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たいした話じゃないけれど

作者: 狩衣旅兎

まあまあ、事の真偽は問わないで、私の体験を聞いてみてくださいよ。

 あたし整形外科医院に数年勤務した経験がありまして。

 いや、医師や看護師でもないし放射線技師でもない。事務職でもない。

 誰もが一度は目にするお店で働く資格の専門学校を卒業して、修行として診療の補助をしてまして。

 『医師の指導の下」にレントゲン撮影なんかにも、関わったりして(へへっ)


 観光地としてなの通った県庁所在地にあった医院は、移転した病院を医院として利用(色々と人間関係やらなんやらの影響、ってやつで)してましてね。

 街中なんで縦長なんですね。

 診察室やリハビリ室に手術室に休憩室などが1、2階にあって、その上は元病室が何階か続いて、その上に看護師達の寮だった部屋が何室と開業以来のカルテ保管庫とかあったわけで。

 で、最上階は2部屋しかないんですよ。フロアと言うには狭い面積でね。

 学校の教室で例えると、2.5室位の広さ。

 使い古された医療機器が乱雑に詰め込まれた部屋に、古くて汚れた畳が敷き詰められた部屋。

 そこはね。1階から続く内階段では上れないんですよ。

 畳敷きの部屋にドアがある非常階段を使うか、エレベーターで上がるか。

 奥まった場所にある非常階段なんで、誰も使わないんですよね。

 上階に行きたきゃ受付の前にある内階段か、エレベーターに乗ればいいわけで。

 2階から上には用は無いですし。


 どこの会社でも同じでしょうが、退勤する前に建物内を巡回するわけです。鍵が掛かっているか?照明が点いていないか?ってね。

 使って無いんだから窓も開けないし、照明も点けないわけですが念の為。

 懐中電灯片手に1階から巡るんですよ。1階を回ったら内階段で2階へ。そこから先はエレベーターに乗って1階ずつ。

 古くて動作音がいちいち大きなエレベーター。

 築年数も経ってるから不気味でね。1人で暗い元病室を見て回るのは心細くて、足元を歩くゴキブリ達を見て「ひとりじゃない!」とか呟いたりして(嗤)

 で、最後が最上階ですよ。ここが終われば1階に戻って、エレベーターの電源を落とすだけです。

 医療機器が詰め込まれた部屋は誰も踏み込みようが無いから、窓を懐中電灯の光で照らして鍵を確認……しないんです。

 誰も入れないから。気持ち悪いし、外階段も無いから外部から侵入できないし。

「ここは大丈夫だろ」ってね。実際、何も問題は起こりませんでしたね。

 で、畳敷きの部屋ですよ。

 汚れが酷いから靴のまま踏み込むんですが、夜風に頬を撫でられてビクッと……

 慌てて懐中電灯を向けると、窓が大きく開いている。

 2月に1回程度でしたけど、左右の壁に設けられた窓の一つが開いていたんです。

 1階の同僚や医師・看護師は上がりませんし、リハビリ室の同僚達も多忙で時間もありゃしません。

 昼休みとなれば、事務の人以外は皆外に出るか休憩室ですよ。

 気持ち悪いけど閉めなきゃ話になりません。他の窓を確認してから「何もありませんように」と祈りながら近づいて、閉めたらエレベーターに一直線ですよ。

 下に降りて受付前に溜まっている先輩や同僚に最上階に行ったか訊いても、否定されるか「行くわけないだろ」と馬鹿にされるかで……


 最上階ね。もう一つ小部屋があるんですが、ドアは施錠されて開かなかったんで素通りしてました。 整形外科病院なんで手術で切断した四肢が標本として保管されているんだ、なんて話を大先輩がこっそりと教えてくれたり。


 どこの誰が、どうして窓を開けたんですかね?

どうでした?

あなた、どう思います?

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― 新着の感想 ―
なかなか興味深いお話でした。 病院には微ホラーがありますね。私は実家で似たような経験をしましたので、エッセイとして投稿してみようかと思います。 狩衣旅兎様、ありがとうございました。
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