2037/07/07 Ⅱ
同窓会を終えた悠は夜道を歩いていた。
横には酔いつぶれた匠を素面の純斗が支えるようにしてついて来ている。
「ミトいいのか?里緒ちゃん、明日にはまた出発なんだろ?」
「里緒よりお前らと会う方がずっと少ないからな。許可はもらった」
純斗はずり落ちる匠を持ち直しながらも笑顔を見せた。
三人はほどなくして悠の経営するレストランへ到着する。そこはかつて「SSC」が生まれた場所。
「ふぁ…?ここどこだ…」
「俺の店、変わってないだろ?」
店内は昔の姿をそのまま残していた。茶色いテーブルにはところどころシミが残り、床はタイルが剥がれている場所さえあった。
「来月改装するからな、最後にもう一度お前らとここで料理したかったんだ」
使い込まれた厨房に備えられた調理器具はどれもピカピカで、悠の料理に対する姿勢が現れているように見える。悠は冷蔵庫を開けると、いくつかの食材を取り出した。
「今から作るのか?」
「おれ……ふあぁ……もうねむい……」
時刻はすでに夜中二時、いささか料理を始めるには遅い時間だったが、悠は構わずに野菜へと包丁を入れ始める。
「お前らはそこで待っていてくれればいいよ」
切られていくのはナス、トマト、ズッキーニ、パプリカなど、新鮮な夏野菜、そして霜降りの牛肉。
「なぁそれって……」
「ルーは作ってあるからすぐできるよ。懐かしいだろ?」
店内にカレーの匂いが充満し始める。
それは遠い昔に嗅いだ事のある匂い、三人にとっての青春の匂い。
「これ、SSCの匂いか……?」
寝ぼけていた匠も目を覚ます。
「できたぞ~」
「「おぉっ!!」」
深夜三時、三人しかいない店内にスプーンを動かす音だけが響く。
食べ終わった匠は満足したように大きく息を吐いた。
「やっぱうまいなSSC、これ食うためならハルの店通う!」
「馬鹿言え、どんだけコストと手間がかかると思ってんだ、少なくとも今は俺しか作れないだろうしな」
「タクは高校から変わらない。バカのままだ」
「んだとミト!」
深夜にも関わらず、古臭い洋食店は騒がしかった。
「近所迷惑になるかな……」悠はそんなことを考えたが、二人を止めるようなことはしない。
昔から変わらない友人は、ただそこにいるだけで自分を助けてくれるものだと知っていたから。
「ハル!カレーまだ残ってる?」
「まだ食べるの?すごいね」
「じゃーミトは食べないのかよ?俺は食うぞ?」
「食べるよ、なんかタクに負けたみたいになるのは癪だしね」
「じゃぁ、俺も入れて三人分な、ちょっと待ってろよ」
カレーの匂いが充満する。
あの、一心不乱にカレーを作っていた頃と同じように。
あの頃のような自由はないかもしれない。
それでも今ある物を大切にしようと思う。
こんなことを言ったら、タクとミトに笑われるだろうか。
「はいよ、SSC!!」
それでも、言ってみよう。
彼らは親友なのだから。
カレーの繋いだ友情は、何十年過ぎようと色褪せることはなかった。
それは、これからも変わらないのだろう。
彼らは「SSC」団員はわずか三名。
無口でぶっきらぼうなミトと、明るくちょっとバカなタク、その二人をまとめるようにハルがいる。
高校時代となんら変わらない三人は、今夜もバカをして過ごす。
友人たちの大切さを噛み締めながら。




