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piece3-3*


ぽつぽつと雨が降り始めた。

脅威は去ったようだったが、彼女たちにはまだ動揺と困惑があった。

「私も向こうへ行くんだ」

真希波はクリフが行ったのを見据えて、それから自分も行こうとする。

「まあ落ち着けよ、今行っても戦争に巻き込まれるだけだ」

「私は決め──」

「せ、説明して下さい! あなたたちは何者で、何が起こっているのか」

耐えきれず、麻紀が声をあげる。雨に濡れながら彼女は必死だった。

「……わかっている。 だが、何から説明していいか──とりあえずお前も落ち着いてここに居ろ」

瀬倉は真希波の手を引き、彼女の行動を制止する。

「あんたも魔法使いなんだ、あんたも、あんたも」

真希波は周りにいる聖騎士団と瀬倉を指差して、言葉を続けた。

「それであんたらとリリィたちは戦って、瀬倉さんは……」

「瀬倉さんは、私を助けに来てくれたんだよ」

あすかがそう答えた。

「──雨に濡れる、部外者はそこで話そう。 お前たちは行った方が良いだろう」

緑化のための木の下に彼らは集まり、騎士団の二人はこの場を離れていった。多少の雨避けだったが、それでも落ち着いて話ができる場所ではあった。雨は激しさを増していき、夜が深くなっていく。

「俺は、魔法使いということにしておこう。 それから、魔法使いというものがいるという事に関しては、納得しておいてくれ」

そう瀬倉は話を切り出した。

「魔法使いにも法というものがある。 それを心の道徳の範囲から広げ、魔術師たちに敷いたのが魔術機関という組織だ。 そこの人間が、恐らくお前の言うリリィとさっきの男だ」

「……なら、彼女たちは何者なんだ? 何でリリィたちにけしかける」

「善良な人間が集まる組織もまた善良とは限らない。 機関のやり方を悪く思う人間もいる……現に桐原あすかは機関に狙われた訳だしな」

瀬倉はあすかに視線を向けて、それから空を見上げる。

「機関は危険性のある人間を管理する──つまりお前は危険性があると機関に判断された訳だ」

「そんな、あすかの何が危険だって言うんですか!」

瀬倉の言葉に麻紀が反応する。

「その事に関して、……俺がこの街へ来た理由も話そう」

また視線を彼女たちに戻して、瀬倉は口を開く。

「この街での出逢いを覚えているか?」

瀬倉があすかに問う。

「あの時……」

「あの時、俺はお前に……俺への警戒心を解き、俺に親しみを感じるよう魔法をかけた」

「!!────」

「そんな、」

少し間を置いて、瀬倉は話す。

「だが、──以前にも俺はお前に“俺の存在を忘れるように魔術を施した事がある”」

瀬倉の言葉に、あすかは思考を詰まらせる。

「そ、それって……」

「約、2年前だ────」


                 ◇


深々と雨が降る中で俺は立っていた。ゲリラ豪雨はもう収まって、この惨状を除けばただの静かな夜だ。聖騎士団は死んだ仲間を連れて共に去っていき、クリフの遺体は機関が回収し、リリィは搬送された。この大橋と住宅街の被害は機関が大半を片し、後は爆発事故として処理される様だ。機関、人員の派遣も後処理も、ちょっと対応が早すぎるなんてレベルじゃなく早い。暗殺官二人に騎士団をぶつけた黒幕は恐らく魔術機関なのだろう。何をしたのかは、俺にも分からないが。


「ずっと雨に打たれてるつもりなのか、瀬倉さん」

木の影で雨避けしている真希波が瀬倉にそう呼びかけた。

「……」

「悪人じゃないんだろ? 今回もその時もあすかを助けたんだ、分かってくれるさ」

「お前は、俺に味方してるのか?」

「味方って訳じゃないけど、……確かに今回の事は、……あぁ、つまり事件解決してあすかを助けたツケが今一気にきたって事なんだろ?」

「そんな簡単な話じゃない」

「瀬倉さん、あんたはあすかを助けた。 それで良いじゃないか」

「結果、彼女の体に殺人を覚えさせ、彼女に魔術が発生して機関に狙われた。 こんなのは助けたとは呼べない」

少し強い口調で瀬倉は真希波の方に体を向けて言った。

「仕方なかった、そう言ったのは自分だろ!」

それが気に食わなかったのか、真希波も強く言い返す。

「……あぁ」


4年ほど前、瀬倉は焔の魔術師との戦闘で肉体を失った。危機一髪の所を逃れたのだ、お互いに。それから、ある街に行き着いて世界の変調をみた。

連続少女誘拐事件。

その犯人は人体コレクターとでも呼ぼうか、異空間に獲物を閉じ込めて鑑賞するのが趣味だった。つまり魔的な力が犯人にはあったのだ。世界の変調を治すこと、それが本来の魔術師としての瀬倉の仕事でもあった。真には仕事ではなく、世界からの使命、世界への罪滅ぼしなのだが。つまるところ瀬倉は変調を治すために、あすかの肉体に自分の魂を憑依させて犯人から魔的な要素を取り除こうと試みた。

何故、桐原あすかの肉体を選んだのか。それは蝶が青年を選んだのと同じくらいに偶然のことだ。異性、幼さ、それを妥協させるほどに桐原あすかの魔的なキャパシティは以前から膨大な宇宙だったのである。もちろん、あすかが麻紀を助けようと事件に積極的に関わっていたことも理由の一つだったが。

瀬倉は桐原あすかの身体を介して犯人と接触し、そしてアクシデントが発生した。犯人はすでに異能力者であり、封印を試みたがその犯人との戦闘は予想を超えて拮抗した。

そして、──殺した。そうでなければ自分が、桐原あすかが死んでいた。

こうして事件の被害者は開放され、その場にいたあすかが最後の被害者と認識されるに至る。


「人を殺したと言う感覚は自身の身体に刻み込まれる」

「俺は過ちを犯した、人の体で人を殺したんだ」

「それが絶対にお前の精神に異常をきたさないとは言えなかった」

「だから、病院へ入れ、魔術的な面も含めてお前を修繕した」

「事実、死体と共に横たわっていたお前の精神は──」

「そうだ、俺が桐原あすかを入院させた。 ……確かに、時間を奪ったとも言える」

「さらに、俺はお前に魔術を植え付けてしまったらしい。 お前が機関に狙われる理由も俺にある」

「退院後の様子を見にきたのさ、俺は」

「だから、こうならなくても俺たちは出会っていた」


あすかは感謝と何か複雑な気持ちのまま、麻紀と帰宅した。

終始瀬倉を批難したのは麻紀の方で、彼女はあすかを深く事件に巻き込んだのを強く批判していた。もちろん、自分も瀬倉に救ってもらったのだという思いも彼女の中には存在している。真希波はずっと無言で瀬倉の話を聞き、今もこの場に残っている。

「しばらく機関の様子を見て、俺はここを去る」

「私に言ってどうすんだよ、あすかに言いなよ」

「今の俺ならあの時全てを消す事もできたし、今もできると伝えてくれ」

「……それが本当の目的だった? あすかの身体が記憶してる殺人の感触を消すことが」

「そうとも言える……だが今安定しているなら無理にやることはない。 消すと言うよりはどこかへやるに近いことだからな」

「押し付けるってことか?」

「冴える女は嫌いだ、じゃあな」

「っおい──」

一秒の内に、瀬倉の姿は闇夜に消えた。

「私にどうしろってんだよ…………とりあえず、行くとこないからあすかん家へ行くか」



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