第43話 謎と噂 6
その後もリリアンの表情はどこか暗かった。
「……ちょっと、トイレに行ってくる」
「あっ、でしたら一緒に……」
「……ううん、いい。一人で行く」
「でも……」
「姫様、先日の暗殺者の一件もあります。兵士に往復の護衛をお願いしてください」
「……うん、わかった」
「大丈夫でしょうか?」
「白昼堂々襲ってくる可能性は低いでしょう。それに、警備体制も強化されていますから……」
カルロスと会ってから、急激に元気をなくしたリリアンを心配し、ノーマはハーティスに相談した。
「あの……リリ様とカルロス殿下は仲が悪いんですか?」
「いいえ、王子は姫様を可愛がっていますよ。歳が離れているのもあって、多忙な中、姫様との時間を作ろうとするくらいに」
「だったら、どうしてあんなことを……?」
「……あなたを王子に取られると思ったんじゃないですか?」
「わたしが?」
「モテますからね。王子に夢中になって、自分を見てくれなくなるんじゃないかと不安なんでしょう」
「いやいやいや、わたしなんて王子からしたら珍獣みたいなものでしょう?」
「そこまで卑下する必要ないと思いますが……ただ、気になることはあります」
「気になること?」
ハーティスはお茶を淹れ直しながら続ける。
「王子の口ぶりからの推測ですが、王子があなたをお茶会に誘った……で、合っているでしょうか?」
「はい」
「王子が自分から女性をお茶会に誘うなど珍しいことです」
「そうなんですか?」
「さっきも言いましたがモテるんですよ。女性から言い寄ってくるので、自分から誘わなくてもいいんです。さすがに婚約者候補の方は別ですけど……」
「婚約者がいたんですか!?」
「ヒゲが王子の意向も尊重したいと言うことで、正式な婚約はまだですが……トモイテ王国のフェアリス・ガバタ様がおりますね」
「……あの、それなら、わたしをお茶会に誘うのってマズいんじゃ……」
「婚約前であること、使用人も一緒ではあることを加味してもギリギリですね」
「……!!!?」
ノーマの顔は真っ青になった。
この世界の常識として、婚約者がいる王族・貴族は妄りに他の異性との交流は避けるべきとされている。これは貞操観念諸々の理由があり、破られれば浮気を公言するようなものであると同時に常識を疑われる行為である。
特にカルロスのような立場のある人間がそれをやった場合、婚約破棄の恐れがあるだけでなく、それによって生じる不利益と、不貞を行ったカルロス自身の立場が危ぶまれる。
なお、このことを理解している貴族の令嬢たちはあくまで集団でのお茶会の誘いであるのに対し、ノーマと二人きりで散歩しながら会話するのは、かなりグレーだったりする。
「い、一体なぜカルロス殿下は……」
「日頃姫様の相手をしてくださっていることへのお礼のつもりか、それ以外か……真意は読めません」
「も、もしかして、わたしのせいでカルロス殿下の立場が悪くなってしまうんでしょうか?」
「ないとは言い切れませんが……悪いのは王子ですし、自業自得でしょう。……ただ、最悪なのは王子の名誉を守るために、あなたに濡れ衣を着せる場合ですね」
「そ、そんな!?わたしは、わたしはどうしたら―――」
「落ち着いてください。幸いあなたの人となりは陛下もご存じですし、先ほどは冷やかしましたが、あなたがそういうつもりでないことは、わたしが確認しています。あなたが糾弾されることはまずないでしょう」
「……」
「後は王子がどう出るのか……まぁ、もしもあなたが糾弾されそうになったら、それとなく話してもいいですけど」
「それは……助かりますけど……」
「……何だか無性に甘い物が食べたくなってきました。具体的には黄色くてトロっとしていて甘いお菓子があればなぁ~……」
「……え」
「いやー、そういう場で発言するのにもエネルギーが必要だからなー」
要するに、「助けてやるからプリンをよこせ」と言っている。しかし、ノーマは素直に頷けなかった。
「……あの、これって賄賂になりませんか?賄賂が絡んだ状態で証言してもらっても、捏造とかを疑われてしまうと思うんですけど……」
「……チッ、無駄に賢いですね」
「無駄にって……」
「いいじゃないですか。プリンの四つや五つ……」
「多くないですか?!……あれ?料理長さんに作ってもらえないんですか?」
「食材管理の関係上、ヒゲたちの分しか作らないとか抜かしやがりましたので無理です」
「それは……仕方ないのでは……」
「姫様から奪ってなんとか凌ぐ日々……可哀想だとは思いませんか?」
「可哀想なのリリ様じゃないですか!」
「別にいいでしょう?普段から我儘に振り回されてるんですから……とにかく、わたしをこんな身体にした責任を取ってください」
「誤解を招く言い方しないで!?」
ノーマとハーティスが言い合っていると、リリアンが戻ってきた。
「……二人で、なにしてるの?」
「リリ様。……ちょっとお話をしてただけですよ」
「……」
「!? ……リリ様?」
「……姉様は、わたしの姉様だもん……!」
「!!!」
ハーティスと仲良さそうに話していたことに嫉妬し、リリアンは頬膨らませながらノーマの腕に抱き付いた。そんなリリアンに応えるように、ノーマは満面の笑みを向ける。
「姉様……?」
「リリ様。わたしは、リリ様が大好きですよ」
「……本当?」
「はい、本当です」
「……へへ♪」
「……不安は杞憂でしたね。新しいお茶淹れますから、席に着いてください」
その後、明るさを取り戻したリリアンと楽しいひとときを過ごした。
お疲れ様でした。
今回の話を作成するにあたり改めていろいろ調べた結果、貞操観念含め、すでにかなりの不備が見られました……完全にこちらの勉強不足です。申し訳ございません。気になる部分はあるかと思いますが、二次創作と割り切っていただけるとありがたいです。




