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「どんだけ迷惑かけりゃ気が済むんだ?」

「お前ら、それがどれだけおかしなことか、頭が麻痺して分かんなくなってんだろ」

「いや確かに先例のないことでござるが、それとて徳川家のため」

「はいはい。それだよ、それ」

「そ、それとはなんでござるか」

「その徳川家のためというやつ」

「しかし、お家のために尽くすのはこの世の習わし」

「やり過ぎなきゃ、それもアリだ。だがな、やり過ぎるとはた迷惑なんだよ」

「はた迷惑? それは豊臣方にとってのことでござるか。しかしそれは」

「違うよ、世の中にだよ。愚か者」

「う……」


「戦国武将が影武者を使ってたって話は聞いてるさ。信玄が特に有名だよな。だけどな、死んでも死んでもまた出てくるって話は聞いたことがないぜ。ゾンビかよ。そんなことを続けていたら、いつまでたっても戦国の世が終わらないじゃねーか」

「だからこそ我が徳川家が天下を治め」

「そこだよ、そこ」とオクラは相手の言葉を遮る。「お前らが天下を欲しがるから、いつまでたっても家康は生き返り続けるんだろ? で、戦が起きて多くの人間が死に、田畑が荒らされて民たちは貧しくなる。もうみんなんざりしてんだよ。武士たちにしても好きこのんで戦に行ってるわけじゃないさ。連中だって家族がいるんだぜ」

「………」

「どんだけ迷惑かけりゃ気が済むんだ?」

「迷惑は一時的なこと。いずれ徳川の世になれば」

「豊臣の世ならなぜダメなんだい?」

「なにを申される! この世に武士として生まれてきたからには天下を狙うは当然!」

「なんで?」

「いや、だから」

「二番じゃダメなんですか?」

「は?」


 ふん、と鼻を鳴らしてオクラはワインを飲む。

「せっかく豊臣秀吉が世の中を統一して、これからその二代目が安定させていこうって時にかき乱すだけかき乱してるのが徳川だってことは自覚してんのか?」

「かき乱すなど……」

「二百人も家康を濫造しておいてなに言ってやがる。お前らの天下への執着ぶりは、ハッキリ言って気持ちが悪いんだよ。ストーカーかっつーの」

「………」

「もし秀吉が実は儂は死んでなかったんじゃとか言って現れたら、お前らどうする? 信長が、いや儂は本能寺にはおらんかったんじゃとか言って出てきたら? 信玄が儂もホントは胃がんじゃなくてなとか言って風林火山をまた始めたらどうするんだよ。世の中いつまでたっても殺し合いの世が終わらないじゃねーか。そのうち義経とか将門とか尊氏とかも出てくるぜ。どんなオールスターだよ」

「なにを申されているのか分からぬが……」

「すべての原因は、お前たちのうすみっともない執着にあるってことだよ」

「しかし徳川家にとって、家康公が天下人となるのはなにを置いても果たすべき願い」

「だろうな。だから、くれてやる」

 オクラはあっさりそう言った。

「………」

「………」

「………」

「………」


 四天王は呆気にとられた顔で絶句している。

「どういうことですか?」

 おれの問いにオクラは言った。

「徳川家に天下を譲ってやるってことだよ。豊臣は身を引く」

 なるほど「徳川三百年の世」というのはあながち法螺ではなかったってことか。

「ま、いくら天下をあきらめろって言っても通じないことは分かっていたさ。こいつらは決して天下をあきらめない。それによってどれだけ多くの人間に被害や迷惑を与えようとも天下への執着を捨てきることはできない。ま、こいつらに限ることじゃないけどな」

 と、つぶやくように言ったあと、オクラはおれを見る。

「さて、先代。ここでクイズだ」

「受けて立ちましょうか」

 おれは軽い口調で言った。

 いまのやりとりで、おれはこのオクラという男に対する印象を変えていた。

 歯切れのいい話し方もそうだが、言っていることが真っ当に思えたのだ。

 確かにオクラの言う通りで、お家存続への執着ひいては天下への執念があまりに強いために徳川家康はこれまで死ぬに死ねず二百回も生まれ変わることになった。

 そして徳川家康がいることによって戦国の世が長引いたという面もある。

 天下統一はすでに秀吉によってなされている。ここからは基礎固めの時期だ。

 その邪魔をしているのは徳川家なのだ。


「豊臣は徳川に天下を譲ろうとしているが、もちろん連中も一枚岩じゃない。反対派もいるわな。そいつらを納得させて、すんなりと天下を譲るにはどうすればいい?」

「それ、クイズじゃないですよね」

「あ、バレた?」

 とオクラはあっさり認める。

「お前さんならどうするかと思ってな」

「情報が足りません。そもそも徳川に天下を譲りたいって誰が言ってるんですか? そんなことを言うような人なんて……あ!」

「お。気付いたか?」

「秀頼」

「ピンポン」

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