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ある勇者の日常の一幕

作者: 宿木ミル
掲載日:2024/02/25

「寒い……なんでこんなに冷えるの……?」


 冷たい風が吹く山を、私と勇者様が歩く。

 勇者様は鎧を身に着けているものの、顔には冷たい風がやってくるので冷えているみたいだ。


「ちょっとした魔法の炎で温めることはできますが、この寒さはしんどいですね」

「ねぇ、ユニア。派手な魔法でなんとかならないの?」

「なりません。我慢してください、勇者様っ」

「そんなぁ」


 しょんぼりとする勇者様を慰めながら、私たちは前に向かう。

 私が一緒にパーティーを組んでいる勇者様、フィルは王様の外交の為に行動している。

 国を繋げる交易の安定を確保するために、行路を探すというのも勇者のお仕事だ。


『巨悪を倒すわけでもないのに、勇者だなんて』


 そう言葉にする人もいるけれど、私は悪いようには思わない。

 危険を取り払う為に、勇気を持って率先して動く。そういう存在は大切なものなのだから。

 だからこそ、私は勇者様と一緒にいる。怪我した時などに対応できるように。


「うぅ、ユニア厳しいよぉ」

「休憩できる場所まで到達できたら、いくらでも魔法で温めますよ。でも、今は魔物と遭遇する可能性があるので魔力の浪費はできません」

「それもそうだよね……頑張らないと」

「魔除け石があるところまで到達したらキャンプ、というのはどうでしょう。魔力の流れで魔除け石の位置はわかりますので」

「いいね、賛成っ! 今日はそれなりに歩いたし休憩したいからね。……っと、その前に」


 勇者様が剣を構える。警戒態勢。

 彼女が見つめる先に振り向き、私も杖を抱える。

 大きな翼を持つ鳥の魔物。怪鳥コールドウイングだ。

 一般的な鷹を一回り上回る大きさを持つその魔物は危険と評されることも多い。


「サポートお願いっ」


 勇者様がコールドウイングに走る。

 それに合わせて私も呪文を展開する。


「幻影展開!」


 勇者様の姿を模した幻影をいくつか展開して、同時に走らせる。

 これで本物に対しての攻撃を逸らせるだろう。

 空を飛ぶコールドウイングには通常の攻撃を届かせることは困難だ。

 それを判断した勇者様は、剣に魔力を込める。


「剣圧でいくよ!」


 風の力を込めたその一撃は、コールドウイングの翼を引き裂いていく。


「キエエエエッ!」


 けたたましい声で叫ぶ怪鳥は、私に狙いを定め、翼を大きく動かしてきた。


「これは……」


 冷気の力を感じ取り、迎撃準備を整える。

 コールドウイング。その魔物が得意とする戦術。それは冷気を利用した攻撃だ。

 怪鳥の翼の周辺にいくつもの氷柱が展開される。

 そして、その氷柱は冷たい風と共に私に襲いかかってきた。


「炎の盾ですっ」


 魔力を熱と炎の力に転換。炎呪文でその氷柱に対抗する。

 氷の一撃は凌ぐことはできた。次はこちらが行動するべきだ。

 そう思った瞬間だった。


「危ないっ」

「っ……!?」


 コールドウイングがその全身を使い、私に襲いかかってきた。

 急ぎ、敵の強襲を横に逸れて回避する。

 確実な一手を加えるつもりだったのだろう。勇者様の声がなかったら危なかった。


「助かりましたっ」

「ユニアが無事ならなにより。でも、あの怪鳥、どうしようか」

「直接的な一撃を加えないと仕留めることは難しそうですね」

「強敵だね……こいつを倒さないと、色々トラブルが発生しそう」

「ですね、確実にやっつけましょう」


 魔力を込めながら、勇者様に提案する。


「装備が硬い勇者様よりも、怪鳥は私に注目しているみたいです」

「衣類みたいな感じだからね、ユニアの装備って」

「……とにかく、これを利用したいと思います。つまり、私を身代わりにするということです」

「幻影の魔法を使うんだね!」

「それと、炎の呪文ですね。それで私は手一杯なので……」

「こっちできっちり仕留めればいいんだね。わかった!」


 笑顔で答える勇者様。その力強い返事が今は心強い。


「作戦前に、あらかじめ炎の加護を剣に展開しますね」


 一撃で仕留める為の魔力を勇者様の剣に込める。

 魔力によって強化された剣は、炎に包まれ、切れ味も増す。魔法合金の特製だ。


「ありがとう」

「勇者様は迅速に行動して、不意打ちを狙う形になります。私が怪鳥の突進を誘導しますので、一撃をお願いします」

「了解っ」


 勇者様に注目しないようにコールドウイングへのけん制を繰り返す。

 炎の呪文による攻撃は素早い動きによって回避されるものの、やはり氷を扱う魔物。徐々に警戒を強めている様子だった。


「キキキキ……キエェ!」


 翼を翻し、再び展開される氷柱。今度の氷柱は前のそれよりも大きくなっていた。

 少なくとも、炎の盾では対応できないくらいの物量だ。


「幻影用の魔力、残りますように……!」


 迫る氷柱。意を決して行動を移す。

 杖と自身の魔力を利用しながら展開する魔法。


「炎の壁っ!」


 魔法の炎で創られた壁を前方に展開。

 それを利用して氷柱を溶かしていく。

 魔法で創られたものならば、対抗属性をぶつければ対応できる。

 それが魔法の真理だ。

 しかし、やってくるのは魔法だけじゃない。

 風を切る音。前、右、後ろ。

 炎の壁の先から気配を感じない。

 そうなると。


「後ろ……っ!」


 気配だけを頼りに即時対応。

 幻影を展開する。

 現在いる位置に幻影展開、自身を魔法で移動させる……!


