だから封印。
ここで情報を整理しておこう。
情報を整理した上で状況を把握し、最適解を見つけなければならない。
まずは、こちらのチーム。
メンバーはルエルと異国くノ一美少女集団とおれ。合計十二名。
ルエルは金髪碧眼の美少女。
魔道士。召喚魔法が使える。召喚できるのはケルベロス。スペイン出身。
ABCは銀髪美少女。
秘術は自身を巨大化する「ブロッケンゲシュペンスト」。ドイツ出身。
DEFは亜麻色の髪の美少女。
秘術は笛の音で幼児やネズミを大量に出現させる「ハーメルン」。ドイツ出身。
GHIは赤毛の美少女。
秘術は魔法の鏡に映った相手の動きをのっとる「メイク・ザット・チェンジ」。ドイツ出身。
JKは茶髪の美少女。
秘術は相手の思念に応じて姿を変えるというものだが、特に名前はつけてなかったようで、おれが「うざメタモ」と名付けた。イギリス出身。
LOPは栗色の髪の幼女。秘術は取り外しのできるウサ耳で相手を叩きのめすこと。
これまた秘術名がなかったので「ロリアタック」と名付けた。イギリス出身。
MNは黄色い髪の美少女。
秘術は月の光とシンクロして周囲の状況を探る「ムーンレイカー」。イギリス出身。
QRSは緑色の髪をしたアイパッチの美少女。
秘術は相手のメンタルをどん底に突き落とす「メランコリア」。ドイツ出身。
TUVは純白の髪の美少女。
秘術は百発百中の直感「シックスセンス」。イギリス出身。
WX。この子については初めてふれるが、髪の色はオレンジ。
秘術は「ローアンドロー」と言って、空気中にただよう微量の蝋の分子をかき集めて蝋人形を作り出すことができる。
どんな形にも作れるのでモンスターなんかを出して敵をビビらせることもたやすいそうだ。出身はイギリス。
YZ。七色の髪の美少女。
秘術はお菓子の家のリアルな幻を出現させる「ヘクセンハウス」。ドイツ出身。
で、最後に夙川せつや。黒髪の男子。四百年先からやって来た未来人。日本出身。
と、こちらの戦力はこんな感じだ。
おれがなにより気になっているのは「策士」と呼ばれたオクラという人物だ。
なにか心当たりはないかとIKB10に聞いたところ「ある」という。
「え、あるの?」
「家康をつかまえる時には殺さないようにと命じたのがオクラでした」
とデフが答える。
「でも、私たちは直接会ったわけではない」
とアベシ。
オクラの命令は甲賀の上層部に下され、それが彼女たちに降りてきた流れらしい。
「どういう奴なんだろう? 策士って言うから、よほど悪知恵の働く奴なんだろうね」
「誰かさんと一緒だ」
「ホントにそうだ」
アベシとギーがそれぞれに言う。
「いくつくらいとか、苗字とか、どういうプロフィールとかか、そういった情報はない?」
というおれの問いに誰もが首を振った。ルエルも一緒に首を振っている。
オクラと聞いてすぐに思い浮かぶのは山上憶良だ。
しかしこの人は万葉歌人で、戦国時代の人間ではない。
まさかおれと同じように召喚されたわけでもないだろう。
そもそも山上憶良を召喚してどうするという話だ。ここは別人と考えたほうがいい。
それにしても、とおれは思う。
豊臣側の人間を家康に立てるとは、マジでなかなかの策士ぶりだ。
しかも本人がぬけぬけと家康になったというのだから行動力もある。
相手としてはかなり手強いと考えたほうがいいだろう。
「ん、待てよ」
そこでおれは気付く。
「どうした、セツヤ!」
「それほどの人物が歴史に名を残してないってどういうことだ、って思ったんだ」
豊臣側の策士としては黒田官兵衛と竹中半兵衛が有名だ。
しかし、オクラという名の有名人は、この時代にはいなかったように思う。
黒子に徹したのか……。
そもそもオクラなる人物は徳川家を滅ぼすために家康になったのだろうし、それなら歴史の闇に潜んだとしても不自然ではないだろう。
あるいは……関ヶ原の戦いで西軍が勝ったように、すでに歴史は変わってしまっていて、その新しい歴史の中で登場してきた人物なのか?
そうなると今度は「新しい歴史になる前の史実を、なぜおれが知っているのか」というタイムパラドックスが生じるが……それはパラレルワールドだと考えれば解決する。
このパラレルワールドから元の時代に戻れるかどうかという問題も生じてくる。
しかしいまはそれを考えても仕方がない。だから封印。
「とにかく、江戸へ向かうことだな」
とおれはルエルとIKB10にそう言った。
IKB10は忍びとしての訓練を受けているので、大坂から江戸までは三日あれば行けると言った。
だが、ルエルとおれには無理だ。十日はかかると考えたほうがいい。
そこでまずはIKB10のメンバーに先に江戸へ行ってもらい、おれたちが着くまでの間は情報収集に努めてもらうことにした。
お萌のぶじも確認してもらいたかった。
「あたしはセツヤと一緒に行くよー」
とロップが言って、おれはそれを承諾した。
ボディガードとしてロップがいたら心強い。
「じゃ、私もそうしよっか」
と言ったのはワイジーだ。
道中、お菓子の家に泊まれば移動もスムーズになるだろう、とのことだった。
お菓子の家って泊まれるんだね。幻なのに。
そういうことで、おれたちは二手に分かれることになった。




