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piece4-1*


5月15日。

『いつでも俺を呼べ、それからお前の言葉を聞きたい』

瀬倉さんはそう言っていた。はっきり言って、真っ白で、それから色んなことを考えるとそこに色が落ちていって、そうして真っ黒になる。

麻紀は私の好きにすればいいと言っていた。私の好きに、とはどういう意味合いなのか、私は結局何かをどうにかしたいのか。

(私は、……私の親友の命の恩人、それが瀬倉さん。 そして私の命の恩人)

私は、そういう思いだった。

人殺しがどうなんて、私は覚えていないのだから、結局のところそれは瀬倉さんの独りよがりだと思う。確かに、二年の入院生活は苦しかった。でもただそれだけ。今の私は────。

(秘密組織に命を狙われるカワイソウな人)

どうせなら、何かはっきり魔法でも使えれば良かったのに。なんにもないのに、なんで私なのって感じで。

(ちょーいみわかんない。)

瀬倉さんには、何も黒い感情はない。誰にも、黒い感情はない。

色々不思議なことがあって、それを全部瀬倉さんが解決してくれた。

「だったら、なんにもないじゃん」

(なのにみんな、まだ何かを引きずっている)

私は?将来が不安なだけ。そんなの普通なの、きっと。私は過去に何かなんてないもん。

(…………)

もう全てが片付いたのなら、もう普通に戻ろう。魔法使いとなんて、もう怖くて一緒に居られないよ(笑)。お別れを言って、彼を助けてあげる──。

「瀬倉さーん」


さすがに部屋で呟いても、瀬倉は現れなかった。いや、今まで彼が一声で駆け付けたことなどあっただろうか。

「よいしょっと」

部屋着のまま、あすかはベッドから降り、階段を降りて家を出る。

「瀬倉さーん」

「はぁーーい」

「!?──」

すぐ横で声がして、あすかは飛び退いた。そこに居たのは紅い帽子と紅いマントを纏った紅い男。

「んー──!!」

あすかを冷たい何かが背中から包み込んだ。泥だ。2m程の泥があすかを捕まえている。

「大人しくしてろよ、アイツは来ない、結界を敷いてあるからな」

男は180㎝弱の身長で、顔には痣のような模様のようなものがいくつも見える。それは男の手にもあり、そしてその一部が青白く光った。

「……」

「眠っててもらおうかね」

途端にあすかが意識を失い、体から力が抜ける。それでも泥の塊はあすかをしっかりと持っている。初老とも青年ともとれる不気味な顔で男は口を緩めた。

「エサは確保と……後はアイツを始末すれば良い────ククク、奇跡使いの称号はこのワタシにこそ相応しい」

男はそのまま踵を返してどこかへ歩いていく。泥の塊もあすかを抱えたままその男の後に続いて移動する。コンクリートに泥の跡を残して、両名は姿を消した。


                 ◆


5月16日、午後12時45分、晴れ。

「あ! 瀬倉さん!! あー、えっと」

「お連れさまですか?」

「そう、そうです!」

真希波は冷たい目でこちらを見る瀬倉のところへ、苦笑いしながら他の客や定員を避けて向かう。

「うるさいぞ、お前」

デパートビルの中、喫茶店に瀬倉と真希波がいた。

「あーすいません、いやいや、それどころじゃないんだよ」

「ん?」

席に着きながら、真希波は続ける。

「あすかがいないんだ」

「!?……」

「私さ、あすかの所に泊まってるんだけど昨日戻ったらあすかが居なくてそれからそのまま帰ってきてないんだ」

「──いや、今家に居るだろう」

焦る真希波に対して、しかし瀬倉は冷静のままだった。

「え?」

「居場所くらいはわかる。 まだ狙われていることに変わりはないんだからな」

「いやいや、……麻紀に聞いても知らないって言ってたのに」

「魔法使いだからな」

そんなことを言って、瀬倉はコーヒーを一口飲み、「それより、どうやってお前は俺の居場所を当てたんだ」と真希波に質問する。

「勘だよ、」

「勘?」

「別に一発で見つけた訳じゃなよ」

「おい、」

真希波が瀬倉のコーヒーを飲みほした。

「橋の方とか、居そうな場所を探して、それからリリィを見つけた時そういえばここで事件があったなって思って、ここを見に来たらドンピシャリってこと」

「あぁ……あれでここがしばらく使えなくなってな」

「で、ホントにあすかは大丈夫なんだな?」

「あぁ、何なら、俺も一緒に行こう」

「自信ねぇのかよ」

「まあ、もしかしたらってのもあるからな」

それから二人はビルを出て、真希波はバイクで、瀬倉はそれを知って上空からあすかの家を目指した。瀬倉が着く頃にはもう真希波はバイクから降りて、あすかがいないのを確認した後だった。

「遅ぇよ、途中私より早かったくせに」

「悪いな、気になるものがあって、それで桐原あすかは?」

「いない」

「なに!?」

瀬倉は驚いた様子で、そして直ぐ様家の前の道にかがみ込んだ。

「──ここだ……ここに強く桐原あすかの存在を発する力がある。 まさか……」

「なんだなんだ、」

真希波が駆け寄ると、瀬倉が地面に手を添えた。

「うわ!!」

瀬倉が魔力を込める。すると淡い光と共に文字が浮かび上がった。

「え、英語読めねぇーー」

「────」

真希波が騒いでいる内に、瀬倉が立ち上がって表情を強張らせる。

「やられた……」

「なんて書いてあるんだよ!」

「拉致したから解放して欲しけりゃ来いってよ」

「──な、やっぱりまた魔法使いに……でもなんでだ? 解放して欲しいならってどういうこと?」

「そこが引っ掛かる、それにかなりの魔術師だ、これをやったやつは」

「ど、どうすんだよ……」

「場所は書いてある……」

「私も──」

「お前も来い」

「お?」

真希波の予想に反して、瀬倉の返答は意外だった。

「俺が魔術師を何とかする、桐原あすかはお前が何とかしろ。 これをやる」

「なんだよこの石っころ」

瀬倉がどこかからか青黒い何か紋様の書かれた小石の様なものを取り出して、真希波に手渡した。石は全部で5つある。

「一時的に魔術を乱すものだ、何かあったらそれを使え」

「ハナから別行動かよ」

「相手は何か要求があるんだ、それが済むまで隠しておくのがセオリーだろ」

「そ、そうか」

「目は閉じとけ」

「え────」

瀬倉が真希波の手を掴む。

と、二人は一瞬にしてこの場から消えた。



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