第28話 命を繋ぐ連携
過去最長です。お時間があるときにどうぞ。
食卓にはパイモンも同席し、皆で食事をすることになったが、高級そうな調度品と煌びやかな雰囲気にノーマは委縮していた。ノーマが希望したのはパンとシチュー、野菜サラダに果物を少々といった感じだった。そんなノーマの様子を見て、パイモンは声を掛ける。
「君は本当にそれでいいのかね?」
「!? は、はい!食べ慣れている物がいいと思いまして……ただ、わたしはこういった場の作法を知らなくて……」
「構わない。それに引き換え……」
パイモンの目線の先には使用人と楽しげに話すエメスの姿だった。
「……うん、やはり食材も料理人の腕も相当良いな。鴨肉は下処理がしっかりされていて臭みが少ないし、このオレンジのソースも良い」
「ありがとうございます」
「ワインと合わせたいところだが……葡萄ジュースをくれ。後パンも追加で」
「かしこまりました」
「師と弟子でここまで違うものか……」
「師匠……」
フルコースを堪能するエメスを見て、パイモンは呆れるように溜息を吐いた。
しかし、ノーマにはずっと違和感があった。思えば精霊評議会でのやり取りでも、どこか挑発的で、この遠慮のなさも嫌がらせにしか見えなかった。明らかに普段のエメスとは様子が違う。
……ふと、あることを思い出し、ノーマはエメスに尋ねた。
「……師匠、評議会との間に何があったんですか?」
「……そうだな、簡単に言うと評議会がわたしを売ろうとしたんだ」
「!?」
「……人聞きが悪いと言いたいが、そう言われても仕方ない……」
エメスと評議会との間で何があったのか。それは、エメスが宮廷精霊術師の認定を受けた時まで遡る。
本来であれば、精霊評議会が宮廷精霊術師を必要としている国の要請を受け、本人の希望と照らし合わせて配属を決める。しかし、当時議会員の中に国と癒着している者がおり、エメスの配属を勝手に決めようとしたことがエメスの反感を買った。
「わたしは国を見て回ってから配属を決める予定だったから、当然抗議したが「君に相応しいとこちらで判断した」の一点張りで、話にならなかったんだ。……国の方にも直々に出向いて正式に断りを入れに行ったら、書いた覚えのない配属書類が渡っていたんだ」
「……わたしも後から知ったが精巧に作られた偽造書類だった」
「それで、どうしたんですか?」
「書いた覚えがない旨と、証拠を見せてもらうテイでその書類をその場に引っ張り出して、そのまま燃やしてやった」
「大丈夫だったんですか?それ……」
「城の兵士や騎士に囲まれるわ、精霊術師団から一斉射撃されるわ、追手がしつこいわで大変だったぞ?」
「でしょうね!?」
カラカラと笑いながら話すエメスにノーマは若干引いていた。しかし、次の瞬間エメスは真剣な顔になった。
「……だが、何より腹が立ったのは精霊評議会がこの事実を知ってなお、偽装とそれに加担した者に大した罰を与えなかったことだ」
「……一応、降格と多額の罰金を課し、癒着を持ちかけた者にはこちらから訴え起こしてその国の司法で裁いたのだがな。精霊三体と契約している精霊術師としての才能を考えると、追放処分にするにはあまりにも惜しい」
「そういうふうに甘やかすから、わたしは評議会を信用しなくなったんです」
「……」
「あの……どういうことですか?」
「わたしがモッコク王国に配属になったとどこかから聞きつけて執拗な嫌がらせを行ってきたんだよ」
「!?」
「恐らく報復のつもりだったんだろうな。議会員の権限で潜り込ませた精霊術師が精霊術をわざと失敗して、その責任をわたしに押し付けることで、わたしの評判を落とそうとしたんだ。初めは気のせいかと思ったが、あまりにも多くて調べた結果判明したんだ。王の計らいで事なきを得たが、わたしは城に居づらくなってしまった」
「じゃあ、師匠が森に棲んでいるのって……」
「まぁ、きっかけはそういうことだ。何だかんだあそこは気に入ってるから、今の生活に不満はない。だが、騎士でさえ騎士道精神に欠ける者はどれだけ実力があろうと騎士として認められず、昇進させないというのに評議会は甘すぎる」
「……」
