2060年、みんな大好きなアレは極度に小型化していた
時は2060年
震える右手でピンセットを操り、私はアレをつまみ上げた。
双眼実体顕微鏡の視野に目標物が入る。
その四角いパッケージの大きさは縦横2㎜しかない。私はピンセットの先端でそれを抑えながら、左手の小型カッターを近づけた。
開封は、袋の中の目標物を壊さないよう、注意深く行わなければならない。
70歳を過ぎた私にとって、この作業は大変だ。
若い頃、私はこの作業を簡単にできたのだ。
なぜ今それが難しくなったのかというと、もちろん視力と指先の感覚が衰えたということもあるが、そんなことは大した問題ではない。
ソレが極度に小型化してしまったことにすべての原因があるのだ。
子供の頃、ソレは現在とは比較にならないくらい大きかった。ソレをパッケージから取り出す作業は、皆素手で行っていたのだ。まさかその頃は、将来的に顕微鏡とピンセットを使うことになるとは、誰も予測できなかった。
カッターでパッケージの端を切り、ピンセットで目標物を取り出す。
目標物は、直径1.5㎜程度の円形をしている。
ここまでは順調だ。
だが、最後の最後で落としてしまっては台無しだ。
気を付けなければならない。
私は、慎重な手つきでカントリーマアムを口の中に放り込んだ。