第38話 謎と噂 1
この日、ノーマは呼び出しを受けて、エメスと共に城へ向かっていた。
「随分と姫様に気に入られたみたいだな」
「あはは……実はまだ気後れはしてるんですけどね」
「その割には嬉しそうだが?」
「それは、まぁ……はい」
あの日以来、リリアンがノーマを姉として慕うようになってから呼び出されることが多くなった。呼び出された当初、ノーマは不安だった。我儘なことで有名なリリアンから何を命令されるのか、もし機嫌を損なうようなことがあれば自分がどうなってしまうのか、悪い想像ばかりが頭を過ぎったためである。
しかし、実際は―――
「姉様、見て見て!」
「わぁ、綺麗なお花ですね……」
「今日咲いたの。一緒に見に行こ♪」
「待て待てー!」
「ふふっ……こっちですよ~」
「……ルビィ、イマリ、足止めして!」
「……えっ……ちょっ、二人とも!?」
「……捕まえたー♪」
「え~、今のズルくないですか~?」
「ズルくないもん♪」
「姉様、姉様」
「はい……!っとと、……どうされました?」
「ギューッてして?」
「……こうですか?」
「えへへ……♪姉様~……♪」
リリアンの我儘の内容は、ノーマの予想に反し、ノーマに甘えることだった。
あまりの可愛さに、ノーマはつい頭を撫でたりしてしまったものの、リリアンはそれを許容し、愛称で呼ぶことさえ許すようになり、いつのまにかノーマもリリアンを可愛い妹のように思うようになった。
そんな二人の仲睦まじい様子は微笑ましい一方で、エメスの表情は暗く、溜息を吐いた。
「はぁー……」
「師匠、どうかしたんですか?」
「……姫様とのことがなければ、わたしはお前に精霊術師部隊の訓練を受けてもらいたかったんだが……姫様のあの様子ではお前を手放すとは思えんな」
「……師匠から話を通してもらえれば、リリ様も納得するでしょうか?」
「無理だろうな……わたしは姫様とそれほど親しくない。それに、問題はそこだけじゃない」
「どういうことですか?」
エメスはますます肩を落とす。それというのも、ノーマがリリアンの相手をするようになってから、リリアンの我儘が大幅に減少したらしく、侍女や使用人たちからも、このままノーマにリリアンの相手をするよう頼んでほしいと嘆願書まで届くようになったという。
「話はわかりましたけど……ちょっと大袈裟過ぎませんか?我儘が減ったくらいでそんな……」
「聞いた話だが、我儘が百から二ぐらいまで減ったらしい」
「そんなに!?」
「それに、これまで家族と専属の侍女以外で慕う人間がほとんどいなかった姫様が、お前を姉様と呼んでいることで王の隠し子疑惑まで出ている」
「わたしのお父さんは一人だけですよ?!」
「まぁ、親子関係があるなら謁見の間であそこまでの無様は晒さないだろうな。品もないし」
「合ってるけど酷くないですか!?」
しばらく談笑する中で、ノーマは気になることをエメスに尋ねた。
「師匠、その……」
「どうした?」
「陛下と宰相様って……仲が悪いんですか?」
「ああ、サミュエルか……そうだな。「民あっての国」という考えの陛下と「貴族至上主義」の宰相では思想そのものにズレがある」
「でも……陛下は宰相に選んだんですよね?」
「陛下が選んだというより、貴族たちからの推薦だったんだ。能力的に問題はなかったんだが、以前から考え方の違いで仲違いはしていたな」
「わたしに対する当たり……強かったですもんね」
「貴族以外は下僕だとでも思っている節があるからな……宰相の言うことは基本的に気にしないでいい。不快だろうが、わたしの弟子である以上滅多なことはできないはずだ。家畜が鳴いているぐらいに思っておけ」
「家畜って……師匠も宰相様のことを嫌っているんですか?」
「……元々あまり好きではなかったが、姫様たちを助けたお前を怒鳴りつけるようなやつなど好きになる要素がない」
「師匠……ありがとうございます」
一息つき、エメスは話を続ける。
「何より決定的だったのは「騎士団長の乱心」のときだ」
「騎士団長が宰相様に剣を振るったっていう……」
「そうだ。実はその事件があったとき、陛下は公務で城から離れていたんだ。だから、宰相の独断で審議を勝手に進め、処刑まで済ませてしまったことが問題になった」
「それ、シルトからも聞きました。そこから、騎士団の方々は宰相に対して不信感を持つようになったと……」
「騎士団もそうだが陛下も騎士団長に厚い信頼を置いていたし、何より陛下の不在時に審議はおろか処刑まで進めたことに憤慨してな。そこから、陛下と宰相との間に決定的な亀裂が入った」
「どうして勝手にやったんでしょう?」
「わからない。サミュエル本人は「宰相である自分に剣を振るったのだから正当な処分である」の一点張りでな……」
「……あの、グイッタなら真偽がわかるんじゃ……」
「それが……その主張そのものはサミュエルの本心からの言葉だからか、読み取りが難しくてな。だが、白ではないだろう。行動が怪しすぎる」
「じゃあ―――」
「だが、証拠がない以上、一方的に裁くわけにもいかない。そんなマネをすれば司法が機能しなくなってしまうからな」
「……なんだか、もどかしいですね」
「お前が首を突っ込むことじゃない……だが、宰相は信頼していい相手じゃないことだけは頭に入れておけ」
「……はい」
お疲れ様でした。
新しい投稿方針にしたことで、見くれる方が増えてくれたようで大変嬉しく思う一方で、今までがいかに長くて読みづらく、読み手側に負担を掛けていたか実感しています……申し訳ございませんでした!!




