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第19話 師弟対決


「!? ノーマ、お前一体何を……」

「……どういうことだ?」

「……お願いします」


 ノーマは何も言わなかった。しかし、真剣であることはエメスにも伝わっていた。


「……いいだろう。模擬戦でいいな?」

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

「?」

「お前の熱暴走は山を下りる頃には治まるだろうし、魔力も回復に集中すれば一晩で全快するはずだ。だから「森に帰ったら」ではなく、小隊と合流してみんなの前でやろう」

「……わかりました」


 エメスの意図はわからなかった。それでもノーマの目的に変わりはないため、エメスの提案を受け入れた。

 下山した後はフィルトで飛び、道中の小隊に合流した。小隊全体がシルトとノーマの生存を喜んだ。幸い行商人は軽傷、行商人が雇った護衛の冒険者たちが負傷していたが、今では治療も済んでいる。残念ながら積み荷は廃棄せざる負えなくなり、寒さに耐えきれず馬車馬が亡くなってしまったが、任務としては成功したと言える。

 その日は任務完了の祝いに、道中の村で料理と酒を調達して、ちょっとした宴が開かれた。各々が食事を楽しむ中、シルトとノーマは二人で抜け出して話をしていた。


「ノーマ、どうしてあんなこと言ったんだ?あのままエメス様にお願いしてたら了承してくれたと思うぞ?」

「かもしれないね」

「だったら何で……」

「……それで師匠の弟子に戻っても、お情けで戻してもらえたって思いながら過ごすのは、やっぱり辛いんだ」

「!」

「ちゃんと今の実力を見せてから話したいと思ったの。勝っても負けても言う言葉は変わらないけど……ちゃんと、師匠に認めてもらいたいんだ」

「……そうか」

「うん……」

「……頑張れよ、応援してるからな」

「うん、ありがとう」


 「憧れている人に認めてほしい」、シルトには痛いほど共感できる想いだった。自身とノーマが重なり、それ以外の言葉は出てこなかった。


 翌朝、部隊員が見守る中、エメスとノーマの模擬戦が始まろうとしていた。


「宮廷精霊術師とその弟子の模擬戦か。ボムボアのときは騎士の子抱えて飛んでいるのを見たってやつがいたけど……実際、どれぐらいの実力なんだ?」

「エメス様が太鼓判を押してるぐらいだからな」

「いやいや、キャノンマンモスとの戦い見ただろ。あれに挑むなんて無謀すぎる」

「シルト、随分ノーマちゃんと仲良くなったじゃないか。二人で抜け出して、何話してたんだ?うまいことやったのか?」

「……うるさい!」


 隊員すっかり観客気分だった。しかし、ノーマにとってこの模擬戦は自分の今後を左右する重大なことであり、その真剣さはエメスにも伝わっていた。


(一晩経っても気迫が衰えていないな。今まで何度か手合わせをしたが、今回はいつになく真剣だ。……何があったか知らないが、これは期待できそうだ)

(イマリとティルには悪いけど、師匠と一緒に修業した三人だけで挑もう。師匠からも手の内がわかってる上で、わたしたちの成長を見せるんだ)

「ノーマ、改めてルールを説明するぞ。わたしに一撃入れたらお前の勝ち、お前が降参したり気絶したら、わたしの勝ちだ。いいな?」

「はい!」


 このルールはエメスが明らかに不利である。しかし、一人でキャノンマンモスの群れを葬った現場を見ていた隊員は誰一人それに口出しすることはなかった。


「チェイン殿、お隣よろしいですか?」

「ジャイブ殿……どうぞ」

「わたしは精霊術には疎いのです。解説などをしていただけるとありがたいのですが……」

「……まぁ、いいでしょう」

「率直に伺います。この勝負、ノーマ殿に勝機はありますか?」

「ありません」

「手厳しいですな……」

「ノーマさんに限った話ではありません。使う精霊術を一、二体に限定した状態でも、我々は誰一人としてエメス様には勝てませんでした。模擬戦ということでエメス様も手加減はするでしょうが……それでも精霊の位、実力は比較になりません」

「……我々でいえばガラン騎士団長を相手にするようものですか」

「まして、多人数ならとにかく一対一では分が悪いでしょう」


 誰もがエメスの勝利を確信する中、模擬戦が始まった。


「先手はくれてやる。かかってこい!」

「はい!」

(まずは……)

「アクリア!」


 エメスに向かって水弾が発射される。本来ならば、このように先手を取られると精霊術による相殺が間に合わないことが多く、大抵の場合は避けるのが定石である。ただし、実力に差がある場合はこの定石の限りではない。トロバの火の矢が水弾を易々と貫き、そのままノーマを襲った。何とか躱すものの、トロバの火の矢は次々と発射され、見ている側が哀れになるほどノーマは防戦一方になっていた。


(後出しでこの威力……魔力の集束速度が半端じゃない。まともにやっても敵わない……なんとか接近しないと……)

「アクリア!」

「またそれか……少しがっかりだな」


 水弾は再び貫かれ、火の矢がノーマに迫る。しかし、ノーマもそれだけでは終わらない。ネフラの精霊術で渦巻く風の球体を作り出し、トロバの火の矢を絡めとった。渦巻く球体は燃え盛る炎の球となり、ノーマの手中に治まった。


(アクリアの水弾で威力を減衰させて、ネフラの風で吸収……また変な使い方をする。……次はどうする気だ?)

