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第5話 驚愕


 男性は、空からネペンテスを探していた。ハックたちの頼みを聞きはしたものの、ネペンテスを相手に生きているとは思っておらず、ネペンテスの討伐を優先し、痕跡を探して尚見つけられなければその旨を伝えるつもりだった。

 しばらくして、薙ぎ倒された木々が目に入り、その後を追うようにフィルトを走らせていると、洞窟の前で少女を蔦で縛り上げながら雄叫びを上げるネペンテスの姿があった。


「まさか……あれがそうなのか? ……わかっている。約束だったからな……グイッタ!」


 男性が精霊に指示を出すと、光を収束させた熱線を発射し、ネペンテスの蔦を焼き切った。

 そして現在、瀕死のノーマを抱きかかえながらネペンテスと対峙していた。


「ヒュー……ヒュー……」

(……まだ息がある。だが、急がないと危ないな)

「グイッタとイアープはわたしとこの子の治療を、トロバとフィルトはしばらくの間ネペンテスを足止めしてくれ」


 精霊たちは、各々が果たすべき役割を理解し事に当たった。

 治療を続ける中、ルビィとアクリアが心配そうにノーマに寄り添っていた。その様子を見た男性は、ルビィたちを安心させるために声を掛けた。


(この子の精霊か。下位精霊二体でよく持ち堪えたものだ)

「やれることはやる。君たちは魔力の回復に専念してくれ」


男性の指示通り、ルビィとアクリアは魔力の回復に努めた。


(複数個所の筋断裂及び骨折、内出血多数に……これは内臓もやられているか。……わかったよ、傷跡も残さないようにする……これは時間が掛かりそうだ)


 男性は額に汗しながら、精霊を通じて魔力操作を行い、破損個所を修復していく。一つ、また一つと傷が癒えていくうちに、ノーマの血色が良くなっていった。

 一方で、邪魔された怒りのままに蔦をふるうネペンテスだったが、ネペンテスを囲うように展開したフィルトの風の障壁を突破できずにいた。時に弾かれ、時に受け流されて思うようにいかず、さらに怒りを増していく。自棄を起こし、捨て身で突撃しようとすると、それを見透かしたかのように、トロバが風に炎を干渉させて一時的に炎の壁にすることでそれを防いでいた。

 戦いが長引き、疲労と空腹で体力が限界を迎えたのか、蔦は徐々に勢いを失っていった。


 「なんだ、もう終わりそうじゃないか」


 繊細なコントロールを必要とする箇所の修復を終え、グイッタとイアープに後の治療を任せた男性が精霊に声を掛けた。

 男性の姿を見た瞬間、ネペンテスの怒りは再燃する。こいつさえいなければ、今頃は勝利の余韻に浸りながら新たな獲物を探しに行っていた。そんな感情が爆発し、再び蔦の猛打が風の障壁を叩いた。


「まだ動けるか。……トロバ、戻ってこい」


 トロバを自身の元へ戻らせると、火の魔力を魔力操作で集中させていく。そうして出来たものは、意外にも小さい火球だった。


(後ろは洞窟、消化液を考慮しても……これぐらいでいいだろ)

「フィルト、発射と同時に風を止めてくれ」

 

 男性の指示に通り、火球が放たれたのと同時に風の障壁は消えた。ノーマのときのような不意打ちとは違い、真正面から放たれた火球。ネペンテスは叩き落そうと蔦を振るった。

 しかし、火球は振るった蔦を物ともせず次々と焼き切り、そのままネペンテスを貫通、洞窟の岩壁に激突して壁を穿った。

 

「ピ……? ピ……ピギャァアァアアアアアアァァァァーーーッ!?!!?」


 一瞬のことで自分の身に何が起きたかわからなかったネペンテスだったが、自身が貫かれている事実を、痛みとともに思い知った。すでに体力の限界を迎えていたことに加え、深手を負ったことでネペンテスは徐々に生気を失い、蔦が力なく地に落ちる。そして―――


「ギ、ギィ、ギィィィィィイイイィィーーーーッ!! ギィ……ィ……」


 断末魔の叫びを上げ、力尽きた。


「……こいつの相手の方が楽だったな。せっかくだし、解体していくか」


 大抵の場合、魔獣は冒険者ギルドから派遣されて来る冒険者たちにより速やかに討伐される。理由として、街道及び周囲の安全確保の意味合いもあるが、魔獣の素材は命がけで挑むだけの価値がある高級品であることも挙げられる。

