「ゴミ」と捨てられたブローチを国宝へ、呪われた少女を「戦女神」へ
降りしきる雨の中、アルトは王都の門をくぐり抜けた。
手に持たされたのは、家族から「手切れ金」として投げつけられた、ボロボロの袋。中身は金貨数枚と、ひび割れた古い石盤、そして先ほどエレノアに踏みつけられた――今は形も崩れたブローチだけだった。
「……あいつらにとっては、これも『ゴミ』か」
アルトはふと、泥にまみれたブローチに視線を落とした。
その瞬間。
彼の視界が、パッと切り替わる。
【対象:損壊した銀細工のブローチ】
【状態:構造欠陥、魔力伝導率12%】
【最適運用:構造再編――修復ではなく『進化』が可能】
「……え?」
アルトがその「最適」なポイントに、指先からわずかな魔力を流し込む。
すると、バキバキと音を立ててブローチが変形した。汚れは剥がれ落ち、鈍い銀はプラチナのような輝きを放ち始める。
【結果:魔導装飾『聖母の瞳』へ進化。魔力回復速度+200%】
ただの安物が、国宝級の魔道具へと変貌していた。
アルトは震える手で、その輝きを見つめた。
「俺のスキル……【最適運用】は、数値の管理じゃない。対象の『ポテンシャルを極限まで引き出し、進化させる』力だったのか……」
測定器は、アルト自身の「数値」を計れなかったのではない。
アルトの力が既存の「物差し」を超えすぎていたため、針が振り切れて「測定不能」を出していただけだったのだ。
その時。
路地裏から、重苦しい唸り声と、金属がぶつかり合う音が聞こえた。
アルトがそちらへ向かうと、そこにはボロ布を纏った一人の少女が、数人のごろつきに囲まれていた。
少女の腕には、呪いのような黒い紋章が浮かび、彼女の身体を内側から焼き尽くしている。
「死に損ないの奴隷が……! その『呪われた魔力』、使い物にならないなら、せめて命で償え!」
少女は絶望に瞳を濁らせ、静かに目を閉じた。
だが、アルトの目には、彼女の身体を流れる「黒い魔力」が、全く別のものに見えていた。
【対象:滅びの魔力を持つ少女(真名:???)】
【状態:魔力暴走による身体崩壊率88%】
【診断:これは呪いではない。――『神性魔力』の回路が詰まっているだけだ】
【最適運用:一撃の魔力注入。詰まりを解消すれば、彼女は『戦女神』となる】
「……待て。その子はゴミじゃない」
アルトの声に、ごろつきたちが下卑た笑いを浮かべる。
「あ? なんだ、無能の公爵令息か? お前も一緒にゴミ捨て場に送ってやろうか!」
アルトは迷わなかった。
彼は踏み込み、少女の背中にそっと手を添える。
「君のその苦しみ……俺なら、『最適』な形に変えてあげられる」
「……あ……あぁ……っ!」
アルトの指先から、純白の魔力が少女の体内へ流れ込む。
次の瞬間。
路地裏に、天を衝くほどの黄金の光柱が立ち昇った。
一方、その頃。
フェルディナンド公爵邸では、アルトを追い出したことで祝杯を挙げていた。
「いやあ、ようやくゴミが片付いた。これで我が家は安泰だ」
父の公爵がそう笑った直後――
屋敷の魔力炉が、不気味な異音を立ててひび割れ始めた。
アルトという「世界最高の調整役」を失った屋敷のバランスが、目に見えない速さで崩壊し始めていることに、まだ誰も気づいていなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
踏みにじられたブローチが国宝へ、そして呪われた少女が「戦女神」へ。
アルトの【最適運用】による逆転劇が、いよいよ本格的に動き出しました。
次回、覚醒した少女がごろつき共を……?




