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チュートリアル後編

遥か昔、幻想と現実が混在していた。

古の化け物は存在し、魔法という神秘もまた存在した。

それらは時間とともに忘れ去られてしまったが、今もなお何処かに存在している。


そんなテロップが視界一杯に流れているが、陽介の関心は別のものへと向けられていた。テロップの先の闇、そこに存在するであろう相手のことで頭は一杯だった。

ファッムを倒した小部屋から辿り着いたこの場所は大きな広間になっている。松明は並べられているが申し訳程度で、とても広間を見通せるほどではない。

それでも陽介にはこの闇に潜む者を、容易に想像することができていた。

見覚えがあった。

TVに映し出されたFEO(ファントムアイズオンライン)のPVに、この場所は映し出されていた。そして陽介はこのPVを観て、FEOをプレイすることを決めたのだから、忘れるはずもない。

テロップが流れ終える。

暗い闇の中で赤い火が灯り、燃え盛った。炎は生き物のようにうねり、辺り一面を火の海へと変えていく。暗闇は照らされ、広大な大広間の中央に居るそれを映し出した。

陽介は息を呑み、見つめた。

人よりも遥かに大きな体躯を、その巨体を飛ばす為の強大な翼を、炎を吐き出すあぎとをまじまじと見つめた。

男なら一度は憧れたことがあるのではないだろうか。

伝説上の怪物、ドラゴンに。

少年のように喜々として陽介は叫んだ。

「良いねぇ! これだよこれ! こいつが観たかった!!!」

自らが吐いたであろう炎に照らされるドラゴンの身体は黒く、黒い宝石のように鈍く輝く眼は陽介を捉えた。

眼が合い互いに存在を認識するが、かつてない程の現実感リアリティーに興奮しきっていた陽介には、危機感などというものはなかった。

あるのは唯一、すげぇ! という感想だけであった。

「新たなる観測者よ。その力、我に見せよ」

唐突に重々しい声が響き、ドラゴンが陽介へと首を伸ばした。

優に陽介を丸呑み出来る口が開き、鋭い牙を剥き出しにして、人一人分の距離を置いてドラゴンは咆哮した。

暴力的なまでの爆音が耳を貫き、陽介の身体が硬直する。驚きが感情を塗りつぶし、頭は真っ白に初期化(リセット)される。

視覚は、巨大なあぎとに連なる鋭い牙と奈落の底のような口内を、脳裏に焼き付けていた。

ピンポーンと場違いな軽快な音が響き、ウィンドウが表示された。

【ファントムドラゴンへの一定量以上のダメージを蓄積】

我に帰って慌てて陽介は短剣を抜刀しようとして、取り落とした。拾おうと伸ばした手は小刻みに揺れ、思うように動かすことが出来ない。

真っ先に陽介の頭に浮かんだのはスタミナ切れだったが、過度な行動などまだ行ってはいない。そもそもスタミナ切れの時に起こるタイムラグは行動が遅れるだけであり、決して思い通りに動かないわけではない。

異常な状態に、困惑しながらも短剣を拾い上げ、ドラゴンへと視線を向ける。

状態を起こし立ち上がった黒いドラゴンの巨体は、学校の校舎程はある。

グッと陽介は息を呑み込む。

ほんの数秒前には無かった感情が芽生えていた。

FEOは脳内の電気信号を読み取ることで、仮想の身体を動かしている。それは時としてプレイヤーの意図を越えた部分にまで反映される。無意識化の感情の部分である。

もっとも、それが反映されるにはそれ相応の感情の増幅、電気信号の増大が必要不可欠ではある。

(クソ、ビビってんのかよ!)

胸の中で叫び、キッとドラゴンを睨みつけるが、仮想の身体からは震えがまだ抜けてはいない。それは未だ陽介が恐れていることを示していた。

FEOはゲームである。もちろん陽介もゲームであることを理解はしている。理解はしているが、仮想を仮想だと実感はしていない。例えるならそれはホラー映画で驚いてしまう感覚に近いが、この仮想現実では自分自身がホラー映画に登場する人物となるのだから、より驚きは大きいだろう。

ドラゴンがすっと息を吸い込み始める。

それがブレスの予備動作だと、理解して陽介の眼が見開かれた。

脳裏に焼き付いた咆哮の瞬間に紅蓮の色が塗られていく。

(シャレにならねぇぞ……)

先ほどよりも明確な恐怖に突き動かされ、陽介の身体が動き出す。ドラゴンへと向かって一直線に走り出した。

ドラゴンの口から炎が漏れ出す。陽介とドラゴンとの距離は十五メートル程あり、その距離を必死に埋めようとするが陽介の速度は決して速いとはいえない。せいぜいが高校生辺りの男子の全力疾走程度のものでしかなかった。そもそも息を吐き出すのと走って近づくという動作とでは、必要な行程の差が存在している。どちらが早いかなど、子供でも判ることである。

 大きく口が開かれ紅蓮の炎が吐き出される。

 遥か上とも呼べる場所から炎の渦が陽介へと降り注いでくるが、それを陽介は避けようとも防御しようともせずに、そのまま炎に飛び込み駆け抜けた。

「ぉぉぉおおおおおおお!!!」

 ダメージを表す赤いエフェクトが視界いっぱいに点滅し、陽介は叫びながらドラゴンへと肉薄する。そのことに気付いていないのかドラゴンはブレスを吐き続け、その間に足元まで辿り着いた陽介は黒く太い大木のような足へと短剣を振るった。

 ガン! という音が響き、短剣はドラゴンの皮膚を貫くことなく弾かれるが、陽介は構わずに二度三度と短剣で切りつけた。けれどドラゴンの皮膚には傷一つ付かず、多少たりともダメージを与えられているように見受けられないにも関わらず、陽介は腕を止めずに切りつけ続けた。

 ドラゴンのブレスは長く終わるころには、陽介が切りつけた回数は二十を超えていたが、切りつけた場所には何の痕跡も残ってはいなかった。

 不意に切りつけていたドラゴンの足が動き、身体が押されると陽介はそのまましりもちを付いた。

 ドラゴンの足が持ち上げられ、ゆっくりと陽介の頭上へと移動する。それから逃れようと意識するが、陽介の身体は意識しているよりも遥かに遅い速度で動いていた。

 ドラゴンへと近づくまでの疾走から足への短剣での連続した切り付けにより、陽介のスタミナは使い切られていた。

 ろくに動けないまま陽介の頭上は暗くなり、ほどなくして大岩のような足が振り降ろされた。

以上を持ちまして、チュートリアル編を終了と致します。


正直、思考錯誤しながら書いてたりしまして、後々細かい部分は改稿するんじゃないかと思っています。(とくにテロップ部分とか)


次回からまともな冒険の話になります。


追伸、戦闘って難しいね。

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