 例えばネペンテスの場合、蔦は通常の素材よりも丈夫で柔軟性があるためロープや鞭などに加工される。消化液も臭いはきついが濃度を調整すれば最高の錆び取り剤となり、主に鍛冶屋で重宝されている。他にも柔軟性のある体表がテントの素材や担架、鞄や財布の材料に使用されるなど、ネペンテスだけでも用途は様々である。

 品質次第で数ヵ月は遊んで暮らせるほどの大金が手に入る上に、冒険者ギルドから治安維持に貢献した特別報酬も上乗せされ、さらに、魔獣が強力ならば名を売ることもできるという。冒険者たちにとっては、まさに一石三鳥の得となり、皆率先して討伐に向かう。

 男性もそれを知っていて、最小限の損傷で仕留めるために、精霊たちに魔獣を倒すような指示は敢えて出さなかった。慣れた手捌きで次々とネペンテスの解体を進め、いよいよ消化液の回収を行おうとしたとき、奇妙な光景が映った。


「なんだ……?量が妙に少ない。それに、あれは……岩?」


 ネペンテスは食欲が旺盛であるとはいえ、単純に好みとして鉄や岩などを食べることはない。仮に口に入れた場合でも、獲物を消化し、栄養を摂取し終えた後、一旦消化液と共に吐き出し、吐き出せず残った分を蔦で回収して除去。そしてまた口内を消化液で満たす……という具合に、本来ならばネペンテスの口内に岩が残ることはない。

 結論から言うと、ネペンテスは岩を除去できなかった。消化液と一緒に吐き出すには岩は重く、蔦で回収しようにも熱くて持てず、再び消化液を満たして冷却を繰り返そうにも、内壁にある消化液を分泌する消化腺は、消化液が沸騰した際に熱で変形して思うように分泌できなかった。

 何もかもが上手くいかず、ノーマへの怒りで我を忘れて復讐を優先した結果、現在に至っている。


「……まだ熱気があるな。それに内壁が焼け爛れている……岩を熱して放り込んだ? ……まさか、あの子がやったのか?」

 

 一方その頃、ノーマは意識を取り戻し、自分の置かれている状況がわからず混乱していた。魔獣に身体を締め上げられ、重傷を負っていたはずの身体は多少の痛みはある程度に治まっており、横を向くとウサギとオットセイがいる。

 気分はまだ優れないが、何とか状況を把握しようとしていた。


「ここは……天……国……?」


 ノーマの意識が戻ったことを知り、ルビィとアクリアが胸に飛び込みノーマの無事を喜んでいた。


「あれ?なんでルビィとアクリアが? ……もしかして、わたし生きてるの?! ―――痛っ!」

 

 驚きのあまり飛び起きそうになった瞬間、身体に鋭い痛みが走り、再び横になった。

 一命を取り留めたとはいえ、まだ傷の治療中だったので、グイッタはノーマが起き上がらないように腹部に跳び乗り、大人しくするように忠告した。


「……ごめんなさい……って、あなた精霊なの!? あっ、そういえば魔獣は!?いったい何がどうなって……るぶっ!?」


 混乱しているノーマを宥めるように、イアープが前足で顔を覆った。そして、主人の命令で自分たちがノーマを助けたこと、今頃は魔獣も倒されていること、そして……怪我の治療はまだ終わっていないから改めて大人しくするように伝えた。

 ひんやりとした前足の感触に、ノーマは徐々に冷静さを取り戻していった。

 

「……と、とにかく、あなたたちが助けてくれたんだね。ありがとう」

「目が覚めたようだな」

「?」


 声のする方を見ると、そこには緑がかった白馬と炎を纏った隼を連れた男性がこちらに近づいてきた。誰だかわからず戸惑っていると、イアープが自分たちの主人であることを伝えた。


「あっ、あの、ありがとうございました……っ!」

「身体は起こさなくていい。……大方治療できているが、まだ動くに辛いだろう。……君がノーマだね?」

「はい……あの、あなたは?」

「ああ、名乗るのが遅れたな。わたしはエメス・ミマ。君の友人に頼まれて、君を助けに来たんだ」

「友人……あ、あの、みんなは無事なんですか?」

「周辺に他の魔獣は確認できなかった。確か……ハックとかいう男の子の怪我はひどかったが、わたしが治療したから今頃は村に戻っていると思うぞ」

「よかった~~……」


ノーマの安堵した表情に、エメスも思わず笑みをこぼす。しかし、次の瞬間ノーマの顔色が悪くなった。


「!? う……うぅ……」

「どうした、具合でも悪いのか?」

「また吐き気が……急に魔法が使えなくなったときも、眩暈がして、頭も痛くなって……」

「魔力欠乏症の症状だな」

「魔力……欠……乏症?」


 魔力欠乏症とは、体内の魔力が一定量以上消費されると、それ以上の魔力消費を抑えるために身体が出す危険信号である。魔力は精神力と深い関わりがあるため、魔力欠乏症の状態で無理に魔力を使用すれば精神疾患を患い、最悪の場合、廃人になる危険性がある。


