4.手紙の中の嘘
紙の封を破る音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた。
澪は手紙を取り出し、震える指で広げた。便箋は一枚だけ。筆跡は間違いなく遼のものだった。整った文字が、どこかためらいがちに紙面を埋めていた。
> 澪へ
ごめん、何も言わずに消えてしまって。君がどんな気持ちで金曜の午後を過ごしているのか、想像するたび胸が苦しくなる。
僕は、もう君の隣にいる資格がない。
それは、ただの自責じゃなく、事実なんだ。
ずっと言えなかった。僕は、君に嘘をついていた。
あの日、喫茶店で「話す」と言ったけど、それができなかったのは……自分の弱さのせいだ。
君がこの手紙を読む頃、僕は遠くにいる。
けれど、もし君が僕のことを、まだ忘れていないなら、探してみてほしい。
あの映画館の近く。君が雨の中で笑ったあの夜に、答えがある。
遼
澪は、手紙の文字を何度も何度もなぞった。嘘……それは何? 「隣にいる資格がない」とは、何を意味しているの?
問いが、問いを呼ぶ。だが、一つだけ確かなことがあった。
——彼は、終わらせようとしていない。
探してほしい。そう書かれていた。あの映画館の近くで。
手紙を読み終えた後も、澪はしばらく動けなかった。涙は出なかった。ただ、静かに胸の奥で何かが崩れた。
遼がいなくなった理由。言えなかった真実。雨の夜に隠された記憶。すべてが霞のように浮かんでは消え、つかめない。
でも今、彼の言葉が導く場所がはっきりと示された。
澪は翌日、地図も持たずに、あの映画館へと向かった。二人で観た、あの古びた名画座。数年前に閉館してしまったはずなのに、建物はまだ残っていた。
ひび割れた壁、剥がれたポスター。その奥に、一枚の写真が貼られていた。遼が撮ったと思しき一枚。そこには、澪が笑っている姿が写っていた。
その下に、小さく書かれていた言葉。
「君が笑ってくれるだけで、生きる理由になった。」
それを見た瞬間、澪の目から涙がこぼれ落ちた。ずっと、遼は——この街に、彼女の記憶を残していたのだ。