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歴史が変わった? だとしたら、なぜ?

 連日の山歩きの疲れも影響したのだろう、ルエルは出発の朝、熱を出した。

「これくらいの熱、大丈夫だ!」

 と強がってはいたものの、顔はぼーっとしていて目は潤んでいる。

 額に手を当てるとかなり熱く、四〇度近くあるようだ

 とてもではないが、こんな状態で出発するわけにはいかない。ルエルの熱が下がるまで桔梗屋で待機することにした。


 徳川家康が生きているということは、わかよ組の子たちが江戸に知らせてくれていることだし、無理をしてまで急ぐことはない。

 重要なのは、ぶじに江戸に着くことなのだ。

「だからルエル、ゆっくり休め」

「……分かった。すまない、イエヤス」

「無理させて悪かったな。いま、お萌が薬をもらいに行ってくれてるから」

 近所に腕のいい医者がいるとのことで、お萌が使いに出てくれたのだ。

 おれは布団で寝ているルエルのそばで看病をしている。

 おれにも風邪がうつるかも知れないが、その時はその時のことだ。


 お萌が戻ってきたのは、ルエルがお昼のおかゆを食べて寝入ったあとだった。

 ずいぶん時間がかかったな……と思いながら部屋に入ってきたお萌を見ると、いつになく真面目な顔をしている。

「……殿」

「ん?」

 どうした、と首を傾げるおれの目に映ったのは、町人風の中年男性だ。お萌の背後に立っている。

 その彼が口を開いた。

「お萌。その者はもう『殿』ではない。そう申したはずだぞ」

「……はい」


 ……ん? どういうこと?


 ポカンと口を開けていると、お萌が目を伏せた。

「殿。あ、じゃなくて、夙川様。こちらは私の父の服部半蔵にございます」

「はっとり、はんぞう?」

 ……えらい大物が出てきたぞ。

 と、おれは驚く一方で、いまのこの状況を分析していた。

 ああ、そういうことか。

 おれはもう、徳川家康ではなくなったのだ。


 伊賀の当主である半蔵さんが出てきて、おれのことを「もう殿ではない」と言ったのだから、それは徳川家の中で決定した事実なのだろう。

 お萌から「夙川様」と苗字で呼ばれたことも地味にダメージだ。

 お萌の好きな「ギャグ」としては、いくらなんでも手がこんでいる。

 だから、これは本当のことなのだ。


「そうですか。初めまして。お萌……さんにはずいぶんとお世話になりました」

「ほう」

 おれが正座をして頭を下げると、半蔵さんは軽く目を見開く。

「ずいぶん聞き分けがいいんだな」

「そういう状況のようですから」

「ふむ。ここでごねられると、少々手荒なことをせねばならぬところだった」

「それはどうも」

 おれは首にかけていた公認・家康の印籠を外し、半蔵さんに渡した。

「理由を聞かせてもらっていいですか?」

 家康をクビになるのはいい。

 もともと望んでなったものではないし、いずれは「解任」されることも決まっていた。

 しかし勝手に家康にされて一方的にクビにされる身にもなってほしい。

 せめて納得のできる理由を聞かせてほしかった。

「よかろう」

 と半蔵さんはうなずき、端的に言った。

「そなたは徳川家をたばかった」

「たばかった? 騙したってことですか?」

「小早川秀秋は裏切らなかった。むしろ西軍の中でも大いに働いたということだ」

「ほう」

「裏切るどころか、合戦の始まりから鬼神のごとく攻め寄せてきたそうだ」

「………」

 それはおれの知っている史実とは異なっていた。

 小早川秀秋の軍勢は戦が始まっても動こうとせず、それに業を煮やした家康が小早川に向けて大砲を撃ち込んだ。それで慌てて西軍に襲いかかったという話だったのだ。


 歴史が変わった? 

 だとしたら、なぜ?

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