「……才能は大事です。ですが、ちゃんと能力や人格も重視するべきだと思います。それこそ、闇の精霊が危険視される要因になったのは、術者の性格に問題があったからですし」
「……そうなると、見直しが必要になるな。だが、君も対象になるのはわかっているのか?」
「ええ、もちろん。それぐらいやらなければ腐っていくばかりだと思います」
「……そうか」
パイモンは考えこみ、暫しの沈黙が流れた。少し重くなった空気などお構いなしに、エメスはノーマに話しかけた。
「それにしても、あんな大口をたたくとはな……」
「大口……ですか?」
「天才の弟子だから……だったか?お前があんなふうに言うなんて珍しいな?」
「ちょっとでも安心してくれるかなって……わたしには何の実績もありませんけど、師匠は違うでしょう?」
「……そういうことなら存分に利用しろ。患者の精神的なケアも重要だろうからな」
「実際、どれぐらい治療できたのかね?」
「……すみません、一割もいってないです」
「そうか……」
「たった一時間かそこらで結果なんか出るわけないでしょう」
「まぁ……そうだな。わかっている、わかっているんだが……」
「今のところは続けてみるしかありません。ロレンス様の体力が続く限り、全力で治療します」
「……よろしく頼む」
食事の後、ノーマとエメスはロレンスの元へ向かった。
「ロレンス様、お加減いかがですか?」
「わかん、ない……また、治らない……の?」
「……時間が掛かりそうですが、手応えはありました。一緒に頑張りましょう……お薬は飲まれましたか?」
「……うん」
「……お薬、嫌いですか?」
「美味しくないもん……」
「そうですよね……あっ、そうだ!師匠、ちょっと……」
「ん?」
ロレンスから離れ、エメスに耳打ちた後、ノーマは小袋を持って帰ってきた。袋から木の実を一つ取り出し、ロレンスへ差し出した
「ロレンス様、こちらをお召し上がりください」
「……なに、これ?」
「これはですね。魔素の濃い森の奥深くからしか採れない珍しい木の実なんです。お薬の力を引き上げてくれるんですよ」
「本、当?……でも、苦いの、やだ……」
「一粒食べてみて、ダメだったらペッてして良いですから……試してみませんか?」
「……食べる」
一口食べると、カリカリと小気味いい食感と香ばしさが鼻に抜け、わずかな塩気が木の実の甘さを引き立てて、口の中に広がった。
「……美味しい」
「よかった。お水を飲んだら、治療を再開しますね」
ちなみに、木の実の話は真っ赤な嘘。エメスが携帯食として持ち歩いている乾煎りして塩で味付けした、ただのナッツである。これは幼少の頃、風邪を引いたときにルマリアがノーマに行ったおまじないのようなものである。このときの不思議と心が軽くなっていく感覚をノーマはロレンスにもそれを感じてほしかった。
治療を再開し、三時間が経過した。癌の治療にも慣れてきたが、膵臓の癌に着手しているとき、アクリアの力が弱まっていくのを感じた。
「アクリア?……そっか、限界なんだね」
「連続だと三時間が限界か。いい時間だし、再開は明日にしよう。……ノーマ、アクリアをわたしに預けろ」
「どうするんですか?」
「この近くに魔素が濃い場所があるんだ。少しでも回復を早めることができるかもしれない。……代わりにトロバを置いていく」
「トロバを?」
「ここを襲撃する輩がいるとは思えないが、警戒するに越したことはない」
「警戒……ですか?」
「お前はまだ危険人物であることに変わりはないからな。少なからずデューラもアミティスも治療で魔力を消耗している状態だ。万が一に備えたい」
「師匠……」
「……まぁ、なんだ。わたしが安心したいというのが大きい。大人しく守られてくれ」
「はい……」
「パイモン議長にはわたしから話を付けておく。何かあれば侍女や使用人を頼れ」
「わかりました」
こうして、エメスは外出し、ノーマは湯浴みの後、客間で休むことにした。自分が普段使っているベッドと比較すると手触りが段違いで、一度横になると身体が沈んでいく。
「……逆に落ち着かない。湯浴みのときも侍女の人が身体を洗ってくれたけど、なんか緊張しちゃったし、この部屋も自由に使っていいって言われたけど、わたしには豪華すぎるよ……」
『……主、一つ提案があります』
「どうしたの、アミティス?」
