表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

狐のペンダント

作者: nashi

夕暮れ時、友人のタクヤと私は、山奥にある古びた神社を訪れることにした。村の噂によれば、その神社には狐の精霊が宿っていて、願いを叶えてくれるペンダントが隠されているというのだ。もちろん、そんな話を真に受けるつもりはなかったが、ちょっとした冒険心が私たちを駆り立てた。


「おい、あの神社ってどっちだっけ?」タクヤが地図を見ながら尋ねた。


「確か、あの大きな杉の木を左に曲がった先にあるはずだよ。」私は自信なさげに答えた。


「ほんとにここで合ってるのかよ。お前の方向音痴には付き合いきれないぜ。」タクヤが笑いながら言った。


「失礼な!今回はちゃんと調べてきたんだから!」私は地図を奪い取って確認しながら、道を進んだ。


やがて、鳥居が見えてきた。苔むした石段を登ると、拝殿が現れた。境内は静かで、鳥のさえずりだけが響いていた。


「ほんとに誰もいないな。」タクヤが辺りを見回した。


「まあ、こんな時間に来る人もいないだろうしね。」私は拝殿の前で手を合わせ、お参りをした。


その時、足元に何かが光った。私は屈んでそれを拾い上げると、古びたペンダントだった。銀色の鎖に、狐の形をした美しい飾りがついている。


「これが例のペンダントか?」タクヤが興味津々でペンダントを見つめた。


「ただの忘れ物じゃないの?」私はペンダントを手に取って観察した。


その瞬間、辺りの空気が変わったような気がした。突然、拝殿の奥から小さな狐が現れた。黄金色の毛並みが美しく輝き、その瞳には何か神秘的な光が宿っていた。


「お、おい、狐がいるぞ!」タクヤが驚きの声を上げた。


狐は私たちの前で立ち止まり、じっとこちらを見上げた。まるで、何かを伝えようとしているかのようだった。


「もしかして、このペンダントを探してたのかな?」私はペンダントを狐に見せた。


すると、狐は一瞬だけ輝き、次の瞬間には美しい女性に姿を変えた。驚きのあまり、私は声を失った。タクヤも同様に驚いていた。


「あなたたちが、このペンダントを見つけてくれたのですね。」女性は優しい声で言った。


「え、ええ。これ、あなたのものですか?」タクヤが驚きながら尋ねた。


女性は微笑み、「はい、これは私の大切なものです。お礼に、一つだけ願いを叶えて差し上げましょう。」と言った。


「願い?」タクヤが興味津々で女性を見つめた。


「はい、何でも構いません。ただし、一つだけです。」女性は微笑みながら言った。


私は一瞬、何を願うべきか考えたが、タクヤが先に口を開いた。「じゃあ、僕たちがずっと幸せに過ごせるようにお願いします。」


女性は頷き、「その願い、確かに受け取りました。」と言って、ペンダントを胸に掲げた。すると、ペンダントが再び輝き、私たちの体が温かい光に包まれた。


「これであなたたちは、幸せに過ごすことができるでしょう。」女性は微笑みながら言った。


「ありがとう!」タクヤが感謝の言葉を述べた。


その瞬間、女性は再び狐の姿に戻り、森の奥へと消えていった。私たちはその場に立ち尽くし、信じられないような体験を振り返った。


帰り道、タクヤが興奮気味に話し始めた。「これで俺たち、人生バラ色だな!」


「ほんとかな?なんだか信じられないよ。」私は半信半疑だった。


「お前、何でも疑ってかかるなよ。これからは運気が上がるはずだ!」タクヤは笑いながら言った。


その後、確かに私たちの運気は上昇しているように感じた。タクヤは仕事で昇進し、私は宝くじで大当たりをした。まるで、狐の女性の言葉通りだった。


ある日、タクヤが突然訪ねてきた。「おい、ペンダントが消えた!」


「どういうこと?」私は驚いて尋ねた。


「昨日の夜、家に帰ったらペンダントがなくなってたんだ。それに、妙な夢を見たんだよ。狐の女性が出てきて、『代償を払う時が来た』って言ったんだ。」タクヤの顔は真剣そのものだった。


「代償?何のことだろう?」私は不安になった。


その夜、私も奇妙な夢を見た。狐の女性が現れ、「あなたたちが幸せでいるために、他の誰かが不幸になっているのです。そのことを忘れないでください。」と言った。


目が覚めたとき、私は冷や汗をかいていた。「タクヤ、大変なことになったかもしれない。」


「何が?」タクヤが不安そうに聞いた。


「狐の女性が言ってた。私たちの幸せの代償は、他の誰かの不幸だって。」


タクヤは顔を曇らせ、「それって、どういうことだよ?」


「分からないけど、願いを取り消すことができるかもしれない。」私は再び神社を訪れることを決意した。


神社に到着すると、再び狐が現れた。「願いを取り消すことはできません。しかし、あなたたちが真実を知ることができたのなら、それで十分です。」狐は静かに言った。


「それじゃ、どうすればいいんだ?」タクヤが叫んだ。


狐は静かに笑い、「それはあなたたち自身で考えることです。」と言って、再び森の奥へと消えていった。


タクヤと私はその場に立ち尽くし、自分たちの軽率な願いがもたらした結果を痛感した。幸せの代償が他の誰かの不幸であることを知り、それ以来、私たちは慎重に生きることを心に誓った。


ある日、タクヤと村の広場で話をしていた時、彼が突然言い出した。「なあ、狐の女性が言ってたこと、ちょっとおかしくないか?」


「どういうこと?」私は尋ねた。


「だって、他の誰かの不幸が俺たちの幸せの代償だって言ってたけど、それって何の証拠もないだろ?それに、俺たちが不幸になったら、その分誰かが幸せになるのかって考えると、なんか変じゃないか?」


私は考え込んだ。「確かに、そうだな。でも、実際に誰かが不幸になってるのを知ってるわけじゃないし…」


タクヤは肩をすくめた。「だったら、他人の不幸を心配するより、自分たちが幸せになれないことを心配したほうが良くないか?」


「まあ、確かにそうかもな。」私は笑って答えた。


「だから、俺たちも気にせずに生きていこうぜ。」タクヤは自信満々に言った。


私はその言葉に少しほっとした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