第3話:物事の司会役って案外、頭を使う仕事だ
水泳リレーガチバトル、開幕です。
「第一回、チキチキ征咲VS岡工、正成と凜ちゃんの生死を掛けた大水泳リレーバトル!!」
司会役の征咲高水泳部員、橋本洋一が甲高い声で叫んだ。
『うおぉぉぉぉぉ!』
会場は凄く盛り上がっている。
「さて、本日の司会を勤めさせて頂く橋本洋一です。よろしくお願いします!!」
『うおぉぉぉぉぉ!』
征咲、岡工関係無しに盛り上がる会場。
「では、まずルール説明をします!」
洋一はそう言うと、手元の紙を見た。
「今回のリレーバトルは4対4で行われ、先にアンカーがゴールした方が勝ちです。そして、第1選手は平泳ぎ、第2選手はバタフライ、第3選手は背泳ぎ、第4選手はクロールで、1人25メートル泳いだら次の選手にバトンタッチ」
洋一はここで一回深呼吸をした。
「ちなみに、審判は平等に各校から2人ずつ、計4人でジャッジします。
そして、岡工が勝負に勝った場合、正成の命と凜ちゃんの今後が岡工に渡されます。
しかし、征咲が勝負に勝った場合、山田君は正成のパシリに!
さぁ、いよいよ選手の入場です!!」
洋一の言葉を合図に、プール更衣室から8人の男子生徒がぞろぞろと出てきた。
「選手紹介!まずは岡工だ!
平泳ぎは斎藤博一
バタフライは笹本正
背泳ぎは福沢真治
クロールは山田誠
続いて征咲!
平泳ぎは若松翔太
バタフライは中崎諒
背泳ぎは山城敦史
クロールは谷笠正成
以上8人だ!」
「うおぉぉぉぉぉ!」
「かんばれ岡工!」
「山城部長頑張れ!」
「誠行けぇ〜!」
「正成、凜ちゃんを守れよ!」
プールサイドからの激しい応援、結構近所迷惑だ。
「では、各選手は自分の位置にスタンバイしてください!」
洋一の甲高い声が辺りに響く。
「ったく、洋一のヤロー調子乗ってるよ」
正成はプールサイドの反対側にいる洋一に向かいガンを飛ばす。
「おい、正成、大丈夫か?」
「あ、山城部長」
今、正成に話掛けて来たのは水泳部部長の山城敦史、三年生だ。
「正成、お前アンカーなんだから、しっかり頑張れよ」
敦史は軽く正成の肩を叩いた。
「・・・負ける気はしませんね」
今度は誠に向かいガンを飛ばす正成。
誠はこちらの視線に気がついていないらしく、辺りをキョロキョロしている。
「始まるぞ、正成はこっち側じゃなくて反対側だろ?」
「あ、そうだった」
正成はプールサイドを歩き、所定の位置へ。
その時、正成はふと、どこからか視線を感じた。
正成はプールサイドの端っこ、観客席の方を見た。
何となくだが、そこから視線を感じたからだ。
そこには、怒りの表情をした凜奈の姿か。
(うわっ!何ちゅう顔してんだアイツ!)
正成は一瞬戸惑ったが、結局凜奈をスルー、正成は所定の位置へ。
そして・・・
「では、いよいよスタートです!」
洋一がピストルを空に向けて構える。
両校第1選手は、既に飛び込みの構え。
風がすーっと吹いた。
プールの水は静かに小さな波を打つ。
辺りが静寂の中、両校の応援だけがこの場に響いていた。
「位置について」
正成は軽〜く深呼吸。
「よーい」
洋一は耳を片手でグッと閉める。
第1選手の2人はぐっと息と唾を飲む。
そして・・・
「ドンっ!!」
パァァァン!!
洋一のドンっ!と、空砲の音が重なった。
そして、それと同時に第1選手の2人はプールへダイブ!
バッシャーン!!
『うおぉぉぉぉぉ!』
会場のボルテージは一気に上昇!
(・・・始まったか)
正成は軽くストレッチを開始。
ぐいっと伸びをする。
「谷笠、テメェぜってぇ殺すからな」
隣でスタンバイしている誠がガンを飛ばしてくる、が、正成は無視。
「調子乗ってんなや」
誠はさらにガンを飛ばすが、正成は無視。
「テメェっ!!」
その時、会場が一層うるさくなる。
『行けぇー!!!』
いつの間にか既に選手は2人目、競技はバタフライになっていた。
「早っ!!」
正成は急いでストレッチを続行する。
現在、征咲が約5メートルほどリードしている。
そして第3選手、征咲は敦史にバトンタッチ。
「ははは、このままじゃ君は俺の奴隷だな」
正成は軽くにやけながら隣の誠を見る。
「・・・やべぇ」
まさかの展開に誠はア然。
現在両校とも第3選手、背泳ぎ。
しかし、征咲が約10メートルほどリード。
「正成!!」
「了解!!」
敦史が25メートル泳ぎ切り、正成にバトンタッチ!!
