第35話 変な人 2
就寝時間になりハーティスが声を掛けにきた。
「姫様、そろそろお休みの時間です」
「あっ、もうこんな時間なんですね」
「ノーマ様は客間へどうぞ。ご案内いたします」
「殿下、夜分遅くまでお邪魔いたしました。わたしはこれで……!」
「……」
立ち去ろうとした瞬間、リリアンがノーマの服を引っ張った。その様子を見たハーティスがノーマに声を掛ける。
「……! ……ノーマ様、こちらが客間の鍵です」
「あっ、はい……」
「これを、こうして……はい!」
ハーティスが客間の鍵を手で握り、手首を一回転させると手の中から鍵が消えていた。ノーマは鮮やかな手さばきに感動し、拍手を送る。
「すごーい!……あの、鍵はどこに?」
「申し訳ございません。たった今失くしました」
「はいっ!?」
「なので、今晩はこの部屋でお過ごしください」
「ちょ、ちょっとそれは問題になりませんか?」
「……どうです、姫様?」
リリアンは首を横に振る。逃げ道を塞がれたノーマは、覚悟を決めるしかなかった。
「そ、それでは、一晩お世話になります。失礼ですが、ソファで寝るので毛布を貸していただけませんか?」
「毛布持ってくるのダルいので、一緒のベッドでお休みください」
「い、いや、流石にそれは……」
「わたしもう仕事上がりなので、姫様のことよろしくお願いしまーす」
「え、あの、ちょっとーーーっ!!」
ノーマの制止も空しく、ハーティスは部屋を施錠して出て行ってしまった。
ノーマはリリアンにひたすら頭を下げる。
「……殿下、わたしはソファで寝ます。もしうるさかったりしたら外に叩きだしてください!!」
「……一緒に、寝よ?」
「―――!!?」
(かわいい!)
リリアンの厚意に甘え、同じベッドに入る。その後も話をしているとリリアンの眠気が限界を迎え、ほどなくして寝息を立てていた。そして、ノーマはと言うと―――
(眠れない……これ寝返り打って殿下に何かあったら、わたし処分されるの?……離れようにも殿下が服を掴んでるせいで逃げられないし……うぅ、何かお腹痛くなってきた……)
動けないでいるノーマだったが、リリアンに目をやると、リリアンの目から涙が零れていた。
(……涙?)
「お母……様…………」
(!? ……そういえば、王妃様って会ったことない……もしかして、会えてないのかな……?)
哀れに思ったノーマは、リリアンの頭を軽く撫でる。すると、リリアンの表情が少し緩み、甘えるように撫でている手に頭を押し付ける。
(寂しかったのかな……)
寝息が落ち着くまで、ノーマはリリアンの頭を撫でていた。しばらくして、リリアンが目を覚ました。
「う……うぅ……」
「殿下?」
「……トイレ」
「あっ、はい……今どきます」
「……一緒に来て」
「かしこまりました」
部屋を出て、トイレを済ませた帰り。バルコニーの方に目をやると、綺麗な満月が目を引いた。
「すごい……ここまでハッキリ見えるのは珍しいですね」
「お月様……見たい……」
「あっ、殿下。お待ちください……」
リリアンと共に月を見上げる。神秘的な光景に見惚れながら、ノーマは不意に故郷を思い出していた。
「綺麗……」
「そうですね……」
(……そういえば、修業でバタバタしてたから、ゆっくり月を見る機会なんてなかったかも……)
手紙でのやり取りは定期的に行っているものの、エメスの仕事の関係で予定が合わず、故郷には帰れていなかった。
(みんなも同じ月を見てるのかな……お父さん、お母さん、ブラン、ターナ姉、ハック兄、ダレス、村のみんな……久しぶりに、会いたいな……)
「……泣いてるの?」
「え……あれ?どうしたんだろう。涙が……」
「そこにいるのは誰だ!」
「!?」
ノーマがホームシックになったのも束の間、誰かに呼ばれて振り返る。
そこにいたのは王子であるカルロス・バーコン。ノーマは謁見の際にもその姿は見ているが、容姿端麗で、立ち振る舞いだけでも高貴だとわかる。しかし、瞳の奥には底知れぬ冷たさも感じられるという印象だった。
一方で、カルロスから見たノーマは夜風になびく髪と、月明りに照らされた潤んだ瞳、寝巻の艶やかなデザインも相まって、一枚の絵画のように写っていた。
お互いが硬直したが、ノーマが王子を認識した瞬間、即座に跪いた。
「カ、カルロス殿下。申し訳ございません!」
「君は……」
「ノーマ・ムビオスと申します。リリアン殿下のご厚意で、分不相応にも一晩お世話になっております」
「ああ、あのときの……ハーティスはどこに?」
「仕事上がりと言って、帰ってしまいました」
「そうですか……ノーマさん。すぐに妹と一緒に避難してください」
「お兄様……?」
「えっ、それはどういう……」
「賊が侵入している可能性があります。」
「!? わ、わかりました……よろしければわたしにお二人を護衛させてください」
「……わたしも多少剣術に覚えがありますが、精霊術師であるあなたが一緒なら心強いです。……では、一緒に広間に避難しましょう。そこなら交代で常駐している近衛騎士もいますし、安全です」
「わかりました」
三人がバルコニーから立ち去ろうと廊下へ向かって歩いていると、突如として人影が現れる。黒衣に身を包み、手には鋭利なナイフが握られていた。素早い動きと不意打ちだったこともあり、カルロスは反応が遅れた。
お疲れ様でした。
明けましておめでとうございます。
昨年に比べ、作品を見てくれる人が増えているようで、とても嬉しいです。
これからも頑張っていきますので、今年もよろしくお願いします。




