自動販売機は今日も辛辣
会社へ向かう途中にある自動販売機は、性格が悪い。
見た目は普通だ。
赤くて、飲み物が並んでいて、『あったか~い』と『つめた~い』が季節感を無視して共存している。
でも、性格だけ終わっている。
最初に気づいたのは月曜日だった。
百円玉を入れ、缶コーヒーのボタンを押す。
ガコンという重い音と共に軽薄な機械音声が流れた。
「その顔でコーヒー飲むんだ」
「……は?」
聞き間違いか?
この時はそんなことを軽く思っただけだった。
火曜日。
財布の中は十円玉だらけだった。
まあ、それでも自動販売機相手なら特に迷惑をかけることもあるまい。
気にせずに十円玉を投入していると、
「多すぎ」
全部返ってきた。
水曜日。
昨日の出来事がムカついて、今日は勝ってやろうと思った。
財布から取り出したのは千円札。
俺はそれを紙幣投入口へと入れた。
「今日はもう飲み過ぎだからダメ」
そんな断り方ある⁉
案の定、千円札は返ってきた。
木曜日。
同僚を連れてきた。
「ほら、この自動販売機がひどいんだって」
同僚は小銭を入れ、ジュースのボタンを押した。
「今日もお疲れ様です」
「優しい!」
俺とは正反対の反応に驚きつつ、ひとつの考えが浮かぶ。
今日なら、もしかしたら……。
俺はすぐに小銭を入れ、同僚が買ったものと同じジュースのボタンを押した。
「また来た」
「差がすごい!」
さっきまでの優しげな機械音声とは別の面倒くさそうな声が自動販売機から聞こえてきた。
金曜日。
もう意地だった。
「一番高いエナジードリンクください!」
そう言ってボタンを押す。
ガタンと重い音が聞こえてきて、やったか、と思い受け取り口を覗いてみれば。
──麦茶が入っていた。
「まず寝ろ」
……否定できない。
土曜日。
寝た。
たくさん寝た。
十二時間ぐらい寝た。
自動販売機の言葉に従ってみたら、少し体が軽い。
軽い体で自動販売機へ向かい小銭を入れると、
「おっ、今日は人間っぽい」
初めて褒められた。
嬉しさを感じながらスポーツドリンクのボタンを押す。
ちゃんとスポーツドリンクが落ちてきた。
「その調子。そのクマ、あと三日もすれば消えるよ」
優しい声に俺は少し気恥ずかしくなってしまった。
日曜日。
自動販売機の横を通るだけで声がした。
「今日は買わなくていい。残金九百六十円」
「なんで知ってる⁉」
「昨日小銭数えてたでしょ」
「見てたのかよ……」
苦笑しながら自動販売機に近づき、顔を上げる。
「……ありがとう」
俺の言葉を聞くと自動販売機の液晶が少しだけ点滅した。
「勘違いしないで。将来の売り上げを考えただけだから」
やっぱり、辛辣だった。
でもそれは初めの頃とは違い、嫌なものには聞こえなかった。
どうやらこの辛辣な自動販売機は、俺の生活に馴染んでしまったらしい。
それを証明するように、俺は今後もこの自動販売機のもとへ足を運ぶのだった。




