表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

人の目ばかりを気にする人生を送っている。

「とは言え」

 とおれは腕組みをする。

 天下なんていらないにしろ、徳川家に「はい、どうぞ」と渡すのも簡単ではないだろう。

 豊臣側にも天下に執着する連中はいるはずだ。

 秀頼の母親の淀殿がそうだろうし、側近の石田三成なんて、まさにそうだ。

 そういう連中を納得させるのは至難の技としか言いようがない。

 話はさっきのクイズに戻ってきた。まわりを納得させて天下を譲るには……。

「うーん」

 と考え込むおれの背後でお萌が「せつや様、がんばって」と声援を送ってくれる。

「セツヤ、がんばれ!」とルエルの声もした。


 期待に応えたいけど、ちょっと難問過ぎないか?

 そもそも負けるはずだった関ヶ原の戦いで豊臣側は勝っている。

 そのまま徳川家を潰せば良かったのではないか。

 いや、ダメか。そうなったら豊臣の天下は続くことになり、秀頼の苦悩も解決しない。

 それに、徳川家もおめおめと潰されることはないだろう。必死の抵抗をするはずだ。

 実際、体制を立て直すためにおれをあっさり見捨てて新たな徳川家康を擁立している。


 ……って、あれ? 

 その家康が豊臣側から送られてきたわけだから?

 新しい家康つまりはオクラが始めたことはなんだ? 

 徳川家の改革だ。


 なぜ? 徳川家康から不死性を奪うためだ。不死性を奪って弱体化するためだ。

 だから四天王も幽閉した。彼らに実権を握らせていたら天下に固執し続けるからだ。

 しかしその天下を、今度はあっさりと譲ると言う。

 譲るなら最初からそうすればいいと思ったが、それでは豊臣側が納得しない、と。

 うーん、わからない。


 おれは再び日本史の知識を探る。史実ではどうなっていた? 

 関ヶ原の戦いに勝った徳川家康は、すぐには天下人にはならなかった。

 そのあと、大坂の陣を起こして秀頼を殺している。

「あ、そうか」

 おれがつぶやくと、お萌とルエルが「やった!」とハイタッチをした。


 徳川家は天下をつかむまで家康を擁立し続け、決してあきらめることはない。

 そしてその執着はいつか実を結ぶことになるだろう。

 その時、秀頼はどうなるか? もちろん殺される。

 いつの時代も支配者がその地位から引きずり下ろされる時は死を迫られる。

 その死を避けるために、先手を打って天下を譲るという考えもあるのでは、とおれは思いついたのだった。

「天下をやるから命は保障してほしい」と。


 豊臣側の連中も、それで身の安全を守れるなら譲歩するのではないだろうか。

 ただ、徳川の四天王がその申し出に対して「はい、そうですか」と応じるかというと、そんなことはないだろう。

 表面上は受け入れたとしても、やがては「再び天下を狙うのでは?」と疑心暗鬼にかられ、秀頼の命を狙うに違いない。秀次のケースと同じだ。


「だから四天王を外した」

 外して、秀頼の命の保障と引き換えに天下を譲り渡す環境を作り上げたわけだ。

 ここに家康の息子である秀忠がいるのはそのためだ。

 家康は引退し、徳川家の後継者として秀忠を表に立たせる。

 そうすれば、徳川も豊臣も納得するのではないか。


 おれがその考えを口にすると、オクラは「ほう」と言った。

「さすがだな、先代。大枠はそれで合っているが、問題が一つあるんだ」

「問題?」

「母親さ」

「淀殿? ああ、かなり気の強い女性だということですね」

「外聞にこだわる女でね。おれたちの時代で言えばイイネ乞食だな。人の目ばかりを気にする人生を送っている。だから天下人たる我が息子がたかが一家来の徳川家よりも下になることが我慢ならないらしい」 

 オクラがそう言うと、四天王がいっせいに鼻を鳴らす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