ただし、少年ではなく少女だった。
それは……シーズンオフを迎えた山奥のホテルを舞台とした映画。
ホテルの管理を任された男が妻子を連れて雪に閉ざされたホテルで過ごすのだが、やがて狂気に蝕まれていくという物語だ。
早い話がジャック・ニコルスン主演の「シャイニング」なのだが、あれは怖かった。
ジャック・ニコルスン扮するジャックが、ずっしりと重い斧を振り回し、妻が逃げ込んだ部屋の扉を破壊するシーンは有名だ。
そのジャックもまた「JK」に通じるとおれは考えてしまったのだ。
「殿、あれは?」
お萌がおれの袖を引く。
視線を追うと、刃先が不気味に光る斧を引きずりながら近づいてくる少女がいた。
ニタニタと不気味に笑っている。少女版のジャックだ。
「逃げよう」
戦っても良かったが、見た目がかなりヤバそうだった。
黒目がくるくる回っている。
相手にしないで済むなら、それに越したことはない。
少女ジャックは「待つダニー」となぜか訛りながら追いかけて来た。
斧が地面にこすれる音が大きく響く。
逃げながら、おれは考える。
あんな怖いジャックじゃなく、もっと可愛いジャックをイメージしろ。
……で、思い浮かんだ。
「ジャックと豆の木」
途端、背後の「待つダニー」という声が消えた。
代わりに前方に現れたのが緑の服を着た小柄なジャックだ。
ただし、少年ではなく少女だった。
JKは姿を変えることはできても性別を変えることはできないようだ。
このジャックもまた斧を持っていたが、相手が子どもなら怖れることはないだろう。
よし、ここらで勝負しよう。おれはお萌とルエルに言った。
「やるぞ!」
「はい!」
「お〜!」
三人で小さなジャックを取り囲む。
「ひっ⁉」
初めておれたちが戦意を示したのでJKはびびったようだった。
斧をぽろりと手から落とす。
ちょっと可哀想だが、いたずらっ子にはお仕置きをしなければならない。
「JK。悪ふざけが過ぎたな。覚悟はできているか?」
「で、で」
「ん?」
「で、でで、でででで」
「なんだよ。なにが言いたいんだ?」
「う、うわーん!」
泣きながらJKはすぐそばの木に飛び移り、そのままするすると登って行った。まさにジャックと豆の木だ。
「おーい、そっちには」
巨人がいるぞ、と言いかけておれは口を閉ざす。アベシのことを思い出したのだ。
おれの思念を読んだJKがアベシを呼び寄せたりしたら厄介だ。
JKのことはもう構わずに先へ進むとしよう。ただし、釘は刺しておく。
「こんど出てきたら、お仕置きだからな〜。お尻ペンペンだぞ〜」
しかしあいつ、マジで出落ちキャラだったな。




