ep.2 水面
さて、気が付くと自分の知らない事が目の前に転がっているというのは非常に気になる状況だ。探究心と好奇心が先ほどから疼いて仕方がない。
とにかく周りの様子を探ってみようと思い、前に進む。
水中での動き方などわからない。が、不思議なことにそうしようと思えば体が勝手に動くのだった。
「ここは何処だろう」
というか、自分がどうなっているのかさえわからない。 わからないことだらけだ。
(―――鏡が欲しいな)
そして自分がどうなっているのか確認したかった。
くるくると円を描きながら考えていると視界の端にちらちらと薄い縹色をしたものが掠めるが見なかったことにした。
何処へどれ程進んだって水と時々突き当たる岩ばかり。 生き物も何もない詰まらない空間が続くばかり、というのが周囲の状況だった。
「こうも何もないと変な心地だ」
顔を顰めて、一人そうごちる。(本当にそうなってたか疑問だが気持ちの上ではそうせずにはいられなかった)
なんだか虚しくなって、動くことも面倒くさくなる。
今は底に身を横たえてじっとしていればこの虚しさも少しは軽くなるだろうとだけ考えたのだった。
来る日も来る日も同じことの繰り返し。時の流れを全く感じさせないこの場所ゆえに時間の感覚もおかしくなってくる。空腹する感じることなく、ただこの何もない空間に漂うだけであった。
(何もなくて寂しいと感じるのは何故だろう)
いつの日かそう思うようになった。だってそれでは何かがあったところにいたようではないか。ならばその記憶があるはずだ。だが、思い出そうとしても何も出て来ないのである。
(そういえばここが水中だと思ったのも変なことだ)
はて水とは何だと首を傾げ、これも記憶にないことを知る。
そう。それはまるで頭の中に何かがいて、そしてこれらの気持ちを感じているようであった。
それに嫌悪感を抱かないのはこの状況に精神が曲がってしまったのであろうか。
思考を巡らせて泡を漏らす。 初めは複雑だと感じたが今ではもう何も思わない。
「ぐるぐる回るのももう飽きたから、次は上でも目指そうか」
幸い今いる場が底だというのは分かっている。(下にあるのは岩だから)なら行ったことがない上に行ってみるかと思い立ち、動き出す。
しばらくすると境界線がぼんやりと見えてきた。
顔を出してやはり自分がいたのは水中だったかと頷いた。
こんなことならもっと早くにこうすればよかったと思いつつ、陸―――とはいっても他よりも平らな面がある岩―――にあがる。
辺りを見渡せばとても広い鍾乳洞のような空間が広がっていた。
「本当に……どこなんだ、ここ…」
独り言を呟いてその声に驚く。 記憶にある声よりも、もっとずっと低くなっている。
「なんなんだ、一体」
諦めの境地で息を吐く。凪いだ水面に目を向けると、そこには青黒い髪の15,6歳といったような風貌の少女がいた。
「は……え…これが、自分?」
思わず水面を覗き込む。おかしい。黒髪に茶色の目の平凡な色合いだったはずなのに、どうしてこんなにも違うのか。
困惑の色を浮かべる瞳は水色で、しかも瞳孔が縦だ。
色はともかく、瞳孔が変化するなんて異常だ。
ふと自分の名前はなんだったかと思い、頭をひねりにひねって水縁と出てきたはいいものも、それも本当に正解なのか自分に自信がない。
(あれ、そもそも私って何だったっけ?
人間、だったと思うけど…あっているのか)
自分の正体が何であるかすらはっきりしない。
人間だと思ったが、それも違う気がする。
けれど、
まぁ、そのうち分かるだろう。 分からなくったって生きるのに何も支障はきたさないし。
それもそうだと一人頷いた。
主人公が自分のことを知るのも、鬼の子がでてくるのも、あともう1,2話ありますかね?…多分。