勝手に滅びればいい。
……と、江戸城ではそのような騒動が起きていた。
そんな中、おれたちは地下牢へと向かっていた。
直観力に優れたチューブを先頭に、おれ、お萌、ルエルが続く。
地下牢への入口には門番が二人いたが、どちらも気を失っていた。
ロップの攻撃を受けたのか、あるいは他のメンバーがやったのか。
いずれにせよ、門番たちとのやりとりの手間が省けて助かった。
おれは壁にかかっていた鍵を素早く手にして、地下牢への階段をおりた。
地下はお萌の言ったように複雑な迷路になっていた。
板の壁であちこちが仕切られている。
その迷路の入口でチューブは「秘術シックスセンス」とつぶやいたあと、目を閉じた。
やがて……。
「こっち」
と言って歩き出す。おれたちはそのあとに従った。
分岐点に出くわすと「こっち」と右に曲がり「そっち」と左に曲がる。
その足取りに迷いは一切なかった。
そしておれたちは最短にして最速で、地下の奥にある牢にたどり着いた。
地下牢は広く、畳敷きになっていた。
その畳の上で懐かしい面々があぐらをかいていた。
城で起きている騒動が地下にも響いたのか、四天王はすでに目を覚ましていたようだ。
「お主は!」
と叫んだのは本多忠勝だ。他の三人も同じように口を開けておれたちを見ている。
「戻って来たのか」
「ちょっと野暮用がありまして」
と言いながらおれは牢の鍵を開く。中から四天王が出てきた。
「まさか、わしらを助けるために……?」
「それもありますが、他にも」
「うむ?」
「いまの徳川家康公は豊臣方が送り込んだ者だということはご存じですか?」
「な、なに!」
「そ、そんな!」
「ま、まさか!」
「ど、道理で!」
と四人はそれぞれの反応を示す。やはり知らなかったようだ。
「いまの家康公を立てた理由は聞きました。ただ、それは罠だったんです」
と言って、おれは大坂城での秀頼と淀殿の会話の内容を伝えた。
「むう。それは確かに……」
「なので、これからそいつを追い出しに行きます」
おれの言葉に四天王は一様に逡巡の表情を見せた。
その顔を見ておれは「あ、そうか」と思った。
彼らの行動原理としては、たとえ徳川家康が豊臣側の回し者であっても、それが主君である限りは忠誠を尽くさなければならない。
だから主君を追い出そうとしているおれは、彼らにとっての敵になる。
彼らのためらいは、おれを敵と見なすか救い手として見なすかに対する迷いだろう。
しくじった……。
気付いていてしかるべきことだったが、正直、そこまで考えていなかった。
しかし、とおれは思い直す。
ここでおれたちの邪魔をするようなら杓子定規もいいところだ。
石頭揃いが運営する徳川家なんて勝手に滅びればいい。




