仕事を決めた裏の企み
ほどなく、桂子は、次の仕事を見付けた。とはいっても、また2ヶ月の期間限定の仕事。新しい派遣会社に登録したらしい。今までに登録していた派遣会社からはすっかり信用を失っていたので、いくら仕事に応募しても全滅だった。桂子は、失業手当があるからと一向にめげずにいた。だが、どうした風の吹き回しだろう。新しい派遣会社に登録すれば仕事にありつけるかもしれない事は、桂子もわかっていたのだろう。何故だか急に仕事を決めた。
「転院する新しい病院だけど、土曜日の診察がないでしょう。今度の仕事、平日5日勤務なの。とりあえず、初診日のお休みはOKだったけど、次は大丈夫かな。昭夫さん、これから、また次も仕事を探すとなると、平日お休みのシフト勤務の仕事をしなきゃならないわよね。シフト勤務ってきついのよねー。」
なるほど、そうきたか。桂子は浅はかではあるが、時には妙にズル賢い。
俺は怯まず言った。「だけど転院はもう決めたんだよ。それを翻したりしたら、たくさんの人に迷惑がかかるんだよ。わかるよね。」
「それはそうだけど、こちらにも急に仕事が決まった事情があるんだもの。わかってもらえないのかしら。」
一体、何なんだ、こいつは。頭の中はどうなってるんだ?まさか、まだ、お花畑か?
まァ、とりあえず、仕事をやる気になってくれたのは、元気な証拠だな。今度こそ続けてくれよ。
拝むように窓の外を見やり空を仰いだ。
気がつけば、空はどんより曇っていた。そういえば、午後から雨の予報だったな。
ほどなく本降りの雨が窓ガラスをつたう。こりゃあ、前途多難かもしれないな。
でも、桂子がまた社会に出る勇気が持てた事に感謝しよう。ご褒美にアイスでも買ってきてやるか。
いつものスーパーへ行くと、同じマンションの下の階に住んでいる、よく立ち話をする未亡人の女性にばったり会った。特に珍しいことでもないが、彼女が、「奥さん、元気?」と、いつものように話しかけてくれた。「元気、元気でよく食べますよ。もう、食費がたいへん。」
彼女は、昔、マンションの近くで、亡き旦那さんと一緒に飲食店を営んでいたので、料理にかけては、うちでは、あの人の右に出る人はいないねと話している。よくおすそ分けをいただくのだ。桂子は彼女の料理が大好きだった。
そんなら自分も見倣えよと、昭夫はいつも密かに心の中で呟いていた。