『主に眠りの精霊術を掛けようと思うが、いかがだろうか?』
「……どうして?確かに落ち着かないけど、眠れないって程じゃないよ?」
『今の主の精神は、慣れない環境と未知の挑戦で興奮状態にある。思考を巡らせるのも良いだろうが、それでは満足に睡眠が取れまい……だが、眠りの精霊術ならば文字通り「死んだように眠ることができる」。眠りが深ければ回復も早まるかと……』
「なるほど……確かに、いろいろ考えすぎちゃうかも」
『今ロレンス殿に掛けているものと同じ時限式を使用する。無論、タイミングは主にお任せする』
「……わかった。なら、今すぐお願い」
『承知』
「あなたたちもちゃんと休んでね。……トロバ、見張りをお願いね。おやすみ」
トロバの敬礼を見送った後、ノーマは眠りについた。
様々な連携の元。治療は続き、ロレンスの体調は徐々に回復していた。身体を起こせる時間も増えていき、アクリアの回復を待つ間は談笑を楽しめるようになった。
「……はい、これは何でしょう?」
「……なにそれ?」
「えっ、わかりませんか?」
「……鳥?」
「ブブーッ、お魚でした」
「お姉ちゃんのクイズ、難しいよ……」
「え~、そうですか?」
そんな話をしているうちに、エメスがアクリアを連れて戻ってきた。
「帰ったぞ。……何をやってるんだ?」
「あっ、師匠。今書いた絵を当てるクイズをやってたんですよ」
「ほぅ、どれどれ……ノーマ、この絵の答えは?」
「魚です」
「これは難しすぎないか?」
「そうでしょうか?」
「この特徴的なヒレはトビウオだろう?図鑑でも見なければわからないと思うぞ?」
「……トビ……ウオ?」
「知らずに書いたのか!?」
「えっ……だって、魚ですよね?」
「ヒレが長すぎる!……これは?」
「犬です」
「耳の長さが半端だし、尻尾、これ……どっちだ?!……これは?」
「ヘビです」
「……どれもこれも絵が下手過ぎてクイズになってない!」
「えーーーっ!!?」
「というか、ヘビひどいな。萎びたミミズかと思ったぞ」
「ひどい!……アクリア、わかるよね?」
味方が欲しい一心でノーマは自分が描いた絵を見せる。しかし、アクリアは困ったような笑顔を向けるだけだった。
「困らせるなよ」
「そんな~……」
「まぁ……なんだ、欠点がある方が可愛げがあると言うし……な?」
「それフォローになってませんよね!?」
「……本当に、もうしわけない」
「そんな真剣な顔で謝らないでください!!」
「……ふっ、ふふふ…………」
「あーっ!ロレンス様まで……ひどい!」
「ごめ、ごめっ……ふふっ、あははは……」
「坊ちゃまがあんなに楽しそうに……旦那様に良い報告ができそうです」
その日の夜、精霊評議会議長としての激務を終えたパイモンと久々に食卓を共にした。
「進捗を聞きたい。報告を頼めるだろうか」
「はい、肺に転移した分は除去できました。度々調べていますが、今のところ再発は確認できません。現在、膵臓の治療を行っていますが、少々根が深く、慎重にならざるを得ない状況です。……もうしわけございません。治療には、まだ時間が掛かります」
「……先ほど会いに行ったが、あの子に笑顔が増えた。それだけで救われている。引き続きよろしく頼む」
ロレンスの顔色が良くなり、経過が順調であることで心労が減ったのか。パイモンの顔からは険しさが消えていた。ここで、エメスが気になっていることを質問する。
「資料の反応を伺っても?」
「君がまとめた資料には、皆興味津々だ。今回の治療に成功すれば、癌は脅威ではなくなり、闇の精霊術の見方も変わるはずだ」
「……師匠、資料って……?」
「お前の治療の経過を資料にまとめて、議長に渡してたんだ」
「そうだったんですか!?すみません、わたし治療に夢中で知らなくて……」
「今回は分業だ。治療はお前にしかできないし、贅沢した分わたしだって働くさ」
「尽力に感謝する。……ところで、治療とは別にロレンスと遊んでくれていたと聞いたが?」
「は、はい。少しでも気晴らしなればと……」
「ありがとう、とても喜んでいたよ。……それで……だ……」
「?」
「侍女とロレンスから聞いたのだが、二人の漫才が一番面白かったと聞いている。……良ければ見せてもらえないだろうか?」
