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第25話 力は力

長くなりました。お時間があるときにどうぞ。


「ノーマから聞いたが、自分の力を誇示して契約を迫ったと聞いているが……」

『うむ。だが、これは売り文句のようなものだ。商人が言葉巧みに品物を宣伝するのと変わらぬ。……実際、我はその力をどう扱うについては言及していないはずだ』

「ノーマ、そうなのか?」

「えっと……そうですね。確か「力を意のままに振るえる」とは言ってましたが、誰かを殺すとか苦しめるとか、そういうことは言ってなかったような……」

「……紛らわしいな」


 ここで、頭を抱えていたデューラが復帰した。これまでと違い、極めて冷静に闇の精霊に語り掛ける。


『……闇の精霊よ、我々はずっと闇の精霊を敵視してきた。だが、それは間違いだったとうのか?』

『……いや、我らの力が秩序を乱したと言うのなら間違いではない。だが、行き過ぎた迫害が歪みを生んだのも確かだ』

『歪み……?』

『……先ほど言った一部の阿呆。大方、闇の精霊術を悪用し、その欲望を暴走させて数々の事件を引き起こしたのであろう。……しかし、人間がその原因を契約者ではなく、闇の精霊であると決定づけたことで闇の精霊は危険という認識が生まれたのだ』

『……!?』

『そこから我らの扱いは酷いものになった。闇の精霊というだけで等しく拒絶されるようになった。光の精霊もそれを信じ、我々を排除するようになった』

『なん……だと……!?』

『中には我らを庇ってくれた者もいたが、聞く者はいなかった。世間はその者たちを忌み嫌い、罵り、まるで人権など存在しないかのように扱うようになった。そこからは精神を病み自害した者や、開き直って犯罪に手を染める者も現れる等、負の連鎖が生まれた』


 精霊契約はその精霊の持つ属性魔法が使えるという利点があるが、契約者の意思で一方的に契約を破棄することが出来ない欠点も存在する。精霊契約は終身契約であり、基本的に両者の合意で破棄するか、契約者が死なないと破棄されない。

 そのため、精霊が契約破棄を拒否すると破棄できない。そして、今回の場合は例え破棄できたとしても、その精霊術師は「闇の精霊と契約した者」として見做され、どっちみち差別されるという地獄のような背景がある。

 

『そして我ら闇の精霊の在り方も変わった。人と共に在るために、初めから人の弱みに付け込むようになった』

『!?』

『他者に対しての嫉妬や憎悪。少なからず抱えた欲望。そこを突き、その人間の欲求を叶えることで契約にこぎつけるようになった』

『な……な……!?』

『……言いたいことはわかる。だが、我々が人と共にあるにはそうするしかなかったのだ』

(もし……もし、そうだとするなら……歪みを生んだのは……わたしたちが守ろうとした。人間……?)