「せー……のっ!」

「!?」


 ノーマは炎の球を地面に叩きつけた。叩きつけられた衝撃で炎の球が破裂、爆風を起こして土煙を巻き上げた。その勢いは激しく、巻き上がった土煙は近くにいたノーマのみならずエメスをも飲み込んだ。


(視界が……だが、これでは向こうもわたしを捉えられないはず……どこからくる?)

「アクリア!」

「声の方向……上か、トロバ!」


 アクリアの放水で奇襲を仕掛けたが、エメスもトロバの炎の柱を噴き上げて対抗する。エメスの炎が迫る中、ノーマも次の手を講じる。


「ルビィ、ネフラ!」

(……手数で攻めるか。ならば、トロバの炎を分散させて相殺を―――)

「―――なにっ!?」


 トロバの炎を分散しようとした矢先、火球が真横から突如出現した。驚いたものの、何とか避け、現状分析を行う。


(声の方向からしてノーマは真上にいる。……ルビィを地上に置いてきたということか。だが、そうとわかれば―――)

「!? うっ、うぉおおおぉぉぉーーーっ?!?!」


 ノーマの考えを読み切ったと考えた矢先、二つの火球が別々の方向からほぼ同時に飛んできた。エメスは倒れそうになりながら何とか避けたが、精神が乱れたことで炎の柱の威力が落ちた。


(なんで火球が別々の方向から飛んでくる!?)

(避けられた!?だったら……当たるまで!!)


 エメスの読み通り、ノーマはルビィを地上に残し、爆風の力を借りて風の精霊術でエメスの真上に飛び上がっていた。しかし、飛び上がった後は風の精霊術を解除しており、ネフラは地上へ降りていた。アクリアの放水で注意を引いて自らが囮となり、ルビィが不意打ちを仕掛け、発射した一度目の火球をネフラが風の精霊術によって酸素を送り込んで威力を維持しつつ、風で軌道を変えることで追尾弾のように使っていた。なお、ノーマは放水を攻撃に使用していたのは最初だけで、後は風の精霊術を使っているように見せかけるため、姿勢制御に注力していた。


(今のノーマはトロバとアクリアの力の衝突で浮いているのか……まんまと騙されたな。しかし、昨日の今日でなんて無茶を……)

(ルビィたちを先に対処……も、難しいな。ルビィとネフラは移動している上に的が小さすぎる。……いや、それ以前に土煙が晴れないようにネフラが定期的に風で巻き上げてるから、そのときの干渉でバレるか……)

(……トロバだけで何とかなると思ったが、少々キツイ……)

「仕方ない……フィルト!」


 風の精霊術で土煙ごと火球はかき消され、その余波でノーマも吹き飛んだ。ルビィとネフラがノーマに合流しようと向かうが、エメスは既に次の手を打っていた。空中に放り出されているノーマ目掛けて、小さな火球を拡散させて放っていた。


(ネフラまで離したのは失敗だったな。空中で身動きは取れないし、威力は低いがアクリアでは防げないぞ。さぁ、どうする?)


「あれは……」

「終わり、ですね……」

「ノーマ……!」

 

 決着はついたと、誰もが思っていた。しかし、ノーマはまだ諦めていなかった。


(……身体強化。……防げないなら……!)

「アクリア!!」

「なにっ!?」


 自分に水弾をぶつけた衝撃で落下速度を上げて火球を躱した。ネフラとの合流が間に合わず、背中を強く打ちつけたが、エメスを相手に痛みに悶えている暇などない。態勢を立て直し、合流したルビィたちと共に追撃に備えた。


「師匠……わたしは……わたしは、まだやれます!!」


 ノーマの鬼気迫る気迫に、周囲は息を呑んだ。しかし、そんなノーマとは対照的にエメスは笑っていた。


「……ふっ、ふふっ……あーっはっはっはっ……!!」

「し、師匠……?」

「いや、すまない。ここまで食い下がられるとは思っていなかったからな」

「わたしは……真剣に―――」

「わかっている。……お前という一人の精霊術師に敬意を表し、こちらも大技で相手してやろう」

「!!?」

「なに、似たようなものは既に見ている。お前の実力を見せてくれ……イアープ、フィルト、トロバ!!」


 エメスが魔力を高めて放ったのは、水の大竜巻だった。


「あれは……チェイン殿の精霊術に似ていますな」

「ええ……ですが、あれが本命ではありませんね」

「本命ではない?」

「はい、エメス様の方を見てください」

「……三つの大きな火の球?」

「上と左右、出てきた瞬間打ち抜くつもりでしょう」

「お、恐ろしいですな……」

「正直、わたしではどう攻略したらいいかわかりません。あの火球、相当な密度です。相殺も難しいでしょう」

「そうですか……ですが、先ほどからノーマ殿には驚かされていますからな。……いつの間にか、周りも静かになっていますし」

「……悔しいですが、期待している自分がいるのも否定はしません」


 周りが固唾を飲んで見守る中、ノーマは思考を巡らせていた。


(この水の竜巻……ただ避けたらダメな気がする……)

(でも、巻き込まれるのは論外。……一か八か……!!)

