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第36話 変な人 3

 

 しかし、月明りのわずかな陰りを見逃さなかったノーマは一早く察知し、咄嗟に二人を庇った。


「危ない!!」

「!?」


 一撃目が空を切り、再度ナイフを振りかぶる一瞬の隙を付き、水の精霊術による放水で押し出した。バルコニーの柵まで吹き飛ばすことに成功したが、それを皮切りに次々と仲間が現れ、吹き飛ばされた一人もダメージこそあるものの再び構えた。


「こ、この人たちは……?」

「暗殺者、でしょうね。まさかここまで侵入しているとは……」

「……う……ぅぇ……」


 リリアンが泣き出しそうになる暇もなく、暗殺者は次々に襲い掛かる。カルロスも剣を構えるが、ノーマの方が早かった。


「お二人とも、わたしの傍に!アクリア、ネフラ、イマリ、ティル!!」


 吹き上げた水が凍結し、氷の茨となってノーマたちを包む。電撃を纏わせることで触れたものを傷つけ、感電させる茨のシェルターを形成した。

 暗殺者たちは一瞬怯んだものの、すぐにお互いにハンドサインを出す。これは声で身元がバレないようにするためのもので、独自の動作で会話をしていた。なお、会話要約すると―――


「精霊術師がいるなど聞いていないぞ」

「出直すか?」

「いや、続行する」

「了解。だが、どうする?」

「あの茨は隙間だらけだ。強度はそれほどでもないはず……破壊工作用の爆弾で一気に仕留める」

「派手すぎないか?騒ぎになれば面倒だぞ?」

「爆発に紛れて撤収すればいい。生死の確認はできないが、量が量だ、無事では済まない」

「了解」


 爆弾を使おうと懐に手を伸ばす。この間十数秒ほどであり、常人ならばハンドサインに惑わされて反応が遅れるが、修業の日々の中、魔獣との戦いで散々辛酸を舐めさせられたノーマの前では致命的なタイムロスだった。


「発射!!」

「……!!?」


 茨の中を対流していた水を、内包していた空気の圧力で棘の先端から一斉に発射する。周囲に味方がいないからこそ使える無差別な全包囲攻撃。水の威力そのものは当たると痛い水鉄砲程度だが、電撃が加わることで気絶するほどの威力に跳ね上がっている上に、無数に生えた茨の棘の軌道を読むことは困難を極めた。

 回避する暇もなく全員に直撃し、気を失った。それでも声を挙げなかったのは暗殺者としての意地だったのかもしれない。

 気絶を確認しつつも念入りに手足を氷で拘束し、ノーマはカルロスとリリアンの安否を確認する。


「ネフラ、周囲を警戒!……お二人とも、お怪我はありませんか?」

「え、えぇ……大丈夫です」

「うっ、ぅっ……うわーーーん!!」

「リリアン殿下、どこかお怪我でも!?」

「いえ、怖かっただけでしょう」

「リリアン殿下……大丈夫です。悪い人はやっつけましたよ」


 リリアンの声が響いたのか、衛兵を引き連れた宰相が駆け付けてきた。


「こ、これは一体……!」

「賊が侵入した!直ちに警鐘を鳴らせ!」

「は、はいっ……!」

「な、なぜ、平民がここに……!」

「話は後だ。今は避難を!衛兵、護衛を頼む!」

「かしこまりました」


 程無くして警鐘が鳴り、広間に到着すると、使用人や侍女、料理人や学者などの非戦闘員やアレクたちも避難していた。


「……カルロス、リリアン、無事であったか」

「父上もご無事で」

「お父様……」

「……それで、平民。なぜ貴様がここにいる?」

「えっ、あの……」

「なんだその恰好は……誰の許可を得て、平民風情がここにいるんだ!!」


 突如、宰相は怒りを露わにするが、陛下から許可をもらっていることを宰相が把握していないとは思っていなかったノーマは混乱した。なにより、宰相の剣幕が激しすぎて口を挟めなかった。

