は、玉ねぎを数個、手に取ると包丁で刻み始める。

何をするのか言われなくてもわかっていた。


中学に入る前からキッチンに立たされ、すべての動きは体に染み付いている。



俺は、そんな自分も嫌いだった。




人は、未来が見えないのが嫌いだという。


そんなのは、嘘だ。


俺は、未来が見えてしまう。それも、明確に。

だから嫌なんだ。


このまま高校を卒業して、店を継いで、そして、そのあとは………


「おい、手。止まってるぞ」



おやじから叱咤され、再び手を動かし始める。

親父はいつも店のことしか考えてない。それも嫌いな理由の一つだ。



いつだって店、店、店、店。

母さんが死んだ時でさえもそうだった。


もともと病弱だった母さんが入院するようになったのは、俺が中学二年の頃。

俺は毎日のように、病院に行った。


母さんが、大好きだったから。


でも、親父が病院に来るのは閉店後の毎晩九時。

母さんが死んだ時でさえも、親父が来たのはきっちり九時だった。




「悠、こっち来い」


昼のピーク時間が終わり、客の数が落ち着いてきた頃、親父に呼ばれた。

何をさせられるかはわかっていた。


「今日はオムライスだ」


メニューの練習。もうあきあきだ。


「なぁ、親父」


俺は手を動かしながら口を開く。


「ん?」


親父は俺の動かすフライパンを、さらに言えば中で動いているチキンライスから目を話さずに聞き返してきた。


「あの、さ…………」


口が乾いている。俺は何を言おうとしたんだ。


「…………やっぱなんでもない」


「なら、早く作れ。焦げるぞ」


言えなかった。それは、俺自身に迷いがあるからだろう。

俺は店を継ぎたいのか?それとも違うことがしたいのか?



料理は好きだ。俺が作った料理をおいしいと言ってくれる人もいる。

親父が店を大切にしてるのもわかってる。



でも、俺はそれでいいのか?

この店でコックをすることが俺の本当にやりたいことなのか?大学へ行ったりしたらもっと自分にあった夢が見つかるんじゃないのか?




俺は自分がわからなかった。

ただ、頭の中を同じようなことがグルグルとめぐり、消えて。また現れてはめぐり始める。




そんなことを考えて作っていたチキンライスは、少し焦げてしまっていた。



親父に怒られる声も、どこか遠い世界のことのように感じる。



俺は、焦げて黒くなったフライパンをじっと見つめていた。



その黒は、まるで俺の心を覆うように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