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第33話 奉仕の喜び 3


「……どうして、そんなに楽しそうなの?」

「? 楽しそうでしたか?」

「うん……疲れるし、面倒だし、こんなに手首も痛くなるのに……どうして?」

「そうですね……喜んでほしいから、ですかね?」

「……それだけ?」

「はい、陛下がおっしゃっていましたが、殿下がわたしのプリンをまた食べたいと言っていたと聞きました。わたし、とても嬉しかったです」

「嬉しい……?」

「はい、自分のやったことが誰かの幸せに繋がることは嬉しいものですよ」

「……そうなの?」

「そうですよ。城内を一通り見ましたが、埃のない部屋や廊下、よく手入れされた庭園、それに……今料理長さんたちが作っている料理、どれも相手に喜んでほしいという気持ちが込められています」

「……そんなの、考えたことなかった……」

「そうですか?……殿下もできてますよ?」

「わたし?」

「卵を割ったり、混ぜるのを手伝ってくれたり、わたしは手伝ってもらえて嬉しかったです」

「!? …………」

「……あっ、申し訳ございません。差し出がましいことを……」

「……ううん。別に、いい……」


 作業は進み、火を入れる段階に入る。ルビィとアクリアが以前と同様に準備に取り掛かった。


「ルビィ、アクリア。お願いね」

「そっちもかわいい……」

「申し訳ございません。危ないので精霊たちに手を触れるのはご遠慮ください」

「……見てるのはいい?」

「はい、それは大丈夫です」


 ノーマはイメージを伝えることに集中しているので気付けなかったが、アクリアがテーブルをペチペチと叩きながらルビィに指示を出し、鍋に抱き付いているルビィはアクリアの指示に応えるように尻尾を揺らす。その様相は傍目から見ると愛らしかった。


 しばらくして、鍋から取り出されたプリンの粗熱を取っている間にレシピを書き上げ、 ノーマはレシピを料理長に渡し、詳細を説明する。


「すみません。火の入り方については少し抽象的になってしまうのですが……」

「弱火でじっくり……その後の冷却は氷室でもいいと……」

「みなさんの分も作ったので、どうぞ召し上がってください」

「ありがとうございます。前回は食べられなかったので」

「えっ、でも結構な数があったはずですが……」

「味を知るためにあそこの侍女に分けるように言ったのですが……見事に持ち逃げされまして」


 料理長はハーティスに恨めしそうな視線を向けるが、こちらの会話が聞こえていたのか、ハーティスは悪びれる様子もなくWピースで返していた。


(いっそ清々しい……)

「……それでは、わたしはこれで失礼しますね」

「もうお帰りですか?」

「はい。依頼された分はすべて終わったので、師匠と合流して帰ろうかと……」

「!」

「そうですか……お気をつけて」

「はい、それでは失礼します」


 厨房を出ようと出口に向かったときだった。


「~~~~…… ―――!」

「殿下?……えっ!?」


 ノーマはリリアンに抱きつかれた。突然の行動に戸惑い、ノーマは動けなかった。


「えっと……殿下?」

「……」

「えっと……」

(どうしよう、振り払うわけにもいかないけど……かといって、このままいても……)


 助けがほしくてハーティスに視線を送るが、ハーティスは目を伏せる。暗にノーマに対応を任せたという意味だったが、ノーマからすれば助けを拒否されたように映った。

 頭を悩ませていると、ふとリリアンの行動に既視感を覚えた。


(……そういえば、昔に似たようなことをやったような―――)


 それはノーマがまだリリアンと同じくらい頃、ノーマは定期的にルマリアに抱き付いていた。


「おかーさん♪」

「あら、どうしたのノーマ?」

「へへ……♪」

「ふふっ……なーにーよー?」

「えへへ……♪」


 自分が笑顔を向けると母も笑顔で返し、頭を撫でたり、頬にぷにぷにと触れる。いつしかやらなくなったが、自分が愛されていることを感じられるこのスキンシップがノーマは大好きだった。

 そのときの自分とリリアンが重なり、ノーマはあの日の母を真似てみることにした。背中を軽く叩き、リリアンが顔を上げて目を合わたところをノーマの方から微笑みかけた。


「どうなされました、殿下?」

「! ……~~~―――」


 ここで共に笑い合えればよかったのだが、リリアンはノーマに顔を埋めて動かなくなってしまった。


(……間違えた!!?)


 ノーマは真っ青になるが、いつの間にか傍にいたハーティスが何かを納得したように頷いていた。


「ほうほう……なるほどなるほど……」

「いつの間に!? あ、あの……わたし……」

「……ノーマ様、もしもご予定がないのであれば、この後お茶会などいかがでしょう?」

「えっ? あの、いいんでしょうか?」

「ええ、もちろん」

「でも、師匠がなんて言うか……」

「ご安心を。許可はわたしの方でとっておくので……姫様、移動しますから離れてください」

「……」

「それでは、参りましょう」

「えっ、あ、はぁ……」


 リリアンは離れ、一同はお茶会を行うであろう場所へと歩き出す。急な展開に、ノーマだけがついていけていなかった。


 お疲れ様でした。


 今年も残りわずかですね……時が経つのは早いです。

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