「「やった覚えないです!」」
こうして治療は続けられ、医者が余命を告げた半年の月日が経った。
「……デューラ、どう思う?」
『……癌に侵されている部分は確認できません。以前治療した場所も再発している様子はありません』
「……だよね。でも、もう何回か確認しようか?」
「……もういいだろう。それで何回目だ」
「だって、せっかく元気になったのに見落としたせいで再発したら可哀想じゃないですか」
「……わたしも診てやるが、お前はもっと自信を持て!」
そして、エメスの確認が終わった頃。パイモンが部屋に入ってきた。
「ロレンスの治療が終わったのか?!」
「ええ……ノーマが何度も確認して、わたしも確認しましたが、完治したとみて良いと思います。ですが、一応医師の診断も受けてください」
「あぁ、ロレンス……ロレンス…………ありがとう、本当にありがとう……!!」
号泣しながら喜ぶパイモンの姿を見て、エメスとノーマは笑い合った。
闇の精霊術による癌治療は議会に波紋を呼び、法改正へ向けて準備が進められていた。
今回のことをきっかけに、闇の精霊術師は医療・防衛において重宝されることになり、病に苦しむ人々や魔獣に怯える人たちにとって欠かせないものになるのは……遠くない未来の話である。
本格的に忙しくなる前に、パイモンとロレンスはエメスたちを見送ろうと待っていた。
「この度は世話になった。本当にありがとう」
「今回、わたしは補助をしただけです。礼はノーマに言ってください」
「……ノーマ・ムビオス様。わたくしの孫、ロレンスを救っていただき、感謝の言葉に尽きません」
「パ、パイモン様!?」
パイモンはノーマに跪いた。これは相手へ最大の敬意を表す行為で、パイモンの身分を考えるならば平民であるノーマに対して行うのは異例であり、ノーマが動揺するのも無理はなかった。
「あ、頭を上げてください。パイモン様は約束を守ってくださいました。それに……ロレンス様の頑張りと、みんなが支えてくれたからできたことです」
「寛大なお言葉を賜り、改めて深く感謝を申し上げます」
一向に頭を上げようとしないパイモンに、ノーマが少し困っていると、ロレンスが声を掛けてきた。
「お姉ちゃん!」
「ロレンス様、お身体の方は……」
「大丈夫。でも、しばらくはお医者さんに行かなきゃダメなんだって……」
「そうですか……ちゃんと診てもらってくださいね」
ノーマが安心したのも束の間、ロレンスはノーマに抱き付いた。
「ロ、ロレンス様!?」
「お姉ちゃん……ボク、ボクね。眠るのが怖かったんだ」
「え……?」
「おじいちゃんも、パパもママも、ボクが病気だから……いっぱい悲しんで……治ってほしいのに、ずっと、ずっと……苦しかった……」
「……」
「辛くて、苦しくて、死んだら楽になれるのかなって考えちゃって……でも、自分が消えてしまうと思うと怖くて……毎日、毎日怖かったんだ……」
ノーマに抱きついていたため、表情は見えない。しかし、肩を震わせながら話すロレンスをノーマは優しく見守っていた。
「お姉ちゃん……ボクを、助けてくれて……ありがとう……」
「……これからはやりたいこと、やりたかったこと、いーーーっぱいできますよ」
「うん……うん……!」
ノーマは優しく抱き返し、ロレンスが落ち着くのを待った。
「それでは、わたしたちは戻ります」
「道中気をつけてな」
「お姉ちゃん……また、会える?」
「えっ!? えー……っと」
「あなたなら、いつでも喜んでお迎えいたします」
「そ、そのときは、よろしくお願いします……」
ノーマに対して終始へりくだるパイモンに戸惑いつつ、エメスたちはその場を後にした。
後日、闇の精霊術についての法改正が正式に発表された。闇の精霊と契約した際、免許の取得が必須条件となり、取得しない場合はこれまで通り危険人物として指名手配の対象になるとした。免許を取得するためには、申請した時点で人格に問題がないかを光の精霊術師同伴の元で判断し、精霊評議会が運営する学院へ入学させ、精霊術の使い方及び常識や道徳・倫理観を学ばせた上で、精霊評議会からの最終試験に合格しなければならない。とはいえ、どれか一つでもできることがあるなら不合格になることは滅多にない。ただし、免許には位があり、その位以上の精霊術を行使したことが発覚した場合は違反となる。再試験で免許を上の位に上げれば問題にはならないが、違反を続けた場合は免許剝奪、最悪の場合は投獄もあり得る。また、免許の有無にかかわらず闇の精霊術を悪用した場合は問答無用で粛清・死罪対象となる。