『……光の者よ。我らと和解せよとは言わぬ。其方の言うように我が同胞が社会の秩序を乱したのも事実だ。だが、我ら闇を悪と一括りにはしないでくれ……』

『……』


 デューラは何も言えなかった。これまで信じていたものが崩れていくような感覚が喪失感となり、何も言う気になれなかった。

 そこで、今度はノーマが闇の精霊に問いかける。


「……待って、さっきの話で思ったんだけど、あなたはわたしと話したとき、自分の行いを悪だと言っていた。なら、なんで悪いことだってわかってて手を貸していたの?」

『……我は人と共に在りたかったのだ。その者の願いさえ叶えれば、力を示し続ければ、我を易々と手放すことはない』

「……止めなかったの?」

『……警告はしている。だが、契約を行った経緯が経緯なだけに強くは言えぬ』

「……」


 ノーマは押し黙った。事情を知ったことで闇の精霊だけが悪いわけではないと理解はしたが、やってきたことは許されていいことではない。

 そこで、ノーマはもう一歩踏み込んだ質問をした。


「……もし、わたしがあなたと契約したら、あなたはわたしの言うことを聞くの?」

『うむ』

「……「誰も傷つけないで」って命令したら、できるの?」

『……自衛や其方を含めた仲間が命の危機に陥ったら保証できかねる』

「……正直なんだね」

『我の力は刃物のようなものだと思ってほしい。生活を豊かにするために生かすも、人に振るって傷つけ殺すも其方次第だ。我は其方の望むままに振るおう』

「そっか……」


 ノーマはエメスとデューラに向き直り、深く頭を下げた。


「……師匠、デューラ。お願いします。この子と契約させてください」

『主様!?』

「いったい、どういうつもりだ!!?」

「この子のやってきたことは、許されていいことではありません。でも、誤解もあった以上、もう一度精査されるべきです」

「……言わんとしてることはわかる。だが、契約したら世間一般の認識では、お前は危険人物として扱われる。かつて闇の精霊を庇った者たちと同じ道を辿ることにならないか?」

「確かに、今のままではそうです。仮に契約した人間が原因だとしても、闇の精霊術が危険だということに変わりはありません」

「そこまでわかっていて、なぜ……」

「さっき、この子は自分の力を刃物に例えました。だったら、闇の精霊術を正しく、平和的に利用する方法が見つかれば、変わることがあるかもしれません」

「……一度根付いた認識を変えるのは簡単なことじゃない。傷つき、恐れられ、命の危険だってあるかもしれない。それでもなお挑もうというのか?」

「どれだけ小さいことでも、みんなが受け入れられるような力の使い方がきっとあるはずです」

「……どうしてそこまで肩入れをする。お前がやる必要はないだろう」


 エメスは只々ノーマが心配だった。しかし、ノーマも考えがないわけではなかった。


「……師匠、光の精霊と闇の精霊どちらとも契約した前例ってありますか?」

「……わたしが知る限りない」

「なら、わたしが前例になります」

「!?」

「闇の精霊に対しての対抗手段を両立できるのがわたしだけなら……定説を覆すのにこれ以上の適任者はいないと思います」

「しかしだな……」

「それに……元々は人と共に在りたいだけって知ってしまった以上、力になってあげたいじゃないですか」

『我らのことを……そこまで……』

「……本気なんだな?」

「……はい!」


 ノーマの本気を感じ取ったエメスは、自身も腹を括るように闇の精霊に問いかけた。


「まったく、お人好しめ……闇の精霊よ!」

『?』

「闇の精霊について、こちらで精査した物を作って然るべき場所に送りたい。その資料作りに協力してくれるか?」

『我らの現状が好転するなら喜んで協力しよう』

「師匠……」

「わたしの方でもできる限り協力する。……だが、あまり期待はするなよ」

「! ……はい!」


 契約する流れができている中、デューラは待ったをかける。


『お待ちください、主様!あなたは本当に闇の精霊と契約するおつもりですか?』

「うん」

『何かあったらどうされるおつもりです!?』

「そのときは、あなたがいるから大丈夫。守ってくれるんだよね?」

『た、確かに言いましたが……しかし!』

「ねぇ、デューラ。あの子の力は危険なんだよね?」

『はい、ですから……』

「だったら、野放しにするより近くで見張れる方がいいんじゃない?」

『!? そ……あ…… …………―――~~~』


 ノーマに言い負かされ、デューラは狼狽えるしかなかった。


「……デューラ、どうしてもダメ?」

『~~~……わかりました。ただし、少しでも変な動きを見せれば容赦しませんからね!』

「何が変な動きかわからないけど、相談はしてよ?」


 まさか自分の存在が闇の精霊との契約の要因になるとは思わず、デューラはうな垂れた。そして、ノーマは闇の精霊に向き合う。


『本当に……我と契約してくれるのか?』

「……うん」

『おお……おお……!』


 余程嬉しいのか、闇の精霊は目を輝かせていた。


「じゃあ……」

『む、少し待ってほしい』

「どうしたの?」

『……早速だが、頼みがある』

「……なに?」

『名前なのだが……愛らしいものにしてほしい』

「愛らしい? ……う~ん……頑張る!」


 こうして、闇の精霊との契約が始まった。足元からは、インクが紙に染みていくように闇が広がり、その闇からまるで世界の裏側から印鑑を押されるように魔法陣が押印され、仄暗い光を放った。


