ロリロリポップ、略してロップだよー
ウサ耳幼女は次の瞬間、視野から消え去った。
そしておれは両方の膝裏に強い衝撃を受けて地面に倒れていた。
目の前にはウサ耳を構えた幼女が立っている。
ああ、これはダメなやつだ……。
圧倒的に相手のほうが強く、とてもではないが太刀打ちできない。
多少なりとも武道をたしなんでいたら、そういうことは分かるものだ。
「弱いな、お前。その程度でイエヤスか?」
「まあね。いまは家康じゃなくなってるけどね」
おれは身を起こしながら言ウサ耳幼女を見る。
「だったら殺してもいい?」
無邪気な顔のウサ耳幼女。その口調から本気であることがうかがえた。
おれは状況分析とそれに基づいた判断を迫られる。
さて、この状況でベストな判断は?
ま、一つしかない。
「なあ、ウサ耳」
立ち上がれないまでも座りこむことはできた。
「ん? あたしの名前はウサ耳じゃないよー。ロリロリポップ、略してロップだよー」
ロップ……LOPか。JKLになるはずのLはここに来ていたわけか。
「いい名前だね。可愛い君にピッタリだ」
「ふふーん」
顔を赤らめることもなく、ロップは胸をそらす。
「あたしもそう思うよー」
「ロップちゃん。おれを殺したいなら、そうしてもいい」
「うん、分かった!」
ロップはウサ耳をくるくると回す。
「でも、そこのルエルは助けてやってほしいんだ」
「ん? ああ、スイスの妹?」
「そう。スイスのことを知ってるんなら、ルエルに会わせてやってくれないかな」
「え、なんで?」
「死んでいく人間の最後のお願い。スイスと知り合いなら、難しいことじゃないだろ?」
「お前が黙って死ぬならいいよー」
「うん、黙って死ぬ」
おれが言うとルエルが地面をどんと踏んだ。
「いいわけあるか!」
ルエルはおれの前に仁王立ちになり、ロップに向かって歯を剥いた。
「私が相手だ、ちびっこ!」
おれは手を伸ばしてルエルを引き寄せる。
「あう! なにをする!」
バランスを崩したルエルが腕の中に倒れ込む。おれはルエルを抱きしめながら言った。
「ありがとうな、ルエル。おれを召喚してくれて」
「え?」
「おかげで面白い経験ができたよ」
そしてルエルの肩に手をあて、その反動でなんとか立ち上がる。
「ロップちゃん。約束は守ってくれよ」
「オッケー!」
そう言ってロップはウサ耳を持った両手を振り上げた。
身長差はあるが、ロップの身軽さの前ではたいした意味は持たないだろう。
おれは頭を下げ、目を閉じて覚悟を決める。
さっき足に受けた衝撃を考えると、ロップの攻撃を頭部にくらうと即死するはずだ。
痛みを感じることなく死ねて、しかもルエルの願いをかなえられるなら、それはそれでOKだ。
これまでなら生き延びるためにもう少しジタバタしたはずだが、いまはその気になれなかった。
それはおそらく……お萌を失ったことの無力感に包まれているからだろう。
おれは目を閉じたままロップの攻撃を待つ。
ひとおもいに頼むぜ!




