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千年経ったら

作者: 水無飛沫
掲載日:2026/09/10


お寺さんにて。

あきれ顔の和尚が一人の狸を捕まえて問い詰めています。


「お前な……自分が何をしたのかわかってるのか」

「あれはほんに傑作で。おっしょさんにも見せてあげたかったくらいでさあ」


昨晩の光景を思い出し、悪びれもなく狸は笑い出しました。


「殿様があ、お供をっ、多数引き連れてえ、肥溜めにい!!」


笑いすぎて苦しいのか、狸はぜえはあと息を切らせながら、まんまるのお腹をさすります。


「しまいにゃあ、いいっお湯っですことっ、なんて、口々に言いやがるからあ」


ひーひーと息を引き攣らせながら、地面に伏して狸が爆笑し続けます。


「あかん。笑い死んぢまう」


痙攣しながら地面をのたうち回る狸の笑い様は、和尚から見ても心配になるほどでした。


「しかしなぁ……狸よ」


落ち着いた頃合いを見計らって、和尚が神妙な面持ちで語り掛けます。


「相手が悪かった」

「んあ?」

「さすがにこの土地を預かる殿様にそんなことをしたのでは、庇うに庇えんわい」


これまでたくさん助けてもらってきた狸でしたが、ついに和尚にも庇えない相手に手を出してしまいました。

狸はバツの悪さを感じて、少し落ち着きます。


「お前たちの心根が善であることはわかっておる。人に危害を加えないこともな」


でも和尚はいつも自分たちを守ってくれたし、なんなら一緒に笑ったりもしてくれた。

お菓子もくれるし、狸は和尚が大好きでした。

その和尚が困った顔をしています。

狸は少し悲しくなりました。


「あちらさんは怒り心頭で、狸を見境なく殺すつもりでおる」


狸の顔が緊張と恐怖のために引き攣ります。


「どうしましょ、おっしょさん」

「もうどうしようもない」

「そんなぁ」

「大丈夫。そんな顔をするんじゃない。お前たちを大きな島に逃がすことにした」


和尚が不安げな表情を見せる狸の頭を撫でて、打開策を告げます。


「あちらはここよりも自然豊かで、きっと人と関わらずに生きることもできよう」

「それは無理でさあ。おいらたちは人に悪戯するのが生きがいですし」


弱々しい声で、狸が自らの悪癖を主張しました。

これには和尚は思わず笑ってしまいます。


「……まぁほどほどにな」


新しい島へ行けるとのことで、狸は少しワクワクしています。


「おっしょさんにはまた会えますか?」


和尚は答えます。


「千年したら、この土地とあちらの島を結ぶ橋ができることだろう」


狸はそんな大きな橋ができるんだあ、と目を輝かせながら和尚に再び問いかけます。


「そしたら会えるんで?」


和尚は曖昧な笑みを浮かべて、ややあってから答えます。


「……そうだな。また会おう」

「千年かぁ……長いっすねえ」


狸は呑気にそんなことを言ってます。

和尚は胸の内に溢れる感情を抑え、笑顔で見送りました。








弘法大師の世から千年が経ち、瀬戸の海には大きな橋が架かりました。



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