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僕達の七夕戦争  作者: 小月 恵
エピローグ
13/14

2037/07/07

居酒屋の中は、人でごった返していた。

悠はどうにか同級生の顔を見つけると、案内しようとした店員に断りを入れ、そのテーブルへと向かう。


カレーはやはりこのテーブルだった。

”特性ボ○カレー”なる物をほおばっているのは匠。口いっぱいにカレーを入れた匠は、悠を見つけると持っていたスプーンを振り上げた。


「はうっ!!ほっちふわれほっち!!ふみ……ゴックン……ミトもいるぞ!!」

「お前、ちゃんと食ってから喋れよ、何言ってるかわからなかったぞ?」


悠は匠の横に腰を下ろす。

その間に匠は再びカレーをかきこんでいた。


「タク、昔っから本当にカレー好きだよな」

「あぁ、はってふまいひゃん…な、みと!」


「タクはなんだってうまいって言って食べるじゃないか」


純斗は落ち着いた表情でグラスを傾けている。

オレンジ色の液体は何かのカクテルのように見え、悠は注文をすべくテーブルに置かれたボタンを押す。


「ミト、それ何?カシオレ?」

「オレンジジュース」


「は?」

「こいつ酒飲めねぇんだってさ、三十過ぎのおっさんにもなってだらしねぇよな!」

「ビール一杯でそんな風になるタクよりはマシだよ」


匠の顔は赤く、酔っ払っていることは明白だった。同窓会の出席者は20名程、そのほとんどはすでに出来上がってしまっているようだ。

悠は絡んでくる匠をかわすと近くの同級生と挨拶を交わす。その中に、一際目を引く女性が座っていた。


「宇佐木…か?」

「まぁ!ハルくん!久しぶりね!」


宇佐木は三十を超えても可愛らしかった。

高校卒業後、本格的に芸能活動を開始した宇佐木は、そののんびりしたキャラと物怖じしない性格で、一時とてつもない人気を博し、もはやテレビで見ない日はないほどのタレントになった。

しかし宇佐木はそんな人気絶頂の中、突如引退。理由は結婚。


相手は匠……ではなく、当時人気だった若手俳優だ。

若手俳優と人気タレントの結婚は一大ニュースになりテレビを賑わせた。



「ハルくん、まだお店やってるの?」

「あぁ、おかげさまで大繁盛だよ、次は九州に新しい店舗出すことになった」


結局悠は高校卒業後、調理専門学校へ進学。その後父親が経営するレストランを継ぎ、今に至る。

悠がオーナーを務めるレストランは、宇佐木がテレビに出ている間、事あるごとに宣伝したことと、その次々に入れ替わる創作料理により、瞬く間にチェーン展開、全国に支店を構えるまでになった。


「今度何かご馳走してねっ」

「俺が店にいるときに来たらなんでも好きなだけご馳走するよ」


「やった!食べ過ぎないようにしなくちゃ!」そうはしゃぐ宇佐木を見て、悠は苦笑いをこぼす。


「あ!ハル!あんた元気だった!?」


宇佐木の後ろからやってきたのは葉月、あの日宇佐木と一緒にカレーを食べた女生徒だ。

今彼女は世界の海を周り絶滅する生物を守る仕事をしている。家に帰るのは数ヶ月に一度、そして彼女は…


「あれ?うちの酒飲めないアホ旦那は?」

「向こうでタクに絡まれてるよ」


今、葉月の苗字は霜月になっていた。ミトと彼女は12年前に結婚した。

結婚式は盛大に行われ、ミトが珍しく緊張していたのはまだ記憶に新しい。


「危険な仕事なんだろ?よくミトにやめろって言われないな」

「ん、言われるよ。あいつ私のこと大好きだし。私が適当にあしらってるだけ」


葉月、改め霜月里緒は悪戯な笑みを浮かべた。

(ミトも大変なんだろうな……)

悠がそんなことを思っていると、里緒は悠の持っていた焼酎を奪って喉に流し込む。


「っかぁ!やっぱ美味しいね!うちのは酒飲めないからつまんないんだよ」


どうやら里緒も出来上がっているようだった。


「ハルさ、高校三年の夏のこと覚えてる?SSC事件」

「あぁもちろん、あんなの忘れらんねぇよ」


悠と里緒は遠くで純斗にうざがられる匠を見て笑う。

あのカレー事件にはある勘違いが隠されていたのだ


「ちょっともうやめてよ!そんなに笑うこと無いでしょ」


宇佐木は「カレーが上手だったら、付き合う」と言った。その言葉自体に偽りはなかった。ただ、これを聞き、噂を流した誰かは、その前後の会話を聞き逃していたのだ。


あの日、匠の告白を受けた宇佐木はオッケーをし、後日、匠をある場所へ招いた。

それは”職人カレー!素人カレー王は誰だッ!!”の収録現場。

宇佐木のあの言葉、正確には


 ■ ■ ■


ある昼休み


「今度、素人さんがカレーを作る特番があって、それに紹介者としてでることになっちゃったの…」


「え~!すごいじゃん!!」


「だから、カレー作るのが上手な人に付き合って欲しいなって思ってるの!」


「そんな都合良くいる~?」


「いないかなぁ?」


 ■ ■ ■


実はこのような会話が上下に挟まれていたのだ。

匠を含め多数の男子生徒が死に物狂いで勝ち取ろうとしていたのは”宇佐木と付き合う権利”ではなく”宇佐木の紹介で料理番組に出演する権利”だったのだ。


料理番組に出演した匠は見事SSCカレーを再現。……できずに最下位になった。

しかし当人にとってもはや順位などはどうでもよく、その顔には、ただただ宇佐木と付き合えないといった悲壮感だけが漂っていたという。


そしてその事実を知った悠以下その仲間たちはその番組を見て大爆笑。

しばらく匠のあだ名は”スパイシー匠”だった。



「何話してんだよ~うへへへ……」


酔っ払った匠が悠達の元へ寄ってくる。


「「よっスパイシー匠!!」」

「なっ!!!」


見事ハモった悠と里緒に匠は顔を赤くする。


「あ、俺、向こうでミトと飲んでくるわ……」

「「まぁまぁまぁ!座ろうかスパイシー君」」


「あぁああミトぉぉーー、お前の嫁何とかしてくれよぉー」

「無理。できたらしてるよ、ふぁいと、スパイシー」



同窓会の夜は更けていく。

その後匠がスパイシーネタでからかわれ続けたのは言うまでもない。

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