12. 愛する人に愛されたい
『あおいさん、あれから体調大丈夫?』
「はい!福田さんと奥さんにとても助けられています!」
貧血で福田さんの助けを借りたあの日、初めて自分が妊娠していることを知った。
福田さんは奥さんに事情を話し、相談に乗ってくれた。
これから自分の体に起こること、彼のこと、結婚や仕事のことなど、たくさんの話をしてくれた。
連絡先も交換した。
『彼にはいつ話す予定なの?』
「まだちゃんと決まってないです」
『ダメだよ!今すぐ連絡しよう!』
意外とはっきり奥さんが助言してくれるので、盛り上がった気持ちのまま着信ボタンを押してみた。
「あはははは!高校時代の斎藤君超かわいい!!!」
「こんな髪型してたんで、めちゃめちゃいじられキャラでした」
「でも顔とか明るい雰囲気は変わんないね~」
「まあ、青春してましたからね~、学生の頃は友達に恵まれてて~」
予想通り、私を置いて2人は盛り上がっていた。
お母さんはいまだに見つかっていない。
あれから何回かスーパーに寄ってみたが、1度もそれっぽい人を見かけることはなかった。
今のところ手がかりはそれしかないから、打つ手なしか。
あおいは妊娠のこと、お兄ちゃんに言ったのかな。
あの2人は別れるのかな。
お兄ちゃんのやってる事が一段落着いたら、全部説明してもらわなきゃな。
そのうえで、話し合って、別れる選択肢を取ることは全然あり得る。
…3人でまた笑って過ごす日々が訪れることは、もうないのかな。
「…天野さん、大丈夫ですか?」
斎藤が顔をのぞく。
「…え?あ、ごめんね、ぼーっとしてて」
「やっぱり家でゆっくりしましょうか?」
「いや、ううん、私のことは気にしないで」
「あなたに元気になって欲しくてここに来たんですから。気にします」
「…ごめん」
麻衣がいつも通りの笑顔でこちらを見つめる。
「私が言うことじゃないけどさ、真はもっと素直になっていいんだよ」
「…え」
「私たちに気を使って優しくしてくれるのは嬉しいけど、真には私たちよりも大切な人がいるでしょ」
「…」
「無理しないでね。もちろん楽しいなら楽しいでいいんだけどさ」
優しく2人は微笑んでくれた。
麻衣と斎藤さんと3人で飲みに来ているのに、2人とは全然関係ないことを考えていることがばれていた。
それでも2人は私を励まそうとしてくれていた。
「…私」
電話が鳴る。
福田さんからの着信だった。
「…ごめん、電話してくる」
一瞬2人の顔を見た後、電話に出るために立ち上がった。
「今の真には私たちよりも優先する人がいるから」
「もしもし、福田さん?」
『またあおいが倒れちゃったらしい、病院の住所送る』
「分かった、すぐ行く」
病院をなるべく静かに走る。
扉を開けると、すやすやと穏やかにあおいが眠っていた。
横には、テレビ電話で一度顔を見たことのある、福田さんの奥さんが座っていた。
「あ、初めまして。あおいの友人の天野真です」
「初めまして、旦那がいつもお世話になってます。旦那は今下の購買にお茶を買いに行ってます」
「そうですか。あおいは…」
「あおいちゃん、彼氏さんに電話をかけている途中で具合が悪くなっちゃったみたいで」
「…」
「天野さんはあおいちゃんの体のこと聞いてますか?」
「妊娠のことですか?」
「ああ、そうです。彼氏さんに妊娠のこと話せたみたいなんですけど、やっぱり精神的に不安定なのかもしれないですね」
「そうですか…」
福田さんの奥さんがあおいの頭をそっと撫でた。
あおいは安心したような表情を浮かべて眠り続けていた。
なんだか親子のようにも、姉妹のようにも見えた。
10分ほど病室でゆっくりしたが、あおいは全然起きなかった。
「天野さん、明日も平日ですし、私も旦那もいるので無理なさらないでくださいね」
「…はい、じゃあ、今日のところは帰ります」
「おやすみなさい」
病室を出ると、お茶を持った福田さんに会った。
「おお、真。来てくれたのか」
「うん。でも全然あおいが起きないから帰るね」
「ああ、分かった。すまんな急に電話して」
「大丈夫」
振り返って福田さんに呼びかける。
「あの」
「…ん?」
「私って、必要?」
「何が?」
「…私って、思ったよりあおいとお兄ちゃんの人生に必要なかったりする?」
「どういうこと?」
「なんか、今、あおいのために出来ることが何もない。私はあおいのそばにいたいけど、あおいは私がそばにいない方がいいのかなって勝手に考えちゃって…」
「そんなもん自分で聞いて納得しなさい」




