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チュートリアル前篇

ご回覧いただきありがとうございます。

本作はVRMMOネタの小説であり、場合によっては残酷な描写などが含まれる場合がございます。苦手な方は回れ右することを推奨させていただきます。

闇の中に浮かんだウィンドウに陽介は手を触れた。

【チュートリアルを開始します】

そんな音声が流れるとウィンドウは消え、一切の明かりが消えた。

 真っ暗な闇の先に目がくらむほどの眩いばかりの光が漏れ、光が通り過ぎて眩んだ瞳が視界を取り戻した時には通路の真ん中に陽介は立っていた。

薄汚れた赤茶色のレンガの壁に一定の距離を置いて松明が並び、通路を照らしているが先には深い闇が立ち込めていた。

その光景に感嘆しながら陽介は壁面に触れる。けれど見るからに硬そうな壁面からはなんの感触も手には伝わってこない。おもむろに陽介は壁面に取り付けられた松明へと手を伸ばした。

 明かりを灯す炎は誘うようにゆらゆらと揺れ、近づいてきた陽介の指に触れる。眉一つ動かさずに自らの手を炙るように動かして燃え移らない炎を確認すると、陽介は息を大きく吸い込みクスリと笑った。

吸い込んだ空気にはこの場にはないコーヒーの香りが、僅かだが確かに混じっていた。

それは目の前にあるものが現実ではないことを陽介に伝え、また現実に酷似した世界で自由に行動しているという事実を陽介に伝えていた。

「こりゃ、すげぇわ」

待ちに待ったゲームのクオリティーに陽介は歓喜し、通路を進み始めた。


『ファントム・アイズ・オンライン』世界初となる誘導催眠型のこのVRMMOは専用のヘッドギアを使用することによって、現実さながらの映像と音をプレイヤーに提供し、脳内の電気信号を読み取ることでコントローラーのような媒体を必要とせずに、プレイヤーは自らの意思だけでキャラクターを操作することを可能にしていた。

まるでゲームの世界に入ったかのようなその感覚にテストプレイヤーからの絶大な指示を得て、今日この日を持って製品版がリリースされた。

 専用ヘッドギア五万円、FEOファントム・アイズ・オンライン基本使用料金月額五千円という法外とまではいかないまでも、それ相応の値段にも関わらず先行で販売された専用ヘッドギアは予約の上に抽選まで行われる始末であった。

 陽介自身も予約し抽選に当選することで、なんとか入手した一人であり、家に届いた時には狂喜乱舞した。


 視界に映し出されるウィンドウに表示されるチュートリアルに従って、動作確認をしながら通路を進んでいると、ほどなくして小部屋に陽介は辿り着いた。

 ピンポーンと軽快な音が鳴り、ウィンドウに新たなチュートリアルが表示される。

【ファッム三体の撃退】

 その詳細を読み終えるのとほぼ同時に、陽介は床の一部に染みがあることに気が付いた。

 染みは円状で未だ中心部には僅かながら液体が残っていおり、そんな染みが三か所床にはあった。

 三体と三か所という符号に、ハッとして陽介は最初から腰に備え付けられていた短剣を抜刀し、天井へと視線を向ける。

脳裏に浮かんだのは天井に這いつくばりヨダレを垂らす、獰猛なモンスターの姿だった。

 緊張からか見開かれた瞳は天井の薄汚れた赤茶色のレンガを映すが、それ以外の何かを捉えることはない。二度三度瞬きを繰り返し、陽介は床へと視線を戻した。

 半透明の液体が三つ、床のレンガとレンガの間から脹らましている最中の風船のように盛り上がっていた。

「はい?」

 異様な光景に、陽介は口を半開きにしたまま呆気に捕られる。

 その間に半透明の液体は大きめのクッションくらいの大きさまで膨れ上がると、脱力するように潰れた。

 いつのまにか陽介の視界の隅に存在していたウィンドウは消え、ほとんど潰れたゼリーのような三つの物体の上に枠も何も無い状態でファッムという四つの文字が表示された。

 陽介はギュッと短剣を握り直し、大きく息を吸い込んだ。

「普通、上だろうがあああああ!!!」

 検討違いな怒りをファッムにぶつけながら、陽介は駈け出した。

 走りながら両手で短剣を逆手に持ちかえ、ゆっくりとした動作で床を這ってくる一体目を、接敵と同時に短剣で切り上げる。握った短剣からは何の抵抗も感じられないまま、水が弾ける音だけが陽介の耳に響く。足を止め振り返れば、ファッムは割れた水風船のようなありさまになっていた。

