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「私の告げる真実は、こうだ」

 伊賀街道を東に向かって進んだおれたちは山中で不思議な物体に遭遇した。 

 ちょうど長野峠というスポットを越えた先のことだ。

「この峠はかつて徳川家康公も越えたことがあるんですよ。本能寺の変の折りです。その時の家康公は先を急ぐあまり転倒してお亡くなりになりました」

 とお萌がそんな解説をた直後のことだった。

 おれたちが遭遇した不思議な物体というのは……。


 鏡だった。

 まわりに金色の縁が巡らされている重厚なスタンドミラーだ。


「なんで?」

 どうして山中に鏡があるんだ?

「殿。これはおそらく甲賀異人衆の罠。お気を付け下さい」

「ま、そうだろうね」

「鏡なら私も持ってるぞ。ほら!」

 とルエルが懐から手鏡を取り出す。女子のたしなみだね。

 でも、そこはいま張り合うところじゃないから。

「とにかく放っておこうか」

 おれはそう言って鏡に映らないように気をつけながら通り過ぎようとした。

 すると、鏡が喋った。

「私は真実だけを映し出す鏡」

 女の子の声だった。


「喋ったな」

「喋りましたね」

「私も喋れるぞ!」

 おれたちは口々にそう言いながら鏡を見る。

「私は真実だけを映し出す鏡」

 と鏡がまた言った。

「じゃあ聞くけどさ、世界で一番美しいのは、やっぱ白雪姫なの?」

「………」

「殿。白雪姫とはどこの藩の姫君にございますか。殿とはどのようなご関係でしょう。私という者がありながら、いつの間に」

「うん、お萌。あとで話すから、いまは静かにしてようか」

「むむむ」

 おれは鏡に向かって言う。


「世界で一番美しいのは白雪姫じゃなく、ギーって子なんじゃない?」

「え。そそそんな。ぽ!」

 どうやらダメ元で言ってみた勘が当たったようだ。

 夢の中で聞いた「ギー」という名前は、この鏡の秘術を使う甲賀異人衆の名前と一致していた。

 夢の力、恐るべしだ。

 ところで、どんな秘術なんだろう……。

「私は真実だけを映す鏡。真実を知りたくば、私の前に立つがよい」

 どうやら鏡の前に立つと、吸い込まれるパターンのようだ。

 もしそうだとしたら面倒なことになる。

 左右が逆の世界で悪戦苦闘を強いられる……とそんなことに巻き込まれるならスルーしたほうがいい。


 おれはお萌とルエルに「先を急ぐよ」と言いかけて……思わず天を仰いだ。

 ルエルが鏡の前に立っていた。

「ルエルちゃん⁉︎ なにやってんの!」

「私は真実が知りたいんだ!」

「なんの真実だよ!」

「パパは本当に私たちを売ったのかどうかということだ!」

 

 急にそんな重い話をされても。

 とは言え、そうだよな……。

 親に売られたというのは子どもにとって大きなショックだし。気丈にふるまっているようでも、内心では複雑な感情を抱えていたんだろう。

 もしかするとルエルが「私、私」とことあるごとに自己主張をするのは、そのことも関係しているのかも知れない。

 ましてやこいつは母親を魔女狩りで失うという過酷な経験もしているわけだしね。


「鏡、教えろ! 私の名前はルエル・デ・アビラ。スペインで生まれた魔道士だ。私が日本に来たのは、パパが私を売ったからだと聞いた。それは真実なのか!」

「………」

 鏡は答えない。

 ま、いきなりそんなことを言われても困惑すると思うけど。

 と思ったら、鏡は返事をした。

「その話は誰から聞いた」

「私のお姉ちゃんだ!」

「スイス・デ・アビラか」

「そうだ!」

 なんで名前、知ってんの? 

 てかルエルのお姉ちゃんってスイスって名前なの? 


「私の告げる真実は、こうだ」

 と鏡が厳かな声で言う。おれは思わず固唾を飲んだ。

 ルエルの姉の名を知っているということは、真実を告げるというのもハッタリとは言えないかも知れない。

「もう一度、スイスに聞け」

「!」

 うまく逃げたねー。

 おれが感心していると、鏡はさらに言った。

「スイスは大坂城にいる」

「え?」

 てことは豊臣側か。

 これは簡単には会えないな。ルエルも「うーむ」と唸っている。


「では、次。真実を知りたい者は私の前に立つがよい」

 たぶんここでお萌が動くんだろうなと思ったら、案の定だった。

「鏡様。私にも真実を教えて下さいませ」

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