PM (前編)
昼過ぎ、タクとミトの二人は約束通り俺の家にやってくる。
ミトはともかく、タクまでも何処か落ち着いた、神妙な顔だ。
「さぁお前ら。約束どおり持ってきただろうな……」
厨房の中、鍋の前に立つようにしてタクが口を開く。
俺とミトはそれぞれ頷く。
「では、結果発表と行こうか………まずはミト!」
「いいよ」
ミトは背負ってきたワンショルダーのリュックから数本の小瓶を取り出す。
黄色、オレンジ、赤、白……
調理台の上がカラフルに彩られていく。出された瓶は計十三本。
「左からクミン・コリアンダー・カルダモン・オールスパイス・ターメリック・チリペッパー・黒胡椒・白胡椒・シナモン・フェンネル・スターアンス・ナツメグ・クローブ」
それぞれ指し示されながら紹介されたが、半分ほどは知らないスパイスだった。
料理している俺で半分知らないのだから、タクに関してはほとんどわからないだろう。案の定、タクの顔を見ると、ハテナマークがいくつも浮かんで口が半開きになっている。
「………食材じゃないと、だめだったか?」
俺ら二人が何も言えずにいると、ミトが心配そうに聞いてくる。
「ミ…ミト、それなんだ…?スパイス?」
タクがようやく口を開く。ミトもそれに対し「あぁ」とだけ頷く。
「ミト、それ使えるのか?」
俺もミトに聞く。胡椒類やターメリック、ナツメグなんかは俺も使えるが、カレーを作れるかと聞かれたら、それは無理だと答えるだろう。
「ん。勉強したから、できる」
それを簡単に言ってのける。これだからこの無口は侮れないのだ。
ミトができると言ったらできるのだろう。
「「お前、やっぱすげぇな……」」
図らずもタクとハモってしまった。
ミトは少しだけ、照れたような表情を浮かべる。そして俺のほうを向く。
「ハルは、何用意したんだ?」
それは俺の持ってきたものに興味があるというよりも、自分がこれ以上注目されるのが照れくさいといった表情だ。
俺はミトのその照れくさいような表情をもう少し見ていたかったが、仕方なく午前中試行錯誤して決めた食材を取り出した。
それは、ミトが持ってきたものよりも何十倍も大きな瓶。中身は…
「「………梅酒?」」
そう、梅酒だ。親父が作った自家製の梅酒、瓶の底には漬けられた梅がいくつも沈んでいる。
二人は不思議そうな顔で俺の方を見る。確かに普通の家庭のカレーに入れるような食材ではない。でも、ふとした気まぐれで入れてみたこの梅酒が意外にもいい風味とコクを出したのだ。
「あと、調理法も少し変えてみた。これは後で、な」
「ふっふっふ………」
少しばかり得意げになる俺の前でタクは不敵な笑みを浮かべる。
俺とミトの視線がタクの方へ。
「二人共よくやってくれた。想像以上だ……だぁがしかし!」
タクは目を閉じ、指をチッチッチ…と振る。
「俺の持ってきたこれらには敵わないぜ!」
タクは巨大なリュックの中からビニール袋を取り出す。
三人でその袋の中を覗き込むと、その中にはナス、トマト、ズッキーニ、パプリカなど、新鮮な夏野菜が大量に入っていた。
「「おぉーー!」」
ミトが普段出さないような声を出すくらいにそれらの野菜はみずみずしく、おいしそうだった。
「さぁ!ハルくん!作ってくれたまえ!」
タクはドヤ顔で俺に命令してくる。
何も思わないわけではなかったが、それでも頷いてしまうほどに野菜たちは綺麗だった。
「こないだリン……あ、リンってのは俺の従姉妹にあたる妹な。んで、こないだその子を少しの間預かってあげたらさ、その世話したお礼です。って親戚のおばちゃんがもってきたんだよ。なんか、畑持ってて、結構こだわって育ててるんだってさ」
タクが自慢げに話す。
「まぁ、世話したのは俺だし俺がもらっていいさな。うん」
タクはひとり頷いている。
俺は後でその叔母さんの電話番号を教えてもらおうと考えながら、調理器具を用意し、野菜を洗う。
さて、決戦につかう、究極のカレー作りの始まりだ。