 手応えのない感触に眉を顰めながらも、陽介は二体目のファッムへと接敵し、再度短剣を切り上げた。またも何の抵抗もなく短剣はファッムの身体を走るが水音は鳴らず、ゼリー状の身体には切った後の線だけが残った。けれどそれも僅かの間に塞がり元の形状へとファッムは戻ってしまった。

 再度、攻撃しようと短剣を振りかざした瞬間、視界の右側で赤い光が点滅し、陽介の上半身は陽介の意志を無視して左へと傾いた。

 赤い光は被弾したことを示し、見れば陽介の上半身右側にはべっとりと半透明の液体がこびり付いていた。

 たたらを踏んでバランスを崩しかけた身体を立て直し、慌てて陽介は距離を取ると自らの四肢を動かし、ほっと胸を撫で下ろした。

 FEOでは体力表示は表示されず、代わりに自身の身体が動かし辛くなることによって、危険度を伝える仕様になっている。

陽介は攻撃をしてきたであろう三体目のファッムを睨みつける。

 そのファッムはボクサーの使う振り子のような器具の形状を取り、上体を前後に揺らしていた。

 接敵しようと陽介が駈け出すのと、ほとんど同時にファッムの頭頂部が遠心力によって千切れ飛ぶ。

先ほど自分を攻撃したものが、これであることに気付き、また自身の迂闊さに陽介は悪態を吐いた。

「クソが!」

本来なら決してよけられない速度ではないが、タイミングが最悪だった。

陽介は全速力で飛来するソレに向かって走っている。既に簡単には止まれない上に方向転換も出来ない状態である。

咄嗟に陽介は両腕を上げて盾にする。

 チカチカと赤いエフェクトが瞬き、陽介の勢いが僅かに落とされるが、その足は二歩三歩と進む。

両腕を開き視界を確保すると、陽介は一直線に三体目のファッムとの距離を詰める。

自らの一部を投げた為か、やや小さくなったファッムの半透明な身体の中に、僅かに色濃い球体が覗いていた。

ソレを陽介は蹴り飛ばした。

パン! という破裂音と共に一体目よろしく水風船の残骸と成り果てた。

 陽介は即座に放置した二体目へと振り返ろうとするが、意識していたよりも身体の反転が遅く倒れかける。

 連続した動作を繰り返したことによるスタミナの低下を、現実での疲労感の代わりに、意識と肉体とのタイムラグによって伝えられる。

 仕方なく陽介はゆっくりと振り返ると、二体目のファッムは投擲状態をとっていた。

 前後に揺れ始めるファッムの様子に注視し射線からあ逃れるように、歩き始める。既に意識と肉体とのタイムラグは無かったが、スタミナの回復には数秒かかることを先ほどまでのチュートリアルで陽介は学んでいた。

 ファッムが一際振れ幅を大きくし、前後にのみ揺れていた上体を捻じらせ、半円を描いて自らの身体を切り離す。先ほどとは違い飛んでくるであろうことを予測していた陽介は、それを余裕を持って回避し赤茶色の床を駈け出した。

 陽介は先ほど蹴り飛ばした球体部分をファッムの弱点だと当たりをつけ、走りながら先ほどよりも若干小さくなったファッムの身体を凝視した。

 大きさの違いなのか三体目よりも見えづらいが球体部分は二体目にもあり、そこ目掛けて陽介は飛びかかった。そのまま振り下ろされたナイフは球体部分を貫き、パシャっという音を立ててファッムは潰れた。

 次の瞬間小気味の良い効果音と共にウィンドーが開き現在のチュートリアルが達成されたことを知らせ、同時に新たなチュートリアルが提示されていた。

【インベントリーへの収納(ゼラチン三個)】

 先ほどまでファッムの残骸があった場所に、ゼリー状のものが三つ転がっていた。

 陽介の視界には案の定ゼラチンという表記が表示されていた。

 今の今までうごめいていたそれを恐る恐る手に取って収納と念じると、ゼラチンは手の中へと消えていった。

「うへぇ」

 思わず陽介は手の中でうごめく異様な触感を思い浮かべ、触感のないことに感謝した。

今回、書き出そうとしてた物語が一身上の都合により気に食わなかったので、大幅な改稿を加えたとは口が裂けても言えませんね。

完全な別物として一部を新たに執筆させていただきました。


前回の物を楽しみにしていた方がいらっしゃいましたら、この場を持ちまして謝罪させていただきます。


すみません。


ぇ~、何といいますか楽しんでもらえると良いなぁ。

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