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第41話 謎と噂 4

「……わぁっ!」

「おっと……これは失礼しました」

「か、カルロス殿下!? た、たた、大変申し訳ございません」

「いえ……どちらへ?」

「師匠のところへ差し入れを、と……」

「そうですか……なら、途中までお送りしましょう」

「……えっ? い、いえ、結構です。殿下の貴重なお時間をわたしなんかに……」

「構いませんよ。気分転換を兼ねて散歩でもしようと思っていたところでしたから……一人で歩くのは退屈ですし、あなたの用事のついでに簡単なおしゃべりに付き合ってくれませんか?」

「か、かしこまりました……」


 ノーマは立場上、断れなかった。エメスの元へ二人で向かうことになったものの、緊張のあまり話を切り出せなかった。


(どうしてこんなことに……)

「……あの日、どうして泣いていたのですか?」

「あの日……?」

「暗殺者に襲われた日です」

「……あっ、あのときですか。……故郷のことを考えていたんです。みんなの顔を思い浮かべたらなんだか胸が苦しくなって……自然と涙が出てしまいました」

「故郷?」

「ボタン村です。ここに比べたら何もないところですが、穏やかで暖かくて……いい場所なんですよ?……って、そんなことを言ってもわからないですよね?」

「確か牛乳やチーズが美味しいと評判の村だったような……」

「ご存じなんですか!?」

「えぇ……質がとてもいいので、商業ギルドの方で仕入を増やす話が出ていました。最近だと仕立て屋の服のデザインが少し話題になっていますね」

「ハック兄とダレス、ブランのところだ……!」

「ご友人ですか?」

「はい、仕立て屋も牧場も一つだけですから間違いないです。手紙だと元気にやってるぐらいの情報しかなかったので……そっか……」

「……嬉しそうですね」

「はい。久しぶりに会いたいな……」

「友人はどんな方なんですか?」

「そうですね。ハック兄は―――」


 ノーマは故郷の村が褒められたことで舞い上がり、嬉々として友人たちの話をした。カルロスはそんな様子を微笑ましく見ていた。

 そうしているとエメスのいる部屋に着き、ノーマは正気を取り戻した。


「も、申し訳ございません。わたしばっかりベラベラと……」

「いえ、君の話を聞いていると、一度ボタン村に伺ってみたくなりました」

「い、いえ、そんな……お話を聞いてくださってありがとうございました」


 カルロスに頭を下げて、ノーマはエメスにコロッケを届けるべく、部屋のドアを叩いた。


「師匠、今よろしいですか?」

「……ノーマか。入っていいぞ」

「はい……って、お、お取込み中でしたか?」

「精霊術師師団の団長と話をしていただけだ」

「いや、偉い人じゃないですか!」

「わたしの方が偉い!」

「張り合わないでください!」


 エメスとノーマが言い合っていると、団長と呼ばれていた女性がノーマに向かって自己紹介を始めた。


(綺麗な人……)

「初めまして、わたしは精霊術師師団・団長、ラミー・ムグエと申します」

「あ、申し訳ございません。わたしは―――」

「ノーマ・ムビオスさんですね?噂は聞いていますよ」

「えっ、あっ、はい……噂、ですか?」

「ええ、エメス様を超える才能をお持ちだとか」

「そう……なんですかね?」

「それと……本当に陛下の隠し子ではないのですよね?」

「違いますよ!?」

「そうですか……陛下からも明言されてはいたのですが、噂が消えなかったので……」

「おもしろおかしく広まるのが噂と言うものだからな。もっとも、陛下の場合は……いや、やめておこう」

「ちゃんと否定しておかなきゃ……」


 ノーマが嘆く中、エメスは改めてノーマに質問する。


「それで、わたしに何か用か」

「……あっ、差し入れを届けに来たんです。小腹が空いてる時にでもと思って」

「これはありがたいな……その口ぶりだと、お前が作ったのか?」

「ええ……はい」

「……ハーティスの無茶ぶりか?」

「……はい」

「まったく……」


 コロッケをお皿に並べていくと、ラミーはまじまじとコロッケを見つめていた。


「まぁ……これが噂の」

「またですか?」

「ええ……以前の任務では、あなたの料理に随分助けられたと新人たちから聞いていました」

「そうなんですか……なんだか嬉しいですね」

「後、王族を餌付けしているとも……」

「なんでわたしの噂って変な邪推も入るの……?」

「まぁ、プリンで篭絡したと言われたら否定は難しいか……」

「師匠まで!?」

「実際、最近のデザートはプリンで固定されているらしいぞ。充分美味しいらしいが、口どけの具合はお前の作ったやつの方が上らしい」

「わたし、料理長さんのプリン食べたことなかったから知らなかったです……」

「その前からエメス様も料理が美味いとよく自慢していましたしね」

「……師匠?」

「……さて、これは何という料理なんだ?」


 エメスはノーマの視線を露骨に避けた。

 

「……コロッケです。そのままでもいいですけど、ソースを付けても美味しいですよ」

「そうか、それでは早速……」

「……」

「……一つなら分けてやる」

「ありがとうございます」


 二人がコロッケを満足そうに頬張る中、ノーマはある疑問を投げかけた。


「……師匠って、どれぐらい偉いんですか?何か、混乱しちゃって……」

「そんなに難しい話じゃない。精霊術師師団は精霊術師部隊と治癒術師部隊に分かれているんだ。それぞれに部隊長がいるが、それを総括しているのが精霊術師師団の団長、その上にいるのが宮廷精霊術師であるわたしだ」

「なるほど……」

「わたしの主な仕事は精霊術師師団の指導や王命の執行、後は雑務といったところだ。指導はとにかく、王命関係だとわたししか動けないから、その間は団長であるラミーが精霊術師師団を取り仕切るといった感じだ。……もっとも、こいつが優秀だからわたしはある程度自由にできるんだがな」

「やっぱり、すごい方なんですね……」

「……煽てても無駄ですよ?」

「……へっ?」

「エメス様はそうでなくても体よく面倒事を投げてくるので、こちらとしては心労が絶えません。特に弟子を鍛えるからと、二年間ほとんどの仕事を丸投げされたときは殺意を覚えました」

「……申し訳ございません」

「あなたが謝る必要はありません。あなたは……ね?」

「わたしじゃなければいけない仕事も少なかったからな。もっとも、指導役の選定がおざなりだったのは失望したが……」

「普段の仕事に加えてあなたの仕事の代理もしていましたから、忙しくて手が回らなかったんですよ。部隊長であるハリーとメザーも別の任務で多忙ですし……ただでさえ人手不足なのに、ちょっとロリコン呼ばわりされただけであんなことをした誰かさんのせいで、さらに減りましたしね?」


 ラミーは言葉に圧力を含めていた。そんなラミーにエメスは―――


「……コロッケ、もう一つ喰うか?」

「それで労えたと思わないでくださいね!……もらいますけど」

「えっと……それじゃあ、わたしはこれで……」

「ノーマさん。あなたの実力は、チェインからも聞いています。いつかあなたと手合わせできる日を楽しみにしていますね」

「え、ええ……そのときは、お手柔らかにお願いします……」

「後、できればプリンも―――」

「……ノーマ、そろそろ姫様が戻られる頃だろう。行ってこい」

「……あっ、はい。し、失礼しました」

「あっ、ちょっ……!」


 ノーマはコロッケの入った紙袋を抱えながら、リリアンの方を優先した。


 お疲れ様でした。


 余談ですが、エメスは人前でノーマを褒めるのが照れ臭いと思っています。

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