「じゃあな、誠っちゃん!」
正成はにやけながらプールにダイブ、クロールで泳ぎ出した。
「あの野郎!!」
そして、約10秒ほど遅れて岡工もバトンタッチ。
「くそっ」
誠が急いでプールにダイブするも、正成は既にゴール寸前。
「お先〜!」
正成は何事もなく普通にゴール。
接戦もクソもあったもんじゃない。
征咲の圧勝だ。
「あああ〜!!」
誠の悲しい悲鳴が聞こえた。
「呆気ないないな」
正成はまだ泳いでいる誠に向かい言った。
『うおぉぉぉぉぉ!』
会場は多いに盛り上がった。
結局、あのあと岡工のメンバーは逃げるように去って行った。
誠の奴隷計画もあやふやのまま。
正成は勝ったのにも関わらず凜奈からナックルパンチを貰った。腹に。
そして、鏑木からはこってり怒られた。本人もノリノリだったくせに。
ぶっちゃけ、呆気なく終わってしまったな・・・が征咲水泳部員の感想だった。
そして翌日、月曜日。
正成は何事もなく、いつも通りに朝1登校、しばらくしてから皆が次々に登校してきて、8時50分に朝のSHLが始まった。
そこで、ちょっとした事件が起こった。
いつも通り、担任の高橋が点呼(出席簿)を取っていた。
「よし、今日も全員・・・ってあれ?泡岸がいないな。誰か知ってるか?」
その言葉に、今まで机に俯せて寝ていた正成は目を覚まし、ちらっと隣の席を確認。
誰も座っていない席が隣にあった。
「無遅刻無欠席の泡岸にしては珍しいな」
高橋はあっさりとスルーする。
(・・・凜奈の奴、寝坊か?)
正成も少しは疑問を持ったが、すぐに忘れた。
そして昼休み。
正成は雄大と拓海と雑談中。
「あ〜あ、暇だ〜」
拓海が暇そうにあくびをした。
「んだよ、暇なら彼女んとこ行ってイチャイチャしてこいよ」
正成は半分死んだ目をしながら言った。
「校内でイチャイチャ出来るかバカ」
拓海はまたあくび。
「いい加減教えろよ、お前の彼女」
正成の目はまだ半分死んでいる。
その時、
「メールガキマシタ、メールガキマシタ、シキュウカクニンヲシテクダサイ」(正成のメール着信音)
「んあ、メールだ」
正成はポケットから携帯を取り出し、メールを確認する。
「正成、まだメールの着信音それだったの?いい加減変えたら?そのダミ声着信音」
拓海が突っ込む。
しかし、いつもは反論してくる正成が反論して来ない。
「正成?どしたの?」
珍しく雄大が話し掛ける。
しかし、正成はそれも聞かず、メールを凝視。
そして、
「なんかヤバイ事になったみたい」
正成は2人にメールを見せた。
拓海と雄大は携帯の画面を確認。
そこには・・・
「谷笠、今日の昼休み、学校を抜けて上谷倉庫まで来い。誰にも知らせずに1人でだ。いいな?もし来なかっり、他人に知らせでもしたら・・・」
そして、このメールの下には1枚の写メが。
そこには、倉庫の中、床に倒れている凜奈の姿が、そして、辺りには覆面軍団の姿が確認できる。
「ま、正成!これって・・・」
拓海は大慌て!
「メールの差出人は泡岸さんからの携帯からだ。おそらく誘拐だな」
雄大はメールの文章を隅々まで確認する。
「・・・多分、岡工の連中だろうな」
正成は画像を確認。
「ほら、この覆面軍団が着ている服は岡工の学ラン制服だし」
「ま、正成、どうするの?」
拓海は大大大慌て!
「警察に通報する?」
雄大は自分の携帯を取り出す。
「まあ、一旦落ち着こうぜ。とりあえず1回凜奈の携帯に確認のメールを送ろう。一応な」
正成は携帯のメールを打ち始める。そして送信。
しばらくして着信音が鳴った。
「・・・・・」
正成は無言でメールを読み、2人に見せる。
そこには・・・
「谷笠、早く来い」
の、1文だけ。
「俺、ちょっくら行ってくるわ」
正成は椅子から立ち上がる。
「あ、危ないよ!」
拓海は大大大大慌て!
「大丈夫。何かあったら電話するから」
正成は自分の鞄を持ち、ゆっくり教室を出る。
「雄大、次の授業なんだっけ?」
「長谷部の数学」
「じゃ、適当に言い訳しといて」
「気をつけろよ」
雄大は携帯をしまう。
「ちょっと、雄大何言ってんの!ここは止めるべきじゃ・・・ってアレ?」
「拓海、正成ならもう行ったよ、ダッシュで」
雄大は数学の教科書を机の上に出した。
「もし、今日中に正成から連絡が無かったら、警察に届けよう」
「でも・・・」
拓海はやはり不安そうな表情。
正成は駅へ急いだ。
非日常的な正成の日常、次回、本当に非日常的な事が正成に起こります。




