「この私を誰だとお思いですか」
お萌によると伊賀の里と甲賀の里はさほど離れてはいないらしい。
甲賀異人衆に遭遇したということは、ここは甲賀の里に近く、つまりは伊賀の里はもうすぐということだ。
急げば今日中には辿り着ける可能性が高い。
ただ、そのためには後を追ってきている甲賀異人衆を振り切らなければならない。
アベシにもデフにもなんとか勝つことはできたが、どちらも斜め上を行く秘術を使ってきた。
きっと他のメンバーも変な術を繰り出してくるのだろう。なるべくなら相手にしたくなかった。
おれは再びルエルを背負っている。幼児たちとの「お遊戯」で体力を消耗したようだったのだ。
お萌はと言えば、落ち込んでいた。
「殿。私のことをさぞ頼りない女とお思いのことでしょうね」
「え、なんで?」
「手裏剣のことです」
「ま、結果オーライだからいいじゃん。気にするなよ」
「しかしお萌は殿を窮地に……」
「おれはそう思っていないし、もうこの話は終わり」
「……殿」
「それより、伊賀の里へはお萌がいないと行けないんだから、道に迷わないようにしてほしい」
おれがそう言うと、なぜかお萌は不敵な笑みを浮かべて言った。
「ほほほほほ。なにをおっしゃいます。この私を誰だとお思いですか」
「ん? お萌だよ?」
スピード重視ということで、ルエルを背負っている時は走りやすい道を選び、ルエルが回復すると、目立たない獣道を選んだ。
あと少しで伊賀の里が見えてくるというあたりまで来た時。
前方の茂みががさりと鳴り、
「なにやつ!」
という声とともにおれのほうに手裏剣が飛んできた。
キン!
という金属音が鳴ったのは、お萌がとっさに抜いた短刀でその手裏剣を叩き落としてくれたからだ。
次の投擲に備えているのだろう、お萌は短刀を構えながらおれの前に立つ。
おれはおれでルエルをそばに引き寄せた。
その直後。
茂みの中から少女のくノ一が姿を現し、一言叫んだ。
「お萌様!」




