「お前はその男となにがしたいのだ?」
「なにを知りたい?」
「私には大切に思う殿方がいるのですが、その方との行く末について知りたいのです」
それは真実うんぬんじゃなくて恋占い的なノリじゃないか?
「ふむふむ。それはどういう相手かな?」
鏡も鏡で話に乗ってきてるし。
ギーも女の子らしいので、この手の話には興味があるんだろう。いつの時代も女の子は恋バナが好きなようだ。
とは言え、この先の展開は見えていた。
お萌が思いを寄せる相手というのは、たぶんおれで、それをほのめかすパターンだ。
「その方はとても逞しく、剣の腕も立ち、それでいて気立ての優しい方です」
照れる。
しかし、ここはノーリアクションだ。
「ふむふむ。それで?」
「その方はお萌を大切に思い、いつもいたわりの言葉をかけて下さいます」
大切に思っているのは確かだけど、いたわりの言葉なんてかけてたっけ?
うん、無意識のうちに口にしていたのかも知れない。
「ふむふむ。それから?」
「その方はお萌が危ない時は身を挺して守って下さいますし、離れていても忘れないと言って下さいます」
ん? 身を挺して守ったというのは、きっと稽古場にケルベロスが出てきた時のことを言っているんだろうけど「離れていても忘れない」なんて言ったっけ?
そもそも召喚されて以降、おれはお萌と離れたことなんてないよね?
「その方とお萌は何度も一緒にお風呂に入り、お萌がその方の大きな背中を洗ったことは数知れません」
……ほほー、了解。それはおれじゃないってことだな。
おれがお萌と一緒に風呂に入ったのは昨夜の伊賀の里が初めてだったからね。
なんだ、そっか。お萌にはちゃんと好きな相手がいたんだな。
相手もお萌のことを大切に思っているようだし、なによりだ。
正直なことを言うと、お萌のおれに対する言動から考えて、例え業務上のことではあっても、そこに収まらない好意のようなものも感じたりしていなくもなかった。
でも、それは勘違いだったようだ。あはは。
これでお萌と深入りする可能性はなくなり、別れる時も引きずらずに済みそうだ。
良かった良かった。
良かった良かった。
うん。本当に良かったね。
………。
と、そんなことを思っている間も、お萌と鏡の会話は続いていた。
「お萌はその方を心より大切に思っているのですが、この先のことを思うと心が落ち着かなくなるのでございます」
「お萌とやら」
「はい」
「お前はその男となにがしたいのだ? 夫婦となって子を産みたいのか、それとも」
という鏡の言葉を遮ってお萌が言った。
「夫婦⁉ 滅相もございません」
「なぜだ?」
「その方は父上ですよ⁉ 鏡様は斜め上過ぎます」
斜め上はお萌のほうだけどね。
「………」
お萌の言葉に鏡はしばらく沈黙していたが、やがて言った。
「私が告げる真実はこうだ」
「はい」
「ふざけるな!」
そう言いたくなる気持ちはわかった。
お萌はおそらく鏡をからかっていたのだ。
ルエルの件で重くなった空気もやわらいだし、ここはお萌のグッジョブだろう。
それでも大坂城のことはちゃんと考えなきゃいけないな、とおれは思う。
幸いなことにこちらには伊賀の忍びたちがいる。
もしかすると大坂城に忍び込むことができるかも知れない。