この法改正は、これまで腫物扱いされてきた闇の精霊術師にとって一つの希望となった。しかし、世間では賛否両論が飛び交う事態になっている。散々闇の精霊を危険なものだとしてきた精霊評議会が手のひらを返したも同然なのだから無理はない。なにより、犯罪に手を染めて後戻りができない者たちとっては、不愉快極まりない改正だった。そして、野放しになった闇の精霊術師が怖いという意見もある。一方、闇の精霊術の利点を理解し、受け入れても良いという意見もあり、各地で論争が起こっている。
パイモンからの手紙には、評議会全体で対応に奔走している旨が書かれていた。教材や試験の内容にはノーマが提出した資料が使用されており、その功績による特例中の特例扱いでノーマには最高位の免許が同封されていた。
そして、今回の報酬はというと―――
「第一陣は休憩、第二陣は直ちに作業を開始してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
エメスが希望した報酬は三つ、生活費を差し引いた分の治療代、ノーマの存在を口外しないこと、そして、フォートレススネイルの殻を運ぶ人材の派遣である。
派遣されてきた精霊術師たちは不満だったが、精霊評議会議長からの依頼とあっては断れなかった。作業効率が跳ね上がり、負担が減ったことでエメスにも余裕ができていた。しかし、頭を悩ませる問題もあった。
「師匠、お帰りなさい」
「ああ……ただいま。ようやく半分終わった~……」
「お疲れさまでした。……それで、ですね……」
「……またか、あのクソジジイ!!」
あの日以来、パイモンからノーマ宛に頻繁に手紙が届くようになっていた。内容は精霊評議会への加入や養子縁組、ロレンスの婚約者候補等、割と滅茶苦茶なものだった。どうにかノーマを囲い込みたいパイモンの思惑が透けて見えており、エメスは手紙をグシャグシャにしながら不快感を露わにしていた。
「わたしが加入したら、口外しない約束って意味ないんじゃ……」
「偽名名乗らせて、布とかで顔を隠すとか……やりようはあるんじゃないか?」
「雑すぎません!?」
「そこは権力でゴリ押す気かもしれない。こんな手紙を書く暇があるなら、法改正後の処理に尽力すればいいものを……」
「ちょっとでも闇の精霊たちが共存しやすくなればいいんですけどね……」
「そうだな。……一応聞くが、パイモン議長の話に乗る気はないんだよな?」
「わたしには荷が重すぎますって……でも、手紙が来る度ドキドキしちゃいますね」
「突拍子もない内容だからな」
「いえ、ロレンス様に何かあったんじゃないかと……」
「そっちか。いや、お前にとってはそっちの近況の方が気になるよな」
「元気でやっているでしょうか?」
「大丈夫だろ。たぶん」
「適当ですね」
「治療までが仕事だからな。後のことは本人の問題だ」
「それは……そうですけど……」
「とにかく、お前は修行に集中しろ。近々わたしと模擬戦をする予定だからしっかり準備しておくんだぞ」
「……」
「嫌そうな顔をするな!」
月日は流れ一年半後。ある場所にて
「エメスよ。其方の弟子なのだが……」
「はい」
「……彼女こそ切り札になるかもしれないな」
「……!? お待ちください。彼女は―――」
「エメス、其方が弟子を溺愛しているのは知っている。巻き込みたくないのはわかるが、こちらも余裕はない」
「―――っ!」
「……ノーマ・ムビオスをここへ」
「……かしこまりしました。陛下」
お疲れさまでした。
闇の精霊術に関する法改正の部分がちょっとゴチャゴチャしてて分かりにくかったと思います。ざっくりですが、危険物取扱者と自動車免許を足して罰則が滅茶苦茶重くなったものと考えていただければイメージしやすいかと……まぁ、雰囲気で誤魔化されてください。
ようやく、次から自分が書きたかった部分が書けそうです。よろしければお付き合いください。




