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天国のリリー  作者: りん


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17. 過去にはもう戻れない




『…さっき、携帯にメッセージが来て、住所が送られてきた』

「なあ、それ早く言えよ」

『俺だって、家族が大事だった、でも、向き合う勇気がなかった、少しでも休んでいるあいつを見るだけで手が出た。俺の方が大変なのに、俺の方が悩んでいるのに』

「そうやってさ、なんでもかんでも優劣付けるからダメなんだよ、母さんも、親父も、同じくらい俺らのことを考えて、頑張ってただけじゃないのか」

『…多分、この住所は、今のあいつの家だろう。ここに来いってことだろ』

「住所を送れ。んで親父も来い」

『…俺は、どうなるんだ。今まで頑張ってきたものが、無くなるか』

「暴力ふるってたのを隠してましたってだけだろ、そんなの頑張ってきたものなんて言うな、気持ち悪い」



2人の警察官が車の周りをうろついて中の様子を確認しようとしている。

「警察…どうしよう」

「車を動かしましょう」

「え」

男は後ろを振り向いて驚く。

「あのー、どうかされましたか?」

もう一回警察官が窓をノックする。

「…もう」

男は警察に構わず車を発進させた。

「仕方ないか…」


「もしもし」

『福田か、さっき不審な車に中年の男性と若い女性がいたそうだ、さっき話してたやつかもしれない、情報送るな』

「ありがとうございます。あ、ちょっと待ってください。行方不明の子の兄から住所が送られてきました…」


裕がアクセル全開で車を走らせる。

「あおい、どうする?…ここからは俺の家族の問題だから、あおいには負担になるかも」

「何言ってるの、私も結末を知る義務があるでしょ、あなたの彼女で、真の親友なんだから」

「…そっか、ありがとう」




「はい、どなたです…か」

「…急にすみません、橋本匠さんのお宅ですよね」

裕は家から出てきた女性と目が合った。

「…そう、です、けど…あなたは…」

「お母さん?どうした…え、裕くん」

「裕、くん…」

花音が女性の後ろからこちらを見た。すぐに裕とあおいに気づいたようだった。

「久しぶり、母さん」

「え?母さんって、どういう」

「…お父さんは?」

「これから来る、多分」

「ねえ、お母さん、なんで裕くんがここに」

「今、あの人が真を誘拐してる、十何年前と同じことをして、俺と親父に復讐しようとしている」

「そ、そんな、どうして」

「俺が花音さんを利用して母さんに近づこうとしたせいだ」

花音はなかなか状況か掴めずにいたが、裕の母は顔を真っ青にしつつも冷静にスマホを操作し始めた。

「ねえ、お母さん、どうして裕くんのこと知ってて、裕くんがお母さんのこと母さんって言ってるの?」

「それは…それはね、裕が私の子だからよ」

「…え?何、どういうことなの?なんで…」

「ごめんね、花音には絶対に言わないようにしていたのに」

花音は荒々しく母親の肩をつかんで揺らした。

母親はされるがまま、花音を見つめた。

「お母さんは不倫してたの?どっちなの、裕くんと、私、どっちが本当のお母さんの子なの?」

「…それは」

「花音は俺の子だよ」

後ろを振り返ると、ナイフを持った男と首に切り傷を付けた真が立っていた。

「…あ」



家の鍵を持ったまま玄関で立ち尽くし、5分程は経ったか。

まだ、家を出る決心がつかない。

手がうまく動かない。

今まで隠し通してきた俺の家庭内暴力がばれる?

今更俺が加害者にならないといけないのか?

暴力はいけないことだなんて分かってる。でも、ストレスで頭がおかしくてしょうがなかった。

俺だって、好きでやってたわけじゃない。社会が、俺にストレスを。

上司にいじめられ、後輩に無視され、知らないパワハラで訴えられかけた。

そんなクソみたいな人間に囲まれた状況でどうしろっていうんだ。

いや、ストレスで人に当たるなんて、まともな人間のやることじゃない。

所詮、やってることはあのクソみたいな人間らと同じなんだ。

くだらないプライドのせいで、誰にも相談できないで、ただただ最低な方法でやり過ごしてただけなんだ。

ただ、頑張ってるねって、一緒に逃げようって、そんなの間違ってるって言ってくれたら。

ああ、そんなことを言ってくれた人が1人いた。

無視したのは俺だ。


「ぱぱ?」

「…え?真…どうした、眠れないか」

寝室で寝ているはずの真がリビングのドアを少し開けて顔をのぞかせていた。

「ないてるの?」

「ああ、いや、これは」

「きょうね、せんせいがおしえてくれたんだけどね」

「うん」

「ひとりでさみしそうにしてるこがいたら、ハグしてあげるといいんだって」

「そうなんだね」

「ぱぱはどうしてないているの?」

「…なんでだろう」

「ぱぱのことをなかせるやつなんてわたしがぶっとばすから、あんしんしてね!わたしがついてるよ、おにいちゃんもままもいるよ!」

「うん、そうだね」


俺のせいで、俺が幼稚なせいで、自分の子に不幸な思いをさせてしまった。

このまま家を出なければ、さらに俺は愚かな人間になるだろう。

頑張れ、許されなくても、謝るなら、償うならもう今しかないだろ。

もう過去には戻れないのだから。



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