「あなたの力の新しい形、一緒に見つけよう。“アミティス”」


 契約が交わされ、ノーマとアミティスは膨大な魔力の高まりを感じていた。


(デューラのときもだけど、すごい魔力……魔力総量だけなら師匠に届きそう……)

『アミティス……アミティスか……ふふ、ふふふふ……』

「気に入ってくれた?」

『うむ、ボイドだの、カオスだのよりずっと良い!』

「よかった。これからよろしくね、アミティス」

「……我が力、是非ともお役立てください。我が主」


 契約が完了し、和やかな空気の中、エメスだけは溜息をついていた。


(……できればあそこには行きたくなかったが……仕方ないな)

「……師匠?」

「……これからは修業に加え、闇の精霊術の研究もしていかなければならない。その成果をちゃんとまとめておけよ」

「はい、頑張ります!」


 こうして、ノーマたちはいつもの日常に戻った。

 しかし、闇の精霊は危険なものと刷り込まれて続けてきただけあって、ノーマ以外の者は闇の精霊を警戒していた。しかし、時が経つにつれ今では―――


『主よ。今は手空きか?ならば、我を撫でるが良い』


 ノーマに鼻先をブニッと押し付けながら催促するのは、黒いヤギの擬態を手に入れたアミティスだった。ノーマは慣れた手つきでそれに応える。

 契約してからのアミティスは初めの物々しい雰囲気から打って変わって、とても友好的だった。誰かと関われるのが余程嬉しいのか、ルビィたちにも積極的に絡み、今ではすっかり馴染んでいた。


「……最初の頃の威厳はどこに行ったんだろうね?」

『人間も仕事中は堅実な者でも、私生活は漫然と過ごす者もおる。我もそうだというだけよ』

「でも、こんなに甘えん坊だとは思わなかったなぁ……」

『むぅ……よいではないか。これまでの主は我の力だけが目当てだった故こういうことができる雰囲気ではなかったのだ』

「別に悪いって言ってないよ。……よしよし」

『♪』


 心地よさそうに目を細めるアミティスをデューラが咎めた。


『アミティス。貴様、主様に甘えすぎだ!』

『固いことを言うな友よ。羨ましいなら半分空けておくぞ?』

『友と呼ぶな!まったく……これがわたしと同じ上位精霊とは……』

『その言葉、そっくりそのまま返そう』

『……なに?』

『先の魔獣との戦い、我と同じく永い時を経たとは思えぬ戦いぶりだった』

「……やっぱり見てたんだ」

『すまぬ。すぐ助けに入ってもよかったのだが、我が出しゃばると友の自尊心を傷つけると思い、ギリギリまで様子を見ていたのだ』

『アミティス、さっきの言葉、どういう意味だ!』

『……友よ。主が尻尾に潰されたとき、其方は皆に攻撃を命じていたな?』

『それがどうした』

『せっかく主が身体を冷やしていたのに、闇雲に光やら火やらで攻撃したら台無しではないか。あれなら、主がやったように其方の光で相手の視界を塞ぎつつ、氷水と電撃で攻撃した方がまだ時間を稼げたぞ?』