「キッ!?」


 創造した幻影に飛び掛かる怪鳥。

 その一撃で、一瞬で幻影は吹き飛んだ。

 確実な一手をつぶされた怪鳥は動揺し、一瞬の隙を見せた。


「勇者様!」

「この一撃でっ!」


 構えていた勇者様が、速度を乗せて怪鳥に攻撃を仕掛ける。

 怪鳥の首を切り裂く一撃。炎に力を纏ったその剣は怪鳥コールドウイングを仕留めるのに十分だった。

 けたたましい音を放つことなく、力尽きる怪鳥。

 これで、戦闘が終わった。


「よしっ、やったね!」

「もうくたくたです……魔力も残ってません……」


 ギリギリのやりとりをしていたのもあって心臓にも悪かった気がする。

 なんていうか、一手ミスをするだけで大惨事になるような戦いはあまりしたくないものだ。


「でも、これで危険な魔物を倒せたからよしっということで!」

「そうですね、あからさまに大物でした」


 歴戦の敵という印象を受ける魔物だった。

 行動を阻害している間に敵を仕留める。そんな動きを得意とする怪鳥。

 この怪鳥に苦労させられた人も多いのかもしれない。


「じゃあ、気を取り直していこう。魔除け石の場所は?」

「すぐ近く……とは言えませんが、そう遠くない位置です。いきましょう」

「うんっ」


 コールドウイングの肉や羽根などを回収したのち、私たちは魔除け石の位置へと向かうことにした。





 魔除け石。魔物が寄り付かない神聖な魔力で満ちている石の空間だ。

 そこで自前のキャンプを展開していく。

 魔力切れで疲れている私に考慮して、勇者様が色々準備してくれた。

 寝床が準備できたのち、勇者様は夕食の支度にとりかかった。


「キャンプ、キャンプっ」

「楽しそうですね」

「まぁね、友達と一緒の野宿は楽しいからっ」


 そういう勇者様の表情は普通の女の子らしい。

 休憩して回復した魔力を利用して、ちょっとした火を起こす。


「ありがとうっ」

「今日は何を作るんですか?」

「んー、怪鳥ステーキ」

「……はい?」


 そう言って取り出したのは先ほど仕留めたコールドウイングの肉だった。律儀にステーキのようになっている。

 素材を集める時に綺麗に捌いたのだろう。


「……結構大胆ですよね」

「まぁ、仕留めたからには食べたいし」

「狩人に向いてるかもしれないです」

「いつものことでしょ?」

「まぁ、そうですね」


 そう返しながら、微笑む。

 そう、勇者様と魔物を撃退した後の食事ではその倒した魔物の肉が出ることが多い。

 流石に食べられなさそうなものは遠慮することは多いのだけれども、今回のような鳥型の魔物の場合などはおいしくいただかれることも多い。


「どういうレシピで食べるんですか?」

「香辛料結構使ってみる」

「それはどういう試みで」

「なんか氷魔法っぽい雰囲気あるから、素のままの食感だと冷えちゃいそうなんだよね……だから、王国から持ってきた辛めの香辛料を使う」


 そう言って様々な香辛料を焼く前に塗していく。

 赤くて辛みが強いレッドリア。

 黒くてピリっとした食感のべべリア。

 そしてすっぱさと辛みを兼ねそろえたヴァルべリア。

 それら三つを組み合わせて作る。


「なるほど、なんだか融合料理みたいです」

「ふふん、そうでしょ? レッドリアは東方の調味料、べべリアは西方、ヴァルべリアは南東だからね!」

「交易で得た道具が活かされてるのは文化的にもありがたいです」

「いい感じの配合ができたら王国にレシピを売っちゃおうかな」

「いいですね、協力します」


 油を熱した鉄板にコールドウイングの肉を乗せ、焼き色に気を付けながら焼いていく。

