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弱い者は「死」に近い場所にいる。

 より良い判断と決断には多くの知識と経験が不可欠であり、それらを積み上げろ。

 それが父親の言いたいことのようだった。

 より多くの情報を持っている者がより適切な状況判断を下すことができ、それはより精度の高い決断につながっていく。

 良質な決断は高い経済力を生み出し、それにともなって選択肢も広がっていく。

 その選択肢からより適切な判断のもと最適なものを選び……。

 という好循環をまわしていくことが幸せな人生を生きることと言いたいようだった。


 後日、クラスメイトの一人に「自分で判断して決断することは大切なことらしい」と言うと、言下に否定された。

「そんなのメンドイじゃん。まわりに合わせてたほうがずっと楽だって」


 ああ、なるほど、そういうことか……とおれは思った。

 父親のもってまわった言い方より、クラスメイトの言葉のほうがよほどストレートに伝わった。


 要は「楽に生きるか」「楽しく生きるか」の違いなんだろう。


 だからおれは多くの情報を吸収するために本を読み、いろんなところに出かけていった。

 それがルエルの言う「いろんなことを知ってる」ことにつながったのだと思う。


 ……と、そんなことを話したのだが、案の定、あまり理解されなかったようだ。


 おれが話を終えたあと、お萌が口もとに指を添えて言った。

「お萌にはいまの話はよく分かりませんが……殿に知恵があるのは当たり前と思います」

「どうしてだ!」

 とルエルが言う。頬がピンク色になっているところを見ると、たぶんこいつ、のぼせてるな。

「だって殿は家康公ですから」

「あー、まー、そうだな!」

「知恵がないと武運もつきません。武運のない者はこの戦国の世では死ぬだけです」

 徳川家康を200人も出したことはさておき……というところか。

 だけど、いまのお萌の言葉で気付いた。

 この戦国時代はセーフティネットが整っていないから、弱い者はあっさりと死ぬ。

 しかしおれのいた時代は、弱くても簡単には死なない仕組みを社会が作り上げている。

 つまりそれだけ世の中が進歩したということだが、根底にある事実は同じだ。


 弱い者は「死」に近い場所にいる。


 ま、それはそれとして。

 ぬるめのお湯とは言え、長湯するとのぼせてしまう。

 おれは軽いめまいを感じただけだったが、ルエルはぐったりしてしまっていた。この二日間の疲れもあるのだろう。

 おれは浴衣姿のルエルをお姫様抱っこし、寝室まで連れて行った。

「………」

 そこには三つの布団がぴったりとくっついて並べられていた。

「なあ、お萌」

「いかがいたしましたか、殿」

「これも伊賀の掟なの?」

「もちろんでございます。殿。郷に入っては郷に従え、ですよ」

 と澄ました顔でお萌は言った。

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