『うっ……』

『上位精霊という立場故に其方がまとめ役を買ったのかもしれんが、あまりにお粗末すぎる。……もしや其方、我ら闇の精霊以外との戦闘経験がほとんどないのではないか?』

『!? そ、そんな……そんな、こと、は…………』


 デューラの声が小さくなっていく。どうやら思い返してみてもアミティスの言葉を覆せるものがなかったらしい。


『……勝てる相手に全戦全勝。それが当たり前ともなれば其方の傲慢さも頷ける』

『……っ!』

『必要とあらば我も協力するが、これからは様々な知見も得た方が良いぞ』

『……』

「アミティス、その辺りで……」

『これは真面目な話だ。こういったことは主の生存率に大きく関わってくる。それに……以前のように闇雲に反発し、我を貫くほど愚かではなかろう?』

『……』


 デューラは核心を突かれ、ノーマも庇うことができず気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、アミティスに駆け寄ってきたイマリとティルだった。


『む……?おお、そうであった。今日は一緒に花畑に行く約束であった。友よ、其方も同行するがいい』

『……なぜ、わたしが……』

『其方は我の見張りであろうが……ほれ、辛気臭い顔してないで行くぞ』

『ま、待て、アミティス!おい!』

『ヒャッホー♪』

「……あれはあれで仲良しなのかな?」


 イマリとティルは山育ちで世俗に疎かったため、アミティスに対して抵抗が薄かった。何より、無邪気で人懐っこいイマリと寂しがり屋なティルは、誰かと関わっていたいアミティスとの相性は良く、こうして遊びに行く姿も見慣れた光景である。

 アミティスたちを見送ったノーマだったが、今度はルビィがノーマの膝に寝転がってきた。


「ルビィ?どうしたの?……え、えっ!?ルビィ、大丈夫?本当にどうしたの?」


 ルビィは手足をバタバタさせながら叫んでいた。

 続くように出てきたアクリアとネフラが言うには、事の発端はアミティスがデューラを叱責したことから始まったという。


『友よ。なぜ其方はそれほど偉そうなのだ?』

『……喧嘩を売っているのか貴様。後、友と呼ぶな!』

『そうではない。其方が主と契約したのは最近であろう?だというのに、まるで自分がリーダーのように振る舞っているのが気になったのだ』

『それは……わたしが年長者だからで……』

『とはいえ、最初に主と契約したのはルビィ殿であろう?先達を差し置いて少々出しゃばりすぎではないか?』

『ぐ……』

『どれだけ永く生きようと、主の精霊として我らは新参者。先達には敬意を払うべきではないか?』

『……申し訳ない。ルビィ殿』

『……ふむ、気にするな、と……とはいえ、こう大所帯ではまとめ役が必要になる。我としてはルビィ殿にリーダーをやっていただくのが良いと思うのだが?』


 このとき、ルビィは拒否したのだが周りが賛成してしまったため、やらざるを得なくなった。元々面倒見のいい性格なので気質的には合っているのだが、引っ込み思案で大人しいアクリアはとにかく、悪戯好きで自由奔放なネフラと、遊びたがりなイマリとそれに付いて行ってしまうティルをまとめるのは困難だった。何より上位精霊の上に立つという重圧が日々精神を擦り減らしていった。

 それでも、アクリアと責任を感じたネフラが支えていたことで何とか持たせていたが、ついに精神が限界に達し、今に至っている。まるで赤子のように泣きじゃくりながらノーマに感情をぶつけ、自分を労うように訴えていた。


(ネフラがフォローに回るって、よっぽど追い詰められてたんだ……)

「ごめんね、ルビィ。頑張ってくれてたんだね……うん、うん……ごめんね、わたしもルビィに頼りすぎだったね……大丈夫、ちゃんとできてるよ」


 ノーマはルビィを抱きしめ、背中をさすりながら懸命に労った。その甲斐あって、ルビィも少しずつ落ち着きを取り戻し始めたが……ノーマには一抹の不安が残った。


(こんな調子で大丈夫かなぁ……)


 こうして、修行と並行して闇の精霊術の新しい使い方を模索する日々が続いていた。試行錯誤を繰り返し、研究していくうちに二年の月日が流れ―――そして、転機が訪れる。


 お疲れさまでした。


 長くなりそうだから区切ったのに、ここまで長くなるとは……。話の展開も少し強引だったように思います。引き続き精進します。

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