 両面、そして内面にしっかり火が通ったら完成だ。


「内面は特に気を付けた方がよさそう」

「冷たそうですからね、普通のお肉以上に」

「そうそう、しっかりやんないと!」


 そうしてしばらくの時間が経過したのち、怪鳥ステーキは完成した。

 皿に盛りつけられ、外に置いた簡易テーブルに完成品が置かれる。

 どすっとした大きさのステーキだ。

 カラフルな香辛料が塗されているのもあって美味しそうに仕上がっている。


「じゃあ」

「いだだきますっ」

「うん、いただきますっ」


 それぞれ切り分けたステーキを味わっていく。

 食事として味わうステーキはそうそう珍しい。

 そう思いながら、噛みしめていく。


「……この食感!」

「独特で、美味しいですね」

「うんっ」


 勇者様が驚いている理由が、自分の食感からもわかる。

 肉全体がすっきりとした味わいになっている。スーッとする感覚というべきだろうか。

 まるで口の中に北風が通ったかのような不思議な感覚に包まれる。

 そうしたのちに訪れるのは香辛料の味わい。三種類の香辛料がそれぞれ身体を温めるような辛さを用意してくれるのもあって、冷たい感覚だけに収まらない。

 バランスが取れた、高級食というべきだろうか。なんていうか、満足感のある味わいだ。


「これなら何体でも強敵に挑みたくなっちゃうかも!」

「なかなか命が怖いので私は無理はしなくないですね……」

「まぁ、命は大切にしないとね。こうやって食べたりできるのは命あってからこそだもん」

「結果を無事に報告できるからこそ、行路も広がりますからね」

「そういうことっ」


 時に無理をすることはあっても、命を粗末にしてはいけない。

 勇気と蛮勇は異なるもの。勇者となるもの、そして勇者を支えるものはそれらを意識しないといけない。


「じゃあ、片づけたらゆっくりして眠ろうか!」

「眠る前にあったかいハーブティーとか飲むのもいいかもですね」

「さんせーい! じゃあ、お願いしても?」

「はい、わかりました、勇者様」


 雑談しながら過ごすキャンプの時間。それは悪くない憩いのひと時だった。





 そうして迎えた朝。

 私がキャンプから外に出た時、ある行商人が声を掛けてきた。


「おーい、君たち! 怪鳥に遭遇してないかーい!」

「怪鳥コールドウイングはやっつけました。大型の魔物ですよね」


 コールドウイングの嘴を取り出し、見せる。

 すると、行商人は驚きながらも、感謝の言葉を述べていた。


「そ、それは本当かい!? それなら、この行路を安全に使える!」

「はい、比較的安全になったかと。あっ、もしよかったらですが、街まで同行しませんか? 用心棒にはなるかと」

「おぉ、それはありがたい! お願いしてもいいかな?」

「はい。……勇者様、出番ですよ」


 キャンプから勇者様を起き上がらせて、準備を整えていく。


「ん、目覚めたばっかなのに……」

「街で交渉したり、仕事はまだまだ多いですので」

「それはユニアがやってほしいかも」

「……わかりました。では、魔物退治の時などには勇者様にお願いしても?」

「うん、大丈夫」


 キャンプを片付け、旅の支度を整えていく。

 様々な国の行路を繋ぎ、少しずつでも豊かな日々を増やしていくという私たちの冒険は終わらない。


「よし、出発です」

「今日も頑張ろうっ」

「そうですね、無理はしないように頑張りましょう」

「命を大事に、前向きにいこう!」


 冷たい風が吹く山の道。

 何故だか今日は昨日より少し暖かいように感じた。

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