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ep.3 遭遇

何かがあるかと期待して上がったものも陸にも何もないのかと失望しかけたときだった。

どこからか微かに音が聞こえた。

まさかと思いつつも、足は音の方へ向かう。


そこには4歳ほどの子供がいた。

しかしその子は明らかに自分が知る子供とは違う点があった。

白に近い金髪に銀灰色の瞳は外人の色素欠乏症(アルビノ)だと思えば何の不思議もない。だが、人間の耳は尖ってないし、ましては角など生えてすらない。

確実にその子供は人間ではなかった。

(角、か...もしかして鬼か?)


水縁の記憶にない生物。しかし、「自分」の記憶にある生物。 それが今自分の目の前にいるのだった。


「母は何処にいる?」

子供はいるが、近くにその母らしき気配は感じられない。子供も尋ねても泣くばかり。それどころか尋ねた瞬間泣き方が酷くなった。

ははあ、捨てられたかと冷静に分析するが分かったところでどうにかなるものではない。

大体自分がいうもの何だがここには何もない。あるのは水と岩。それは自分が確認したので確かだ。

「泣くな、泣くな。おい、子供。母親は何処にいるんだ?」

目が解けるのではないかというぐらい激しく泣きじゃくる子供の背を宥めすかしながら聞くとやはり捨てられたようだった。


母さんにここにいなさいって言われたけどもう嫌だよ。

ずっと待っても母さん、来ないんだよ。待つのなんて、待つのなんて…大っ嫌い。

子供は泣きながらそう言った。

「それで?どうするんだ?まだ、待つのか?」

そのころにはもう子供も泣きやみ、言われた言葉の意味が分からないとでもいうように水縁を見上げた。

「ここでまだ母親を待つのか、そうでないのか。どうするんだ?」

「…….待つ」

しばらくしてようやく消え入りそうな小さな声が聞こえた。

この子供は薄々自分が捨てられたことに気が付いているのにそれでも母親を待つという。なんと憐れだろうか。

「そうか。なら、母親が現れるまでお前を守ってやろう」

口から出たのは同情からくる言葉だった。


** * * *




それからも子供は其処に居たし、子供の様子を見るために頻繁に水面に上がるようになった。

子供の名は紫燕(しえん)というらしく何度も声を掛けるうちに慣れたのか顔を見せればうれしそうな顔をするようになった。


あるとき子供が今まで飲まず食わずで過ごしていることに気付いた。

「ここは何も食べるものがないが……お腹がすいたりしないのか?」

「は?ちゃんと空腹も感じるし、食べてるよ」

「何を?ここは何もないじゃないか」

「“気”だよ」

「は?……“気”?」

聞きなれない言葉に首を傾げる。

「まさか……知らないの!?」

信じられないとばかりに目を丸くする紫燕に少々気を悪くする。

「知らなければ生きていけないといったことではないのだから知らなくても不思議ではないだろう。現に知らずにこうして生きていられているのだから。……なんだその顔は。この世の生き物ではないように見るな」

「だってこれは生まれた時から言われることだから、まさか知らないなんて……あぁでもそうか。お姉さんには必要ないね」

一人納得したかのように大人びた表情をする幼子。対して意味が分からず首を傾げている女。それはまるで大人と子供が逆転したかのようだった。

「ま、まぁ必要ないしな。でも中途半端は気になるだろう。どういう意味だ?」

「さっき知らなくても生きていけるって言ったじゃんか。知らなくてもいいでしょ?」

「気になるだろうが!?」

必要ないって言ったじゃんかとまだ不満そうにしていた紫燕から何とか聞き出せた話では、


曰く、  “気”とは生き物全てに宿る生命力のようなもので、なくてはならないものである。


曰く、生物は特に“気”と密接に係っており、生命活動は“気”が原動力である。


曰く、“気”は他人から強奪可能。


曰く、“気”は食べ物から摂取出来るが、効率が悪いのでやる人は少ない。


曰く、水縁は“気”の塊そのもので他から取り込む必要はない。  ということだった。

「お姉さんはそういう種族だからね」

「私の種族が?」

「へ?だってお姉さんって龍、でしょ?」

「りゅう?」

そういわれてパッと出てきたのは蛇のような姿形をした生き物だった。

「水の中でも普通に生きていられるのは“気”がいっぱい持つ種族しか無理だし、そんなの龍くらいしかいないって母さんが」

「へぇ」

「にしてもお姉さん何にも知らないんだね」

「そりゃ、ここから一度も出たことがないしな。お前が私と初めて会った生き物だよ」

嘘だぁ、と驚く紫燕をいなしながら自分が龍だという事実に驚いていない自分に驚く。

あぁ、しっくりきたとしか思わず、すっかり受け入れてしまっている。それに人間の記憶が薄れ始めている。もう昔の自分が何処でどんな風に暮らしていたのさえ思い出せない。ただ気泡のように時折浮かんでくるだけであるというのに気付いて嗤った。

自分にとっては所詮そんなことだったのだ。

「……どうかした?」

「いや、何も」

「何もないのに笑うなんて変」

「はは、成長したらそういうこともあるだろう」

いぶかしげな紫燕の様子に腹を抱えて笑いたくなった。

龍であろうが、人間だろうが、いまの自分に関係ない。それは紫燕が人間だろうが、そうでなかろうが関係ないのと同じ。

大切なのは今確かに此処に居ること。

此処で生きていると思えること。

「あぁ、素晴らしい」

上を見上げて微笑んだ。

長い間悩んでいたことから解放されて、すっきりした良い気分だった。








次話、時間がぶっ飛びます。

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