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残された家族は全員が皆殺しだ

 人がなにかを譲るという時、そもそもその譲るものを手にしていなければならない。

 では、いま「天下」を手中に収めているのは誰か? 

 言うまでもない。

 豊臣秀吉の息子、秀頼だ。


 その秀頼が天下を手放したがっている?

 おれの疑問を察したかのように、オクラが言う。

「秀頼は秀吉の実の息子だけど、それ以前にも秀吉に子どもがいたことは知ってるか?」

「小早川秀秋ですか?」

「それ以外に」

「えーと……」とおれは日本史の知識を探る。「確か、秀次だったかな」

「だな」

「でも、それ以上のことは知りません」

「秀次はもともと秀吉の甥っ子だ。秀頼にとってはいとこだな」

「ふむ」

「まだ秀頼が生まれる前に秀吉の養子になった。しかしその後、殺された」

「殺された?」


「あれはひどかった」

 顔をしかめたのは四天王たちだ。

「ひどかった? どういうことですか?」

「秀次本人は自害に追いやられた。残された家族は全員が皆殺しだ」

「皆殺しって」

「京都の三条の河原でな、公開処刑だよ。大勢の野次馬の見ている中で」

「………」

「秀次はすでに成人になっていたから幼い子どももいた。その子たちも殺された。泣き叫びながら逃げ回る幼児を追いかけて、ふんづかまえて刺し殺したんだぜ。秀次の奥さん、側室、乳母、侍女あわせて三十九人だったそうだ」

「どうしてまた……」

 そんなひどいことを、と言おうとしておれは気付く。

「ああ、そうか。秀頼が生まれたから」

「その通り。本来は秀次が次の天下人になる予定だったし、秀吉もそのつもりだった。ちなみに、小早川秀秋も継承者の一人だったけどな、こいつも秀頼が生まれた途端に養子縁組を解消されている」


「太閤殿もやはり人の子。血のつながらぬ赤の他人の小早川殿よりも、血のつながりはあっても姉上の子である秀次公よりも、実際に血を分けたわが子に天下を譲りたいと考えたのじゃ」

 と本多が解説する。

「秀次公が自害に追いやられたのは謀反の疑いをかけられたからじゃ。係累が残れば、いずれは秀頼公を脅かすものと太閤殿は考えた」

 と榊原が付け加える。

「天下に執着すると、そういうことがつきまとう」

 オクラが口をへの字にしながら言った。

「秀頼も、そう考えるとキツイですね」

「まあな」とオクラがうなずいたあと言った。「しかし、秀頼本人はおっとりとした男でね」

「おっとり?」

「茶や能や和歌が好きな趣味人だよ。そういうカルチャーにひたっていたい御仁だ」

「天下への執着がない、ということですか」

「正解。それと、いま話した秀次に対する深い罪悪感がある」

「自分が生まれてきたばっかりに、多くの人が命を奪われてしまった的な?」

「ははは、お前さんは察しがいいから話していて楽だな。そう、秀頼は天下人であり続けることに苦悩している」

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