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第44話 訓練場 1


 数日後、ノーマは再び城を訪れることになった。


「ノーマ、何をしている。そろそろ行くぞ」

「すみません。もう少し……」

「何だ、料理を作ってるのか?……って、何だこの量は!?」

「シルトに頼まれた分と、ラミーさんとハーティスさんとリリ様の分です」

「……なぜラミー?」

「わたしのせいでご迷惑をお掛けしたみたいなのでお詫びにと……」

「気にしてくれていたのか……」

「ちょっとでも労えればいいのですが……」

「文句を言うことはないだろうが……お前、城に何しに行ってるんだろうな。料理して、姫様の相手をして……これでは保母か家政婦だぞ」

「……まぁ、それを言われると……はい……」


 およそ宮廷精霊術師の弟子の仕事とは言えなかった。


 今日もいつものようにリリアンとハーティスが出迎えた。


「姉様ー♪」

「リリ様♪」

「……ノーマ、これはわたしの方で渡しておくぞ」

「あっ、はい、お願いします」

「……ノーマ様、あれは?」

「わたしが作ったお菓子―――」

「……!」

「――を!お二人の分も作ってきました!!」

「……そうですか」

(危なかった……)


 明らかに目の色を変えたハーティスを間一髪で止めることができたことに、ノーマは安堵する。


「ハーティスさん。その、カルロス殿下のことなんですけど……大丈夫でしたか?」

「ああ、あれですか。ガッツリ問題になりました」

「ええっ!?」

「ですが……よくもまぁ、あんなに口が回るもので」

「口?」


 ハーティス曰く、カルロスはノーマにアレクの隠し子疑惑の真相を聞くつもりだったという。二人きりになったのもノーマが話をしやすい状況を作るため、そして隠し子の真偽が定かではないならば二人でいても親族同士との会話になるという考えだった。

 もちろん、アレクは苦言を呈したのだが―――


「ヒゲは若い頃、相当遊んでいたようで、その辺りの信用が薄いんです」

「そうなんですか?」

「ええ、現に隠し子疑惑を本人が否定しているにもかかわらず、噂が消えないのが証拠です」

「その……何と言ったらいいか……」

「なので、今後は誤解を招く行動を慎むことで決着しました」

「よかった……んでしょうか?」

「むー……」

「……あっ、リリ様……」

「またハーティスとばっかり話してる!」

「申し訳ございません。その、わたしにも関係のあることだったので……」

「むー……」

「……そうだ!本当はお茶会のときに出そうと思ってたんですけど、材料が中途半端に余って出来た小さいお菓子があるんです。味見してみますか?」

「本当?食べたい!」

「では……ハーティスさん、毒見が必要なのはわかりますけど全部食べないでくださいね?」

「…… …… …… …… …… …… …… …… …… ……もちろんです」

「本当にお願いしますよ!?」


 その後、リリアンと少しの間遊んでいたが、今日のリリアンはお茶の時間までスケジュールが埋まっており、お菓子をハーティスに預けて、その時間までノーマには自由時間が与えられた。

 ノーマはこの時間を使い、訓練場に向かった。

 訓練場は城から少し離れた場所にあり、ここでは主に剣術や馬術、武器の取扱いなどの訓練を行っている。特にモッコクでは、広大な敷地を最大限に利用することで、馬術に長けた者が多い。血筋や素質から貴族が多い精霊術師と違い、騎士見習いは貴族や冒険者からの叩き上げと幅広い。宿舎もあり、快適とは言えないが食堂や寝床など生活するには十分な設備がある。


(片道二十分くらいかな……割と遠いかも)

「待て、この先に何の用だ?」


 訓練場の入り口には見張りの兵士がいた。しかし、暗殺者からの奇襲の一件で警戒しているのか、その表情は険しかった。


「も、申し訳ございません。……あの、シルト・テムズ……様はいらっしゃいますか?」

「何の用かと聞いている」

「失礼しました!……シルト様に頼まれていた物をお届けに伺いました」

「頼まれていた物?中身は何だ?」

「料理です。可能ならシルト様に渡していただきたいのですが……」

「料理……?悪いが怪しい物を預かることはできない。直ちに立ち去れ」

「そう……ですか……失礼しました」


 ノーマが帰ろうとしたとき、軽薄そうな声が響いた。


「おいおい……淑女になんて目を向けるんだ」

「えっ?」

「! アーノルド様!?」

「真面目も結構だが、淑女には優しくしないとモテないぞ?」

「し、しかし……」

「ノーマちゃんだよな?オレはアーノルド・ポルタ、シルトから聞いてないか?」

「……あっ、シルトの兄弟子さん……し、失礼致しました!」

「いいって……シルトに会いに来たのか?」

「え、いえ、シルト……様に頼まれた物をお届けに伺いました」

「あいつのことは呼び捨てでいいよ。せっかくなら直接渡せばいいじゃないか」

「えっ、で、ですが……」

「アーノルド様。あなたのお知り合いといえど、部外者を立ち入らせるわけには……」

「この子なら心配いらない。先の暗殺者騒動の最中、姫様たちの窮地を救ったエメス様の弟子だぞ?」

「こ、この子が……!?」

「万が一のときはオレが責任を取る。……いいよな?」

「は、はぁ……」

「お、お待ちください……」

「?」

「その、以前こちらに伺うという話はしたのですが、本人があまり望んでいなくて……アーノルド様から届けていただけませんか?」

(あいつ……!)


 アーノルドは一瞬怪訝そうな顔をしたが、ノーマに向き直ると笑顔で答えた。


「気にしなくていいし、責められたらオレのせいにしていい。……直接渡してやってくれ」

「……か、かしこまりました」

「後……もっと普通にしゃべっていいぞ?こうして直接話すのは初めてだろうけど、知らない仲じゃないし……兄貴のようなものだと思ってくれていい」

「急には……でも、お気遣いありがとうございます」


 ノーマはアーノルドに頭を下げ、共に訓練場に入っていった。


(前の任務のときもそうだったけど、良い子だよな……それにしても、心配になるぐらいならサッサと告白の一つでもしろってのに!あいつは……!)

(……だが、これはチャンスだ。煮え切らないようなら、多少強引でも揺さぶった方がいいだろう。なにより―――)

(滅茶苦茶おもしろそうだからな)


「? アーノルド様、どうされました?」

「……いや、何でもないよ」

「?」


 ニヤケる顔を堪えながら、アーノルドは訓練場の中を案内した。


 お疲れ様でした。


 季節の変わり目は体調を崩しやすいので、皆様お身体にお気を付けください。

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