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新しい徳川家康は豊臣側の人間だった。

 で、その二日後。

 おれたちは東海道を東へと急いでいた。

 つまりは、江戸へ。

 大変にまずいことが起きていたのだ。


 おそらくは徳川家最大の危機。

 徳川家がこの世から消えてしまうほどの危機的状況だった。


 ぶっちゃけ、おれは徳川家がなくなっても気にしなかったと思う。

 お家存続のために縁もゆかりもないおれをわざわざ未来から召喚し、役に立たないと分かるやポイと捨て去る非情さは感心できるものではなかった。

 そんなおれがなぜ江戸へ向かっているのかというと……。


 お萌を救うためだ。


 たぶんおれの予感が的中したら、お萌は「かつて徳川家康に仕えていた者」として罰を受けることになるだろう。

 それが処罰なのか処分なのか、それとも処刑なのかは分からないが、ぶじでは済まされないはずだ。

 だから急ぐ。徳川家はどうでもいいけど、お萌は救いたい。


 その一方で、冷静な計算もあった。

 ここでお萌を助けておけば、服部半蔵さんに貸しができると考えたのだ。

 その貸しを利用して、IKB10(異国くノ一美少女十人衆のこと。甲賀異人衆から改名。命名者はおれ)を伊賀に引き取ってもらう。

 ひらがな党のケースからも分かるように、伊賀は女性にも仕事を任せる風土だ。だからスムーズに受け入れてくれるはずである。それはルエルに関しても当てはまる。

 その目論見がうまくいけば、おれは心おきなく元の世界に戻れる。

 これぞまさに「ピンチはチャンス」である。

 で、その徳川家のピンチなのだが。

 どのような危機的状況を迎えているのかというと……一言でいえば、こうなる。


 新しい徳川家康は豊臣側の人間だった。


「なんだよ、それ!」

 とおれが思わず叫んだのも無理はないだろう。 

 報告を持ち帰ったIKB10のノ一たちも肩をすくめるだけだった。


 順を追って話していこう。

 大坂に着いたおれたちは、さっそくスイスとルエルを会わせるために行動を開始した。

 三人のくノ一が大坂城に忍び込み、スイスに伝言を託すというやり方にした。

 スイスが自ら会いに来るように段取りをしたわけだが、もし拒否をするようなら力づくで連れ出す手段も視野に入れていた。


 大坂城に忍び込んだのはMNムーンQRSクルスTUVチューブ

 それぞれのパーソナリティと秘術は次の通りだ。


 まず、ムーン。

 彼女は黄色い髪の美少女で、割とグラマー系。頬もふっくらしている。

 秘術は「ムーンレイカー」と言って、五感を空に向けて解放し、月の光の波長にシンクロさせることで周囲の状況を観測するというものだ。

 昼よりも夜のほうがシンクロ率は高いという。月光の明るさに左右されるのだろう。

 そのムーンレイカーによって敵の位置や味方の状況などを把握するわけだが、シンクロ中には月光に歪みが生じ、月に顔があるように見えることもあるそうだ。

 夜空を見上げた時、月に顔が現れていたら、ムーンの活動中と考えていい。


 続いて、クルス。

 深い緑色の髪をした女の子で、右目に同じ色のアイパッチをつけている。

 秘術を使う時にはアイパッチを取り外すのだが、その秘術の名は「メランコリア」。

 彼女の瞳を見つめると、ひどく気分が落ち込み、すべてが虚しく思えてくる。

 自己嫌悪や自責の念や後悔の念や不安が次々と押し寄せてくるのだ。

 試しにおれもかけてもらったが、マジで死にたくなった。

 メンタルをやられることがこんなにもキツイとは思わなかった。

 あれは二度と経験したくない。


 最後のチューブ。

 純白の髪の美少女。哲学的な表情の物静かな子で、秘術は「インチュイション」。

「インチュイ……なんて?」

「インチュイション。『直感』という意味の英語です」

「直感を英語で言うとシックスセンスじゃないの?」

「じゃ、それでいいです」

「え、いいの?」

「はい」

 彼女は直観力が凄く、読みが外れることがないという。

 試しにおれは小石を片方の手に握り込んで「右か左か」を当てるように言ってみた。

 十回やって十回とも正解だった。


 さて、この三人が大坂城に忍び込んだ。

 まずはムーンが状況をチェックし、守りが手薄になっているところを探り出した上で、そこから三人が忍び込む。

 スイスのいる場所をチューブがシックスセンスで探し当てる。

 途中、城の人に見つかったら、クルスがメランコリアで落ち込ませた。


 そうやってスイスの部屋に辿り着いたはいいものの、生憎と当人は不在だった。

 部屋はきれいに片付けられており、長く留守にしていることがうかがえた。

 任務を果たせなかった三人はなにか実りのある情報はないかと城内をさまよった。

 その際、天井裏でこんな会話を耳にしたのだった。


「オクラはうまく家康になれたようですね、母上」

「そのようですね。あの男、口は生意気ですが、策士としては上出来のようです」

「これで徳川家もおとなしくなってくれればいいのですが」

「でも私はあの男の考えにはまだ納得していませんよ」


 この会話の主は、豊臣秀頼とその母親の淀殿だった。

 豊臣側のトップもトップ。核となる二人だ。

 事がいかに重大であるか、誰の目にも明らかというものである。

 そしてその報告を聞いたおれの「なんだよ、それ!」につながっていくのである。

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