「あの、これってどうすればいいんでしょうか……」

「本来ならば魔力を回復させるために何日かの休養が必要だが、わたしたち精霊術師なら精霊たちに魔力を分けてもらえば回復は早い。……もう暗くなるからわたしが送ろう。君をフィルトの背中に乗せて、移動しようと思うがそれでいいか?」

「……はい、お願いします」


 ノーマを仰向けの状態でフィルトの背中に乗せ、トロバとエメスが先行して周囲を警戒しつつ、残った精霊たちが治療と魔力を分け与えながら帰路につく。すると、フィルトの背に奇妙なものが映った。


「あの……これなんですか……」

「それはネペンテスの素材だ。冒険者ギルドで高く売れるんだ」

「ネペンテス……って、あの魔獣ですか?」

「魔素の濃度も大して高くないこの場所では、普通魔獣など発生しないだろうから名前を知らないのも無理はないか……自然発生は考えにくいからどこか別の場所から来たのかもしれないな」

「…………」


 あっけらかんと話すエメスだったが、ノーマの表情はみるみる青ざめていった。ネペンテスの蔦で締め上げられたときの感覚が蘇り、背中から冷や汗が噴き出て、身体の震えが止まらなくなった。

 それに気づいたグイッタとイアープがデリカシーのないエメスに憤慨し、グイッタがエメスの背中に体当たりして振り向いたところに、イアープが前足でエメスの頬を叩いた。


「痛っ!!……いきなり何を――― ……わかった、素材はわたしが運ぶからそんなに怖い顔をするな」

「……ごめんなさい、わたし、助けてもらったのに……」

「いや、わたしももう少し配慮するべきだった。……ところで聞きたいことがあるんだが――― イアープ、なるべく言葉は選ぶつもりだから素振りをやめろ」


 ノーマを守るように寄り添い、グイッタとイアープはエメスを睨みつけていた。最早どちらの精霊なのかわからないような状態だったがエメスは話を続けた。


「ネペンテスの中から岩が見つかったが、あれは君がやったのか?」

「……っ!!」

「すまない、一精霊術師としてはどうしても気になってな。もし、良ければ話してほしい」

「……わかりました」


 ノーマはネペンテスに対して行った作戦をすべてエメスに話し、エメスはノーマの作戦を頷きながら聞いていた。


「なるほど……」

(普通の精霊術師なら火球を闇雲にぶつけて魔力切れになって終わりだったな。この子は危機的状況で自分の力量を過信せず、自分ができる最善を尽くしたわけか……)

「あの……?」

「ああ、すまない。しかし、すごい発想だな。ぜひ君の師匠に会ってみたい」

「師匠……?」

「ああ、君は誰から精霊術を教わったんだ?」

「……いません」

「……はっ?」

「あの村で精霊術師はわたしだけです」

「ま、待て。じゃあ、君は誰に教わったわけでもなく、あの作戦を立てたのか!?」

「はい、アクリアとは魔獣に追い詰められたときに契約したので……上手くいってよかったです」

「はっ?! ……すまない、少し君について教えてくれ。君はいつ精霊術師なったんだ?」

「だいたい1ヵ月くらい前です。ルビィと初めて契約して、精霊術師になりました」

「それで……今日、その……アクリアと契約した?」

「はい、友達と川遊びしてる時に声を掛けて、一緒に遊んで仲良くなりました。魔獣に襲われたときも、わたしを心配してついてきてくれて……そのときに契約しました」

「……君の作戦はアクリアの力も必要だったよな?今日会ったばかりの精霊を、君は作戦に組み込んだのか?」

「はい、アクリアが協力してくれると言ってくれたので…… あの……わたし、変なこと言ってますか?」

「……すまないが、少し考えさせてくれ」

「? ……はい」


エメスは頭を抱えながら歩を進める。

 お疲れさまでした。


 中途半端なところで終わって申し訳ないですが、一旦区切ります。

 もっと文才がほしいです‥…

 

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