「アクリア、ネフラ!」


(防御を固めても打ち破られるのはわかっているはずだ。一か八かすべて躱すか?……さて、どう来る?)


 エメスはいつでもノーマを撃墜できるように構えていた。そして、ノーマは出てきたのだが―――


「は?」


 エメスも、周りも、この言葉しか出てこなかった。ノーマは水の竜巻に振り回されながら出てきた。

 風と水の精霊術、身体強化の重ね掛けで自身を保護、軽くなった身体と水の精霊術の力で水の竜巻に干渉し、水流の一部を掴むことで実現した奇策だった。


(竜巻の勢いを逆手に取られて狙いが定まらない。解除を―――)

「…… …… 今!」

「……! ええい!」


 解除が間に合わず、ネフラでタイミングを計っていたノーマは水の竜巻から手を放して、エメスのいる方向に飛んだ。回転力がそのまま推進力になっているため速度が速い。その速度はエメスといえど捉えるのは難しく、発射した火球は空を切った。

 飛びすぎてエメスを通過し、振り回されたことで酔ってしまったが、気力でねじ伏せて風の精霊術と身体強化でエメスに接近しながらルビィの火の精霊術を高めていた。


(拡散型の火球、至近距離なら当たるはず……これで、決める!!)

(……まいったな、大技使ったせいで迎撃が間に合わないか。……だが、師としての面目もある。少々大人げないが悪く思うなよ)


「……グイッタ!!」

「……っ!? しまっ―――」


 突如放たれた眩い閃光がノーマの視界を奪い、怯んだ一瞬の隙が勝敗を分けた。


「……イアープ!」


 激流がノーマを飲み込み、為すすべなく地面に叩きつけられた。それでも諦めず、立ち向かおうと顔を上げた眼前には、火球を構えるエメスとトロバがいた。


「…………参り、ました……」

「……もういいのか?」

「さっきの精霊術がイアープじゃなくてトロバだったら、わたしはこうしていられませんでした。……どのみち、あの攻撃に対処できなかった時点で、わたしの負けです……」

「……そうか」

「師匠……わたしは、全力でやったつもりです。……どうでしたか?」


 エメスはしゃがみ、ノーマと目線を合わせる。そして、デコピンを飛ばした。


「あうっ!?」

「滅茶苦茶やりすぎだ馬鹿者。あんなの教えたつもりないぞ」

「うぅ……」

「……だが、お前らしかった。……よくやった」


 ノーマを労うように、エメスは優しく頭を撫でた。エメスの言葉に、報われたような気持ちや嬉しさ……様々な感情が込み上げ、それは涙となって現れた。


「師匠……師匠~~~っ!!」

「えっ、なんだ、なんで泣いてるんだ!?」

「わたし……わたし、師匠に……見限られたと、思って、うわぁぁあああーーーんっ!!」

「み、見限る?待て、なんの話だ!?……ええい、泣き止め、周り視線が痛いんだよ!」


 その後は、泣きじゃくるノーマを連れて別の場所に移動し、エメスはノーマが言った言葉の意味について聞こうとしたのだが……


「……チェイン、シルト。なぜ、お前たちまで来たんだ?」

「ノーマさんの精霊術についてお聞きしたく」

「友人として心配だったので……ご迷惑であれば下がります」

「……まぁいい。ノーマ、改めて聞かせてくれないか?わたしがお前を見限ったとはどういうことだ?」

「……ニードルモスを倒せなかった日に、お茶を持って行ったときに「最悪、諦めるしかないか……」って……」

「……ああ、あれか!聞こえてたんだな。」

「師匠は気に入らなければ他の人のところに押し付けるって言ってたし、でも、わたしは師匠から学びたかったから……それで、なんとかしなきゃって」

「……そういうことだったのか」

「だから、認めてほしくて、頑張って……空回って……呆れられたと、見限られたと思っていたんです……」

「……わたしも存外鈍いな。……すまなかった」

 

 ノーマの本音を聞き、エメスは謝罪した。そして、エメスの口から真意が語られる。


 お疲れさまでした。


 あけましておめでとうございます。昨年はブックマーク二桁、初評価、初いいね。嬉しいことがたくさんありました。今年の目標も立てたいところですが、課題が多すぎるので一先ずは「飽きられないように頑張る」にしておきます。

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