そんな状況をアレクが諭した。


「余が許可した」

「へ、陛下……!?一体なぜ……?」

「ハーティスから要請があり、余が許可した。何か問題があるのか?」

「わ、わたしにはそんなこと、一言も……」

「余が許可した以上、其方に話を通す必要はない。それに……その様子では難癖をつけて追い出そうとしたのが目に見える」

「し、しかしですな。このような者がいると我が国の格式というものが―――」


 宰相の見苦しい言い訳にカルロスも口を挟む。


「宰相、彼女は僕たちの命の恩人です。侮辱は許しませんよ」

「で、殿下……!」

「……カルロス、説明せよ」

「はい。賊による奇襲を受けましたが、彼女が撃退してくれました。彼女がいなければ、僕たちは今頃命を落としていたかもしれません」

「そうか……礼を言うぞ」

「い、いえ……もったいないお言葉です」


 安堵の表情を浮かべるアレクだったが、宰相に向き直ると表情は険しくなり、声には怒気が含まれていた。


「……して、宰相。其方は我が子の命の恩人に対し、このような無礼を働くとはどういう了見だ?」

「……も、申し訳ございません」

「謝る相手が違うであろう」

「……」

「己が非を認め謝罪することもできぬとは……平民貴族以前に幼子以下の愚か者が、よくもあんな大口を叩けたものよな」

「~~~……も、申し訳、ございませんでした!」

「……こんな人間を宰相に選んだ余の采配ミスでもある、余からも謝罪しよう」

「い、いえ……お気になさらず」


 心底悔しそうに顔を歪める宰相。怒りに身を震わせるが、周囲の冷ややかな視線に耐えかねて、その場を離れた。

 呆れるアレクに、ノーマは気になっていることを聞いた。


「陛下、不躾ながらお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「許す」

「ありがとうございます。師匠は今どこにいるのでしょうか?」

「エメスは今頃賊を探し、戦っているだろう」

「……陛下、わたしも師匠の元へ行こうと思います」

「……いや、其方は正式に我が国に所属する人間ではない。却って混乱を招く危険がある。それに―――」


 アレクはリリアンがノーマの服を掴んでいるのが見えていた。リリアンの心情を察し、アレクはノーマに頼みごとをした。


「すまないが、娘の傍にいてやってくれ」

「……かしこまりました」


 アレクに従い、ノーマは窓や扉に意識を向けて周囲を警戒していた。すると、リリアンがあることに気付いた。


「……ねぇ、ここ破れてるよ?」

「えっ!?」

「本当だ……僕たちを庇ったときのでしょうね」

「あ、あの……も、申し訳ございません。べ、べべ、弁償いたしますのでどうか……」

「気にしなくていいですよ。あの状況では仕方ありません」

「じゃ、じゃあ、せめて買い取ります。縫えばまだ使えますし……あの、おいくらでしょうか?」

「確か……金貨一枚ほどだったような」

「わ、わたしの家族の一ヶ月分の生活費……」

「ノ、ノーマさん!?しっかり!」


「……余は頼む相手を間違えたかもしれぬ」


 卒倒するノーマを見て、アレクは少し後悔した。

 しばらくして警鐘は止み、ノーマはリリアンと共に部屋に戻った。護衛もいるが、ノーマも寝ずの番をすることにした。外に出て護衛と共に周囲の警戒をするつもりだったが、リリアンが傍にいてほしいと駄々をこねた。護衛との相談の結果、ノーマはリリアンの傍で護衛することになった。

 不安になったリリアンは、ノーマの手を強く握る。


「……」

「……みんなであなたをお守りするので、安心してお休みください」

「……うん」


 握られた手にそっと手を置き、火の精霊術でリリアンの身体を暖める。次第に眠気が訪れる中、リリアンはノーマのことを考えていた。


(……面白くて……優しくて……かっこよくて……かっこ悪くて……あったかい……変な……人……)


 お疲れ様でした。


 ちょっとリアルでバタバタしています……

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