第32話 奉仕の喜び 2
「お呼び立てして、申し訳ございません」
「い、いえ……あの……」
「……申し遅れました。わたしはリリアン殿下専属侍女、ハーティス・ドミトと申します」
プリンを独り占めしようとした人間とは思えないほど完璧な所作でノーマに挨拶をする。その対比に戸惑うノーマを余所に、ハーティスは話を続けた。
「ノーマ様にお願いがあります」
「お願い……ですか?」
「どうか姫様を、普通の子と接するように相手をしていただきたいのです」
「え、そ、そんなの無理です!わたしと殿下では立場が違いすぎますし、もし、無礼を働いたら……」
「ご安心ください。無礼ならわたしで慣れてます」
(すごい説得力!)
「度が過ぎればわたしが止めます。……ですから、どうかお願いいたします」
「あ、ぇ……」
深々と頭を下げるハーティス。しかし、ノーマは戸惑い、決断できかねていた。
「おや、姫様」
「へっ?!」
「…………」
リリアンは二人を厨房の扉から覗いていた。それというのも、前回のこともあって料理人たちからの心象は悪く、表面上は敬っているように見えても怒りや迷惑といった視線に耐えられず、居心地が悪かった。
「……では、ノーマ様。よろしくお願いします」
「は、はい……」
(はい、って言っちゃった!?)
「あぁ、それと……わたしのプリンは三つでお願いします」
「え……それって、勝手に作っていいのでしょうか?」
「あのヒゲには後で言っておきます」
「ヒゲ……?」
「陛下です」
「不敬が過ぎるのでは!?」
「大丈夫ですよ。いつも言ってますから」
(なんでクビにならないんだろう……)
ハーティスの奇行にドン引きしつつ、リリアンに向き直る。とはいえ、いきなり馴れ馴れしくするわけにもいかず、ノーマは頭を悩ませていた。
(普通の子と接するように……どうしよう、どこまでが普通なんだろう?もし間違ってたら……)
「……?」
(……かわいい。……じゃなくて!えーっと、えーっと……)
「い、一緒に作りますか?」
通常、料理は下男下女の仕事であり、王族・貴族は料理などしない。人によってはかなり無礼な行いだったが、焦りからかノーマはそのことに気付いてすらいなかった。
しかし、意外にもリリアンはやる気になっており、ハーティスがどこから出したかわからない布でリリアンを隠すと、数秒もしないうちエプロン姿に早変わりしていた。
手品のような早着替えに感心しつつ、ノーマとリリアンは料理を開始した。
「殿下、まずは卵を割るのを手伝っていただけますか?」
「……わたし、これ嫌い」
「やられたことがあるんですか?」
「べちゃべちゃになって、殻も入って……怒られた」
「そうですか……怒ったりしないので、一緒にやってみませんか?」
「……うん」
「まず、平らなところで卵にヒビを入れるように、軽くコンコンってしてみましょう」
「角じゃないの?」
「角だと失敗しやすいです。……試しにやってみてください」
「コンコン……わわっ!?」
「多少中が出ても大丈夫です。焦らずに、ヒビに両手の親指を入れて、開いてみてください」
「……! できた……!」
「すごいです。殻も全然入ってません」
「……これが普通なんじゃないの?」
「いえいえ、わたしもたまに失敗しますから」
「そうなの……」
「はい。この間にソースを作るので、この調子で全部割っていただけますか?」
「……うん」
ノーマがソースを作り、生地を混ぜようとしたときだった。
「……それ、わたしもやる」
「えっ?……でも、いっぱい混ぜなきゃいけないから大変ですよ?」
「やる!」
「……かしこまりました。でしたら、なるべく溢さないようにお願いします。疲れたらわたしが代わりますね」
材料を入れながら生地を混ぜていくが、量が多く、慣れない作業というのもあってリリアンの限界は早かった。
「……ねぇ、まだなの?」
「まだまだですね……」
「……もう、疲れた!手首も痛いし、もうやらない!」
「ありがとうございます。後はお任せください……あっ、そうだ。イマリ!」
ノーマはイマリを抱き上げながら、リリアンに差し出した。
「えっ……え?」
「この子は氷の精霊なんです。手首を冷やしてくれますよ。抱っこしてあげてください」
「ぇ……ぅ……」
「触るとひんやりしていて気持ちいいですよ?」
「そ、そう……なの?」
リリアンは恐る恐るイマリを抱き上げる。新雪のようなサラサラとした手触りが心地よく、手首をひんやりと冷やしていく。頭を撫でると尻尾をブンブン振りながら目を細めるイマリに、リリアンは癒されているようだった。
「かわいい……」
「よかった。しばらく休んでいてくださいね」
ノーマが作業を代わり、生地を混ぜていく。その作業を見ていたリリアンはある疑問を投げかけた。
お疲れ様でした。
多少でも読みやすくなっていれば幸いです。




