千年経ったら
お寺さんにて。
あきれ顔の和尚が一人の狸を捕まえて問い詰めています。
「お前な……自分が何をしたのかわかってるのか」
「あれはほんに傑作で。おっしょさんにも見せてあげたかったくらいでさあ」
昨晩の光景を思い出し、悪びれもなく狸は笑い出しました。
「殿様があ、お供をっ、多数引き連れてえ、肥溜めにい!!」
笑いすぎて苦しいのか、狸はぜえはあと息を切らせながら、まんまるのお腹をさすります。
「しまいにゃあ、いいっお湯っですことっ、なんて、口々に言いやがるからあ」
ひーひーと息を引き攣らせながら、地面に伏して狸が爆笑し続けます。
「あかん。笑い死んぢまう」
痙攣しながら地面をのたうち回る狸の笑い様は、和尚から見ても心配になるほどでした。
「しかしなぁ……狸よ」
落ち着いた頃合いを見計らって、和尚が神妙な面持ちで語り掛けます。
「相手が悪かった」
「んあ?」
「さすがにこの土地を預かる殿様にそんなことをしたのでは、庇うに庇えんわい」
これまでたくさん助けてもらってきた狸でしたが、ついに和尚にも庇えない相手に手を出してしまいました。
狸はバツの悪さを感じて、少し落ち着きます。
「お前たちの心根が善であることはわかっておる。人に危害を加えないこともな」
でも和尚はいつも自分たちを守ってくれたし、なんなら一緒に笑ったりもしてくれた。
お菓子もくれるし、狸は和尚が大好きでした。
その和尚が困った顔をしています。
狸は少し悲しくなりました。
「あちらさんは怒り心頭で、狸を見境なく殺すつもりでおる」
狸の顔が緊張と恐怖のために引き攣ります。
「どうしましょ、おっしょさん」
「もうどうしようもない」
「そんなぁ」
「大丈夫。そんな顔をするんじゃない。お前たちを大きな島に逃がすことにした」
和尚が不安げな表情を見せる狸の頭を撫でて、打開策を告げます。
「あちらはここよりも自然豊かで、きっと人と関わらずに生きることもできよう」
「それは無理でさあ。おいらたちは人に悪戯するのが生きがいですし」
弱々しい声で、狸が自らの悪癖を主張しました。
これには和尚は思わず笑ってしまいます。
「……まぁほどほどにな」
新しい島へ行けるとのことで、狸は少しワクワクしています。
「おっしょさんにはまた会えますか?」
和尚は答えます。
「千年したら、この土地とあちらの島を結ぶ橋ができることだろう」
狸はそんな大きな橋ができるんだあ、と目を輝かせながら和尚に再び問いかけます。
「そしたら会えるんで?」
和尚は曖昧な笑みを浮かべて、ややあってから答えます。
「……そうだな。また会おう」
「千年かぁ……長いっすねえ」
狸は呑気にそんなことを言ってます。
和尚は胸の内に溢れる感情を抑え、笑顔で見送りました。
弘法大師の世から千年が経ち、瀬戸の海には大きな橋が架かりました。




